東京にも何度となく雪が降った。
北海道ほど寒くはないけれど、それでも寒い事に違いはなくて、あの日貰ったマフラーのありがたみを実感していた。

「降谷!」
「あ、先輩」

あの日のように、後ろから聞こえてきた声に、いつもより少しだけ心臓が早くなった気がする。
振り向く前に分かる声。
名前を呼ばれるだけで、嬉しいと感じた。

「お前手袋どうした?この前はしてただろう」
「・・・あ」
ワンライより。降純「冷えた指先」


先輩の言葉に、自分の手を見つめた。
寒い筈だ。
マフラーはしっかり巻いたのに、手袋を忘れていた。

「あ、じゃねーよ。あーあ、めちゃくちゃ冷たくなってんじゃねーか!」
「?!」

見つめた掌に、手袋をはめた先輩の掌が重なった。
慌てて視線を上げると、眉間に皺を寄せた真剣な顔があって、余計に心臓が早くなった。

「先輩、あの・・・」
「さすがに手袋はやれねーからな。今日はカイロも持ってねーしな」
「あ、ありがとう、ございます」

少しでも温かくなるようにと、掌をこすり合わせてくれる。
それを見つめていたらジワジワと体温が上がってくるのが分かった。
先輩の手袋越しの体温。
広がっていく熱に、目眩がした。

「あの、もう大丈夫、です」
「ん?そうか?」
「はい」

震えそうになる声に、ドキドキしながら大丈夫だと訴える。
パッと合った視線に、顔まで熱くなった。

「・・・」
「・・・」
「黙るなよ」
「すいません」
「チッ、明日は忘れんなよ!」
「はい」

自分のした事に、今更恥ずかしくなったのか、先輩の顔まで赤くなっていて、これが先輩がよく読んでいた少女漫画だったら、このまま抱きしめても怒られないんだろうななんて考えた。

今、とても心臓が痛い。



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