子守唄
(十三支演義 / 関羽+張飛+趙雲)
※中途半端にコメディ。ついでに設定や時系列などはパラレルと考えてください。それら全て許容できる方だけどうぞ☆
「うおーい、姉貴ー!」
長い廊下をやってくる関羽の姿を認め、張飛はぶんぶんと手を振りながら彼女に駆け寄った。
猫族でありながら尻尾を振ってご主人様のもとに駆け寄る犬のような張飛に微笑ましさを感じながら、趙雲もゆっくりと彼の後をついていく。
「関羽、いい夜だな」
「あら、二人ともこんばんは」
にこりと関羽が微笑むが、その中に少しの疲労の色が見えて張飛と趙雲は首を傾げた。
関羽がやって来た方向には劉備の部屋がある。
ぴんと来た張飛が関羽に尋ねた。
「姉貴、もしかして今、劉備を寝かしつけてきた帰り?」
「ええ、そうなの。だけど今夜は劉備がなかなか寝付いてくれなくて、少し手間取ってしまって……」
「そっかぁ。それで疲れた顔してんだな」
「俺と張飛は今から鍛錬しに行くところで、お前も一緒にどうかと思っていたのだが……」
その様子では無理なようだなと趙雲が苦笑すると、関羽も残念そうに笑った。
「わたしも久しぶりに二人と手合わせしたいところだけど、ごめんなさい。疲れ以前に今夜は先約があるの」
「先約? 誰と?」
「曹操と」
「曹操!?」
あっけらかんとした関羽の回答に、張飛と趙雲の驚愕の声が重なった。
「関羽……。『曹操と』って、こんな夜遅くにか?」
「夜遅くだからこそよ」
「ちょ! 姉貴!? こんな夜に曹操なんかと何するってんだよ!」
「何って、曹操を寝かしつけるだけよ?」
再びあっけらかんと告げた関羽の言葉に、先程以上の驚きをもって張飛と趙雲が目をむいた。
「曹操を寝かしつける!?」
「な、なんだよそれ! なんでそんなことになんの!? あああああ姉貴ぃぃぃ! 嘘だろ? 嘘だよな? ――嘘だって言ってくれよおぉぉぉぉ!!!」
完全に混乱しきって取り乱し始めた張飛に代わり、趙雲が緊張の面持ちで関羽に尋ねた。
「参考までに聞きたい。いったいどうやって曹操を寝かしつけるんだ?」
「膝枕をするか寝台で一緒に横になるかはその日の曹操の気分次第だけど、最近はわたしが歌を歌ってあげるのよ」
ふぅ、と息をついて関羽は肩を抑えた。
それは子守りに疲れて肩を揉みほぐす母親の姿を彷彿とさせ、ある意味、色気も何も感じられない。
趙雲は、関羽と曹操の間には自分たちが危惧するようなことは何も起こっていないのかもしれない――とは思った。
けれど。
「劉備も曹操も、わたしじゃないと眠ってくれないから……」
手がかかって本当に困ったものだわ――とでも言いたげでありながら、関羽の表情と口調は慈愛に満ちている。
「今日は何曲目で眠ってくれるかしら。今夜はわたしも少し疲れているから、早く寝付いてくれると有難いのだけれど……」
そう独りごちてから、関羽は趙雲といまだ一人で混乱の極みにいる張飛に別れを告げ、彼女を待つ曹操の部屋へと向かっていった。
張飛の肩にぽんと手を置き、趙雲が言う。
「……さあ、鍛錬に行こう。汗を流し、体を酷使し、戦いに集中し、今夜見聞きしたことは全て忘れるんだ」
「趙雲~……、忘れるっつてもよぉぉぉぉ……」
「いいから忘れるんだ。いろんな意味で、俺も頭を空っぽにしたい」
関羽の子守唄で眠る曹操の姿も、曹操をやさしく寝かしつける関羽の姿も、どちらも想像すらしたくない。
それに、その話を張飛と趙雲が聞いたということを曹操が知ったなら。
それを考えるのも恐ろしい。
趙雲はめそめそと泣き続ける張飛を無理やり引きずって、鍛錬場へと向かうのだった。
※拍手お礼小話は現在これ1種です。