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『テニプリ』小説『健やかなるときも病めるときも』

 僕――不二周助――は、手塚国光とドイツのカトリック教会で式を挙げた。
 参列者は少なかったけど、みんな祝福してくれた。というより、祝福してくれそうな人しか招ばかなかったから。
 僕と国光の家族。中学時代の青春学園テニス部の面々。――菊丸、大石、乾、桃城、海堂、タカさん。
 そして……越前リョーマとその伴侶跡部景吾。
「よぉ、手塚、不二、結婚おめでとう」
「あ、ありがとう……」
「幸せになってくださいっス。部長。俺達のように」
 越前がさらっとのろける。
「ああ、越前……」
 泣きそうになる国光を跡部が支えた。
 さっき、誓いの言葉で出ていた、
「健やかなるときも病めるときも」
 ――どんな時でも、僕達はひとつでいようと思う。死が二人を分かつまで。
「いい結婚式だったぜ」
 跡部が国光の肩をぽんぽんと叩く。跡部はその言動で誤解されやすいが、本当はいいヤツなのだ。例えナルシストであっても。
 そして――跡部は国光のことが嫌いではないようなのだ。恋ではない。宿敵と書いて『とも』と呼ぶ関係なのだそうだ。
「俺様も応援する。――幸せになれよ」
「ああ……ありがとう」
 僕も国光も感極まって泣き出した。
「何だよ、不二まで……」
 跡部が笑う。でも、気にしないんだ。
「だって……本当に国光と結婚出来る日が来るとは思わなかったから……」
「おめー、あの不二由美子とかいう有名な占い師を姉に持ってんだろ? 占ってもらわなかったのか?」
「――由美子姉さんは僕の味方だったよ」
「良かったな」
「うん……」
 僕達は跡部に勇気づけられたみたいだ。越前にもだ。跡部と越前が結婚しなかったら、僕達だってこんな風に結ばれたかどうかわからない。
 ――なんせ、跡部と越前は何もかもを捨てて愛を選んだのだから。
 いや、この言葉は適切ではない。跡部達には名声も富もある。こういうことに偏見が薄れて来た時代。僕達はいい時代に生まれたものだ。
「ロマンチック街道行くんスか?」
 越前の声に僕は我に返った。
「ああ。前にも来たことがあったけどね。国光とは初めてだな」
「周助。ドイツのことは俺に任せておけ」
 眼鏡を外して涙を拭った手塚が言う。ドイツは彼のホームなのだ。中学時代にドイツのテニスチームに所属していたこともある。あの頃、僕達はお互いに覇を競い合っていた。――僕は日本チームにいた。
 それがこうやって結婚出来たのだから、人生というのはわからない。
 因みに僕も国光もタキシードだ。僕は中性的な顔立ちとよく言われるが、ドレスを着る気には流石にならないからね。
 ――跡部は着たらしいけど。
 つい最近、越前に、
「内緒だよ」
 と言って見せてくれた跡部のウェディングドレス姿。跡部はなかなか逞しい体なのに、ぴったりしたドレスが似合っていた。女だと言っても通用するぐらいの。
 ――俺、跡部さんを幸せにします、と越前がはにかみながら言ってたが、そういうのは本人に伝えた方がいいよ。
 そう答えてやったら、
「跡部さんはそういうのうるさがるんですよ。確かに俺は二つも年下だけどね」
 と、ふくれっ面になったので、僕は笑った。
 ――みんな、幸せになるといいね。
「不二~♪」
 中学時代のクラスメートで同じテニス部だった菊丸英二が声をかけてきた。大石も追っかけてくる。菊丸が僕に飛びつく。何と言うことはない。ただのスキンシップだ。
 それなのに、僕は反射的に国光の方を見た。国光はさっきの涙もどこへやら。いつもの仏頂面に戻っていた。
 国光……昔は手塚と呼んでたけど。もっと笑えばいいのに。
 国光は美形だけど老け顔だというので、大人に間違われると不愉快になっていたらしい。昔の話だけど。今は艶やかな髪をオールバックにしている。
「おい、あれやんねーのか。――菊丸は離れろ」
「何だよ。あとべ~のヤツ。仕切っちゃって」
「こういう奴だ。我慢しろ」
 手塚はこう言ってから、僕をお姫様抱っこした。ふわりとコロンの香が待った。
 全員が拍手をしてくれた。
「重くない? 国光」
「周助を取り落すほどやわな体はしていない」
「ふふっ」
 確かに国光はがっしりしていた。彼は肩を痛めたことがあるからそれが心配といえば心配だったんだけど。
 ――幸せだった。生涯の中で一番。
「兄貴!」
 え? 運命はまた僕にとって都合のいい幻覚を見せるのかい? 幸せ過ぎるんだけど、いいのかな――。
 来たのは弟の裕太だった。
「国光、ちょっと降ろして――裕太……仕事は終わったのかい?」
「ああ。観月さんにも手伝ってもらってね」
 観月はじめか――。気に食わない男だが、こういう時は役に立つ。
 裕太は観月と本格的に付き合い出したらしい。僕は反対したいけど。裕太は人の気も知らず、観月さんは兄貴のおかげで更生したよ、なんて嬉しそうに言っているし。
 中身が変わったのが本当だとしても、僕には観月の何か企んでいるようなんふふ笑いが嫌いだ。
 裕太は平気らしいけど――恋人の都合の悪いことは見えないものだ。でもねぇ――それを差っ引いてもどこがいいのかわからない。
 裕太にそう言ったら、兄貴は手塚さん以外は見えないんだもんな、と返されるかもしれないけど。
 僕と国光は教会を出て――車に乗り込んだ。結婚式には付き物の、空き缶を鳴らして走るあの車である。しかも赤い。跡部と越前が用意してくれたらしい。
 それで、僕達は新居に行くのだ。
 両親は都合で来れない。由美子姉さんも忙しい。裕太が来てくれたのは嬉しいけど――。
「いい結婚式だったな。周助」
「そうだね。国光」
「このままロマンチック街道行くか?」
「ああ、あそこは好きだ。けれど、俺達の新居を見てからにしよう」
 その住処は跡部が、
「今までの礼だ。お前らに住まいを提供してやる」
 と言って強引に押し切ったのだ。僕も国光も遠慮したかったんだけど、元氷帝の忍足侑士から、
「ええから、跡部の言う通りにしてやれ。――気持ちはわかるけど」
 と頼まれたので、不承不承OKした。
 けれど――新居を見た時、僕はそんなことも忘れて跡部に感謝したい気持ちでいっぱいになった。
 褪色はしているが、赤っぽい屋根のしゃれた外観。それでいて観光名所という感じはしない。立派な風見鶏もついている。僕は一目で気に入った。――多分、国光もだと思う。
「お、来た来た。おーい、お二人さーん」
 噂をすれば何とやら。忍足侑士が手を振った。
「俺はこの家の案内人や。ずっと待ってたんやでぇ。掃除しながら」
「そんなことは俺達がやったのに……」
「いや。俺、掃除好きやし――何より、跡部から言付かってたからなぁ」
 丸眼鏡の奥で忍足の目が細められる。
「君、そこまでするなんて、跡部の何なんだい?」
「こっちこそ何なんや言いたいわ。跡部にこんなええ家もろて」
 忍足の関西弁は相変わらずだ。手塚が答えた。
「俺は跡部のライバルだ。お前は?」
「俺は跡部の腹心の友や――ま、ええ加減に跡部に入れ込むの辞めないと岳人に怒られるわぁ。『跡部と俺とどっちが大事なんだってな』」
「もうそうなってるんじゃないのか?」
「相変わらず鋭いやん。案内終わったら帰ってもええか」
「別段構わないが――済まないな。忍足」
「いやいや。青学とは共に戦った仲やねん」
 意外と義理堅いんだな――僕はそう思って、国光と一緒に忍足の後をついて行った。誰が建てたかは知らないが、なかなかに古い風格のある家だ。必要な調度品も揃っているし僕達の趣味に合った家だった。



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