拍手ありがとうございます！活力になります…！

さらに下のコメント欄に一言でもお言葉頂ければ嬉しいです。

サイトや小説の不具合や感想、意見や報告などお気軽にどうぞ！

コメントに関しては、topのプロフィール下のmemoにてお返事いたします。

返信不要の方、匿名希望の方はその旨をお書き下さいませ。



アレン、神田、ラビ、リンク、クロス、ティキ

…の6点ランダムでお届けしております！

どうぞお楽しみください！








がやがやと騒がしい談話室で一人頭を抱えている彼女は、目の前のテーブルに乗せられたチェス盤を凝視していた。

「うーん………」

「考えすぎも盲点を生んだりするんですよ？」
「もう、分かってる！アレン静かにしてて」


かれこれ数分も次の一手を悩んでいる彼女を前に、僕は既に冷め始めたカフェオレの入ったマグカップを口に付ける。３度目となるこのゲームの前に淹れてきたばかりなのだが、彼女の負けず嫌いな性格が本領を発揮して何とか勝利しようと悩む時間が長くなっていくため、カフェオレはどんどん冷めていく。


「ここだっ」

駒と盤が擦れる音がして、ゲームが進む。次の一手を探すべく盤の方へ集中すると、目の前からの視線に気づき、僕は顔を上げた。


「何ですか？」
「ん？ううん、今回こそは勝てそうだなーって」


にやにやと笑みを浮かべる２連敗中の彼女だが、確かに今回ばかりは圧倒的優勢。僕自身も軽い気持ちで挑戦を受けたこのゲームは負けてしまうかな、と思っていた。ついでに言えば、負ける事に本気で悔しがる彼女に華を持たせるべく、負けてもいいかなと思っていたのが本音だ。最も、そんなことを言えば「本気でやってよ！」と怒られるだろうから、決して口にはできないのだが。


「ねえねえ、アレン。罰ゲーム設定しようよ」
「え？罰ゲーム？」
「そう。負けたら何かする、とか」


３度目にして優勢を喫している彼女はとにかく勝った実感を得たいらしい。僕が「そうですね…」と悩んでいると、了承よりも先に「じゃあ！」と提案が飛んできた。


「負けた方が勝った方の言うことを何でもひとつ聞く！」
「何でも、ですか？」
「そう、何でも！」


ずいっ、と体を乗り出して提案されたこの案に、「いいですよ」と僕は笑顔で了承する。言い出したのは彼女の方で劣勢の僕は言われるがままに提案を飲み込んだのだ、後で無かったことにしようとは言わせない。僕は思いつくままに動かしていた駒の動きを先読みし、盤を見つめた。


「さー、アレンには何してもらおっかな～」
「…勝つ気満々みたいですけど、ゲームの経過はきちんと見ておいたほうがいいですよ」


僕の忠告で、優越感に浸った表情のまま盤を見下ろした彼女の表情が一変する。

「えっ、嘘、なんで！？」
「c2、クイーンを動かしました」



恐らく想像していた動きではなかったのだろう、次の一手で王手を指される窮地に突然立たされた彼女が真っ青な顔色で慌てる様子は可愛らしかった。負けて悔しがる姿を見れたのもジョニーに鍛えられたチェスのおかげのではあるのだが、せっかくなら罰ゲームとやらの権利も獲得したい。ここからの僕は本気だ。


「こうなったら、キングを動かすしかないじゃん…」
「よーく考えてくださいね？」


僕の忠告も聞かず、焦った彼女が自駒である白のキングを真っ先に動かす。これでどうだ、と言わんばかりに見つめられた僕は、一瞬悩んだふりをした。


「そう来ると思ってました」
「え」


目が合ったままにこりと笑った僕は、盤の上で遠く離れたビショップの駒を動かし、コン、と白の駒を倒す。倒された駒は盤の外に転がり、テーブルの上でぴたりと止まった。


転がった駒を見つめたまま動かない彼女の視線の先でそれをつまんだ僕は、「さて」と盤の上に拾い上げた白のキングを突き立てる。


「チェックメイト。敗者が勝者の言う事をなんでも聞く、でしたっけ？」
「う……いや、次のゲームからでも…」
「待ったはナシ、ですよね？」



コンコン、と盤の上で爪を弾くと悔しそうな彼女が言葉を飲み込んだ。満を持しての罰ゲーム、僕は目の前でシュンと耳を垂らす可哀想な子犬のような彼女に白のキングを差し出すと、彼女が困ったように首を傾げる。


「罰ゲームは、もう一ゲーム。どうですか？」
「……やるっ！」


雨に濡れたような子犬の目をした彼女が、ぱっと明るい笑顔を浮かべて僕からキングを受け取った。つくづく僕は彼女に甘いなと思うが、こんな夜更けに彼女と向かい合っていられるだけで十分贅沢者なんだろう。


「アレン、どうしたの？もう一ゲームやるんでしょ？」
「次のゲーム、君にどんな罰ゲームを命じるか考えてました」
「次は負けないから！」


絶対、と言い切る彼女を前に、「望むところです」と、僕は笑った。