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おうち新今①「台所」
「今日暑いしそうめんでいい?」
「いいですよ。米どうします?」
「いる。」
体格のいい男が二人並んで立つには少々窮屈なキッチン。
流しの上から鍋を出して水を入れ、新開が火にかけると今泉は冷凍ストックしていたご飯を取り出してレンジへ放り込んだ。
「なんか、随分所帯じみたなぁ。」
お坊ちゃんだったのに、と笑う新開に今泉がムッとしたように口を尖らせる。
とは言え、こうして実家を出るまでは何もできない、してこなかった事は事実で言い返す言葉は出てこなかった。
「そんな事言ってると、米無しにしますよ。」
「ええ~それはダメ。」
沸騰した湯が煮立つ鍋へ豪快にそうめんを入れた新開が慌てて振り向くと今泉がふんと鼻を鳴らした。
「俺はおにぎりにしますけど。」
「ええ、俺の分も握ってよ。」
「自分でどうぞ。」
ツンとそっぽを向いた今泉に新開の眉が下がる。
少し気が晴れたので、今泉の口角が上がって結局二人分のおにぎりが握られる。
最初は不格好だったそれも今ではちゃんと三角だ。
茹で上がったそうめんを水で締めて、皿に盛って。
「面倒だしそのままでいっか。」
「雑…。」
器は揃いで2つ、薬味を乗せてつゆを掛ければ出来上がり。
「あ、ちゃんと俺のもある。」
「ついでだったんで。」
「サンキュ。」
そう言って新開の唇が今泉の頬を掠めていく。
並んで立つには窮屈だけれどその分近い距離は、嫌いじゃないかなと今泉は小さく笑って台所を後にした。
2020/06/27
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