拍手ありがとうございます。
こちらは御礼の拙い荒ハムSSです。

久々にイベント関係なしのネタを。
まぁ、朝のツイッタで見た呟きがもとネタだったり。
auが羨ましいなぁ。




∞―――――――――∞ 呼会(こえ) ∞―――――――――∞





- その声は、どこにいても届くから -





(ねみぃ・・・)


朝のキッチンに立ちながら、荒垣は思考の回らない頭を振った。
それでも手の動き、足の運びが滞ることがないのは一重に身体の慣れのせいだろう。

卵を割り、カラザを取りのぞいて手早く掻き混ぜる。そこに蜂蜜を入れるのは、甘い卵焼きが好きな透流のために他ならない。
コンロの上では、その間に火にかけておいたフライパンが、丁度よく熱を持ちはじめている。
バターを一欠入れ、ジュワッっと音を立てて良いにおいが立ち上るのを確認すると、荒垣は手早く卵液を流し込ませた。
バターの香りと、ほんのりと甘いにおいがキッチンに広がった。





「おはようございます・・・・。うぅ、眠いよ~先輩。」

目を擦りながら、おぼつかない足取りで階段を降りてきた透流に荒垣は苦笑を浮かべた。
いつも以上に眠そうなのは、突発で入った朝錬だからだろう。

「ほら、丁度珈琲が入ったとこだ。しっかり目ぇ覚ませ。」

火傷するなよと釘を刺しながら、淹れたての珈琲が入ったマグカップをカウンターに置く。
すでに朝食がセッティングされたそこは、透流がいつも朝ごはんを食べるときの定位置になっていた。
大人しくそこに座り、マグカップを両手で持ちながらまだ眠そうな顔をした透流がぼんやりと荒垣を見上げた。

「先輩、お母さんみたい。」
「誰がだ」

ふにゃっと顔を緩ませた透流に、半眼で睨みつけながらすかさず突っ込みをいれた荒垣だったが、その手はポンと透流の頭上に乗るとワシワシと髪を掻き混ぜた。
まだ結い上げていない髪の柔らかな感触が荒垣の手に心地よかった。

「さっさと食って準備して来い。その間に弁当作っててやっから。」
「は~~い!いただきま~~す♪」

まだ眠気は残ったままの顔で、しかし元気よく返事をして早速卵焼きに箸を伸ばす透流。
その姿に満足げな笑みを浮かべると荒垣は再びカウンターの奥へと向かった。

後ろから聞こえてくる「美味しい」「幸せ」「大好き」の連発に毎度の事ながら苦笑を浮かべる。
毎日毎日飽きもせずに彼女の口から零れる言葉が、荒垣のこころに小さな幸福を積み重ねていることを当の本人は知っているのだろうか。そう思わずにはいられない。
彼女の愛用の弁当箱に、おかずをバランスよく詰めながら、荒垣はふっと小さく息をついた。




「それじゃぁ、先に行ってきます!!先輩、また後で学校で~~~」
「おぅ。気ぃつけていけよ。」

大事そうにお弁当をカバンにしまってから、透流は深呼吸一つ勢い良く扉から飛び出していく。
その後姿を見送って、荒垣は自分の分の弁当を持つと自室へと足を向けた。

今日も、朝錬の日の朝の日常が始まったのだと感じる。
部屋に戻り、ちょっと早いが制服に着替えようかと思った時、其れは不意に荒垣の耳に飛び込んできた。


『おはよう、真次郎さん。』


慌ててベットの枕元に置いてあった携帯電話を手に、アラームを切る。
誰が見ているわけでも、聞いているわけでもないのは分かっていても顔が熱くなるのを止められない。
いつものスケジュールで設定していたせいで、突発の朝錬日程の目覚ましと重複してしまったのだと気が付いた。
荒垣は大きく息を付くと、スヌーズの設定もオフにする。これ以上鳴ってはいたたまれないと思ったからだ。

『おはよう、真次郎さん。』それは透流がいたずらに吹き込んでいった目覚ましボイスだった。
まさか本当に荒垣の目を覚まさせるものになっているとは、当の本人はやはり知らない。


確かに、荒垣は元々朝に弱かった。元来低血圧ということもある。
しかし、この二年間はそこにさらに拍車をかけたものがあった。

例え深く眠ることができなくても、浅い眠りの闇だけが自分を罪の意識から逃避させてくれた。
夢を見てしまえば、それが繰り返される悪夢に変じると知っていても、墜ちて行く時だけは楽になれた。
そうしていつのまにか、縋るように眠りの闇に身を委ねるようになっていた。

そんな日々に、その『声』は光を差し入れた。


墜ちていく自分を照らし、光の方へと誘う呼び声
目を覚ます事が恐ろしかった日々からの・・・・解放



透流の『声』が自分を呼び覚まし、そして目覚めれば彼女に会う幸福がそこにある。

それを透流はきっと知らない。
何も自覚などしてはいない。

そして、そんな彼女だからこそ・・・・・・かなわないのだと心底思う。




いつのまにか握り締めていた携帯電話を胸のポケットに大事にしまう。
けれど、ここにあるのは『声』だけでしかない。
きっと今頃、あの眩しい笑顔を浮かべて外を駆け回っているに違いない。

さぁ、会いに行こう。
その呼び声に誘われるままに。


- 新しい一日が始まりを告げた -




∞――――――――――――――――――――――――∞
中井Voiceが目覚ましという呟きを見て思いついたネタ。
先輩、ハム子の目覚ましボイスだったら起きるんじゃないか!?みたいな
えぇ、妄想ですから!!!! ←開き直り





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