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『黒バス』小説『緑間甘やかし厳禁令』

「真ちゃーん」
 今日も今日とて秀徳高校バスケ部には緑間真太郎を呼ぶ高尾和成の甘い声が聴こえる。
「はい、疲れたっしょ。スポドリ用意しといたから」
「――どうも」
「ちょっと待て。高尾」
 緑間と高尾と同じスタメンの先輩、宮地清志の怒声が飛ぶ。
「あんまいちゃいちゃすんな。チームメイトに悪い影響が及ぶだろ?」
「いちゃいちゃ? オレと真ちゃんが? んな訳ないない」
 高尾がゲラゲラと笑う。
「そうだろ? 真ちゃん」
「――ん」
「高尾、ちょっと来い」
 呼んだのはバスケ部主将の大坪泰介である。
「え? 何スか? キャプテン」
「いいいから来い。部室にだ。――ああ、緑間はそのままにしてていいぞ。高尾だけ来い」
 大坪の命令には主将らしい威厳があった。到底高尾如きが逆らえる相手ではない。
「――わかりましたよ」
 せめてもの反抗か、高尾は唇を尖らせながら大坪の傍に寄った。

「はぁ?!」
 高尾が素っ頓狂な声を上げた。
「俺がいつ真ちゃんのこと甘やかしたよ!」
「オマエな……自覚なしかよ」
 宮地がお手上げというポーズをした。木村信介がはぁーっと呆れた吐息を洩らす。宮地が高尾の鼻先に指を突き出す。
「まずひとつ。お前、緑間のことチャリアカとかいう変な乗り物でご送迎遊ばしているだろ」
「ご送迎遊ばしてなんて、宮地先輩に似合わない言葉遣いっスね!」
「皮肉に決まってんだろ! バーカ!」
「まぁまぁ。それ以外にもオマエには緑間のことで目に余る行動が多い」
「――どこがっスか」
 高尾はこれから大坪にこれからどんなことを言われるのか。あまり面白くない話だろうと予想をつけたらしい高尾がむつけて椅子の背凭れを抱き締めながら上体を預けている。倒れそうになったので、慌てて体勢を整える。
「ラッキーアイテムもどんな入手困難な物でも付き合って手に入れているだろう」
「真ちゃんはラッキーアイテムがないと死んじゃうので仕方がないのですー」
「……まぁ、それはな」
 この間の惨劇は大坪も覚えている。
「ラッキーアイテムの件はそれで置くとしよう。でも、この間、緑間の嫌いな物が入っているとかいって弁当丸ごととっかえしてただろう。オマエは小学生の親か」
「ぐっ……見てたんですね。キャプテン……」
「後、これは他校からの情報だが、緑間が昼休みの食事をおごろうとした時、何かアクシデントがあったらしくて? 緑間は約束を反故にして帰ってしまったんだって? オマエら残して。オマエは何も感じなかったのか? ん?」
「黒子め……」
 高尾が忌々しそうに呟く。だが、本番はこれからだ――。
 スタメンの先輩連中(主に宮地)にぎゃいのぎゃいのつるし上げを食らうので、高尾はすっかり参ってしまったようだった。
「何だよー。マー坊だって緑間にワガママを一日三回も許してんじゃん」
「あれは特別だ」
「オレらにしてみたらあれも腹が立つんだけどな……でも、中谷先生はまだ節度と言う物がある。てめぇは日がな一日緑間の世話してんだろ! スタメンの仕事忘れたのか!」
「別に宮地センパイには関係ねーじゃん」
「オマエなぁ……緑間以外には生意気過ぎだぞ。こら。そんなだからオマエは『緑間の太鼓持ち』と呼ばれんだよ! ああ?! 何とか言ってみろ! 轢くぞこら!」
「……誰が緑間の太鼓持ちなんて言ったんスか」
「ファンの父兄だよ! いいからもう、オマエは緑間を甘やかすの禁止!」
「だから甘やかしてねぇって……真ちゃんはあれが普通だし……」
「しかしなぁ……オレもそろそろ問題視される頃かと思ってたんだ……」
 キャプテンの大坪までが投げやりな態度を見せる。
「緑間を甘やかす頻度は減らせ。それを破っても罰則どうこうとは言わんから……あいつには中谷監督へのワガママ三回があるからな」
「はぁ……」
 しかし、真ちゃんを甘やかすなと言ったってオレどうすりゃいいんだか――高尾がこっそり囁くのが宮地の耳に届いた。

 高尾の様子がおかしい。
 あの時からあのぺちゃぺちゃした甘い声が聴こえなくなったのは有り難いが、高尾は死んだ魚のような目をしている。
 緑間もおかしい。
 一見するといつもと同じように見えるが、シュートの精度が落ちている。あの『ミスター精密機械』の異名を持つ緑間はどこへ行ったんだ?
 それに――ああ、宮地も気付いてしまった。
 自分が緑間をやっかんでいたことに。
 緑間にいつもスポドリだのタオルだの渡していた高尾。甲斐甲斐しいの、なんて思いつつもいつも羨ましく見ていた。
(あいつら――そろそろ許してやっか)
 親友の木村に話すと、
「オレもその方がいいと思う」
 と、答えてくれた。

「かんべんしてくらはい……」
 先に音を上げたのは高尾だった。
「何だ……オレの方からいつも通りにしていいと――オマエらの好きにしていいと伝えようと思ったんだがな……」
「オレ、真ちゃんの面倒を見ていないとダメになるみたいです……」
「え……?」
「真ちゃんの世話を焼きたい、真ちゃんの役に立ちたいという本能が疼くんですよ! そんな想いが血液のように流れて来るんですよ!」
 所謂母性本能というヤツか。しかし、高尾にそんなものがあるとはついぞ知らなかった。
(――まぁ、それだからこそあの緑間とも上手くやってきたんだろうけどな……)
「わかった。オマエは緑間の世話でも何でも焼いとけ」
「やった!」
「ただし、部の中にはオマエに世話をされたいというヤツや、そのことで緑間を密かに妬んでいるヤツらもいる。それを覚えとけ」
(――オレを含めてな)
「はい!」
「話は終ったか?」
 傍でゲーテの詩集を読んでいた大坪が頭を上げる。
「ああ……はい。じゃ、真ちゃんのところへ行って来ます!」
 高尾は部室を出てぴゅーっと走って行った。
「いい奴だな。女だったら絶対良妻賢母になってただろうに――残念だな」
「大坪……気色悪いこと言うな……」
 宮地が大坪をぎろりと睨む。高尾が女だったら緑間もライバルが多くなって困るだろう。――手持ち無沙汰になった宮地の頭に大坪が手を置いた。
「気は済んだか? ん?」
 大坪にはお見通しだったと言う訳か。宮地は何となく面白くなかった。
 でも、それだからこそ、大坪はキャプテンに選ばれたのだろう。
「でもあいつ――いいんスかね? 放っておくと前以上にいちゃいちゃいちゃいちゃ……」
「それは仕様がないだろう。あいつらのフォローをするのもオレ達の役目だ」
 大坪は以前よりいい男になった気がする。
「所詮オレらはあいつらの尻拭いって訳か」
「先達の役目と心得ておけ」
「――違いない」
(大坪、アンタすげぇよ。高尾と緑間のことについても心を痛めていただろうに、オレのことまで――)
 宮地は鼻がつんとするのを覚えた。――泣きたかった。事実、ここに誰もいなければ泣いていただろう。
 木村が、高尾の開け放った部室のドアから飛び込んで来た。
「おお、宮地! オマエが出て行かないと困ることが早速起きた。来てくれねぇか? 高尾に憧れた一年が――」
 何が起こったにしても、自分は自分の役目を果たすだけ――。そう思って宮地は木村と共にバスケ部のトラブルを解決する為にその場へと向かう。その途中、木村が宮地を元気づけてやるように肩をどやした。



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