ワンライより。降純「マフラー」


11月を半ばも過ぎれば、一気に寒さも増し、吐く息が白くなっていた。
北海道にいた頃を思えば、ずっと遅い冬の訪れ。
それでも、この東京にも冬がやってくるのが分かって、少しだけホッとした。
冬は嫌いじゃない。
いい思い出が少ないだけ。

「降谷じゃねーか」
「あ、伊佐敷先輩」
「何か久しぶりな気がするな。ちゃんとやってっか?」

後ろから聞こえた大きな声は、振り向く前からその人である事が分かる程、自分の中で耳に馴染んだもので、夏を思い出した。

バシバシと遠慮なく背中を叩かれ、痛いと返せば、楽しそうな笑顔があった。
あの頃と変わらない笑顔に、胸の奥がチクチクする。
この人が笑うと、この人が誰かと居ると、この人に名前を呼ばれると、何故か胸が痛い。

「今日は一段とさみーから、ちゃんと暖かくしとけよ!」
「はい」

よく話、よく笑う先輩の口から、言葉と一緒に白い息が吐き出される。
寒さで赤くなった鼻と、首に巻かれた温かそうなマフラーのギャップに、また胸が痛くなった。

「返事は立派だけどよ、お前、マフラーとか持ってないのかよ」
「マフラー・・・多分、無いです。手袋は御幸先輩に言われたんで」
「ねーのかよ!御幸のやつ、手袋だけじゃねーだろったく・・・。ほら」
「え?」
「投手が肩冷やすんじゃねーよ」

そういえばマフラーは捨ててしまった気がする。
手袋は御幸先輩に言われて最近買った。
それを告げると、御幸先輩への悪態と共に、スルスルと自分のマフラーを外して、まるで投げ縄のように、僕の首めがけてそれを放り投げた。
フワリと首と肩にかかったマフラーには、まだ先輩の熱が残っていて、心臓が跳ねた。

「先輩は・・・?」
「部屋にもう一本あるから心配すんな。ちょっと早いけど、それは俺からのクリスマスプレゼントだと思え」
「ありがとうございます。あったかいです」
「ん」

満足そうな笑顔。
あたたかい。
ジンワリと広がる熱。
胸の痛みすら打ち消すような、熱。
痛みの理由に、熱の意味に、気付いてしまったかもしれない。

けれど、今はこのマフラーに、寒さのせいじゃなく赤くなった顔を埋めて、先輩と、後輩でいよう。



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