さみしくなったら呼んで 天根ヒカル

「ねえ」
あたしの彼氏は口ベタなほうだ。喋らないわけじゃないけど、話が上手いほうじゃない。
「なぁに?」
別れ難いかのように、繋いだ手をきゅっと握ってくれるのが嬉しい。ここが駅の改札前で、人がたくさんいて、中にはこっちを見てる人もいて、とかそういうことが気にならなくなるぐらいには。
「どうしたの、ヒカル」
そう言いながら、あたしはヒカルが次に何を言うのかを知っている。知っていて、わざと催促した。だって嬉しいんだもの。
「さみしくなったらいつでも呼んでね、メールでも電話でもなんでも。どうしようもなくなったら、ぜったい」
ヒカルは一つ、頷くように首を振る。
「ぜったい、会いに行くから」
あたしの家はヒカルの家とかなり離れていて、電車を乗り継がないと辿り着けない。ヒカルが自転車乗るのに慣れてていくら早くこいだとしても、一時間はかかるだろう。でも、それでも。
「うん、ぜったい呼ぶ」
それでも会いに来てくれる。
あたしは確信をもって頷く。別れ際ってのは悲しいに決まってるんだけど、あたしたちに限っては、あたしに限っては、幸福だ。だって嬉しいんだもの。ヒカルはあたしを喜ばせるのが上手い。
「じゃあね、またね」
「うん、またね」
学校も違うあたしたちは、たまの休みにしか会えない。いつもはメールと電話で二人の時間を作っている。寂しくなっても、メールしたら必ず返事がくるし、電話したら出てくれる。たまに外野がうるさいときもあるけど、ヒカルはそれを理由にしてあたしとの電話を蔑ろにしたりしない。いつでも真面目に取り合ってくれる。
あたしは改札をくぐって、幸福感でいっぱいの身体を振り向かせる。改札の向こうでヒカルが手を振っている。大きく手を振り返して、それから、とんでもなく幸せな気持ちで階段を登った。あたしたちは、ずっと一緒だ。


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