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『テニプリ』小説『好きになってよかった』

 ボクは幸村精市。
 あの子と会ったのは4歳の時。
 ボクはとあるテニススクールに通っていた。ボクとダブルスを組んでくれる人は誰もいなかった。
 ――世の中は厳しいなぁ。
 ボクは、嘆くよりまず先に苦笑してしまった。これがボクの性格だったのだ。本当は泣きそうであっても。
 でも、神様はいる。
 ボクと同じような子が一人。年齢的にも同じくらいだ。
 名前はゲンイチローくん。年上の少年に、
「ゲンイチロー、お前、邪魔なんだよ!」
 と、ボクと同じように突き飛ばされているのを見たから、よく覚えている。
 ――ゲンイチローくん、か。
 ボクはその名前を心の中に留めておいた。
 ゲンイチローくんは目の大きな、なかなか可愛い少年である。ボクも可愛いとは言われるけれど、女の子みたいでって言葉が付くのは嬉しくない。
 ボクだって、立派な男の子なんだ。
 ――それよりもゲンイチローくんのこと。
 ゲンイチローくんは本名真田弦一郎。後で聞いたらやはりボクと同じ年だった。これは、運命だ。
 ボクはゲンイチローくんに話しかけてみた。
 彼は一人で心細そうだったから――。
 ねぇ、ゲンイチローくん、ボクはキミをずっと見てたよ。
 それで、どんなにいじめられてもめげないキミを好きになったよ。
 だから、ボクは声をかけたんだ。キミと友達になりたかったから。
 ゲンイチローくんは、ボクが彼のことを知っていることに特に驚きは感じなかったようだった。
「ゲンイチローくん、ダブルスの相棒いないの?」
「え、あ、ああ……はは……」
 この頃のゲンイチローくんは小さな子供だった。エリート連中には相手にしてもらえなかったのだろう。ボクとおんなじだ。
「良かったらボクと組まない?」
「キミは?」
「幸村精市だよ」
「――ボク、真田弦一郎」
 ――知ってるよ。
「って、キミはボクのこと知ってたんだっけか、あは……」
「ふふふ」
「は、はは……」
 この頃のゲンイチローくんは些か頼りなかった。テニスも下手だった。ミスも多い。彼の打ったボールは必ずネットに引っかかった。
「あ……」
 ネットにボールが引っかかる度、ゲンイチローくんは表情をくもらせた。
 ボクは彼の指南役。
 ゲンイチローくんがミスを克服出来るまで付き合うつもりだった。
「ぷっ、下手くそ」
「何度やってもあいつじゃ無駄だって」
 そんな声が聴こえても気にしない。
 ――いつの間にか、コートにはボク達だけになっていた。
 それでも、ボクは嬉しかった。ゲンイチローくんと二人きり。
 こういうのも、いいな。テニスで繋がれた絆。うん、いいな。
「精市くん……キミ、楽しそうにテニスするね」
「えー、そうかな」
「だって、いつも笑ってやってるじゃん」
「キミと一緒だからだよ」
「でも、ボク、下手だから……」
「何言ってんのさ。練習すれば上手くなるって」
「う……うん、そうだね」
 そう言って、ゲンイチローくんはにこっと笑った。どんな苦難でもゲンイチローくんと一緒だったら怖くない。そう思った。
 それが揺らいだのは、テニスのダブルス初試合――。
 ボク達は1-5で負けていた。マッチポイントを迎えて、もうダメかと思った。
「やっぱり、ダメだったね……」
 そう呟くボクにキミは言ったね。
「最後まで諦めるなよおおおお!」
 そう言って泣いたゲンイチローくんは必死で力強くて――涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだったけど、とてもかっこよかった。
 あの頃からだ。ボクがテニスを諦めなくなったのは――。
 真田弦一郎という少年に恋をしたのは。
 そう、あれは確かに恋だった。
 ボクは、ゲンイチローくんとだったら何だって出来る。そう再確認した瞬間だった。
 その試合で、ボク達は逆転勝ちをした。
「す、すげぇ……」
「何でだよ、あいつら、何て奴らだ……」
 ギャラリーがざわつく。
 ゲンイチローくんとだったら世界も獲れる!
 これがボク達のテニスの始まりだった
 この時、ボクは知らなかった。――将来、オーストラリア戦で同じような苦境に立たされることを。そして、オーストラリア代表に逆転勝ちしてしまうということを。
 今まで頑張れたのは、初勝利の思い出があったから。
 どんなに苦しくても、どんなにピンチでも乗り越えられた。
 ボク達は初勝利を飾った後、ハイタッチをした。――興が乗ってボク達はその日も夕方になるまで練習をした。はぁっ、と深呼吸した後、ボクはゲンイチローくんにこう言った。
「ねぇ、ゲンイチローくん、ボクね――ゲンイチローくんがいて良かったよ」
「ボクも――精市クンがいて良かった……」
「あのさ、ゲンイチローくん……」
「何?」
「ボク、ゲンイチローくんのこと、好きだよ」
「ボクだって! 精市クンのこと好きだよ」
 そう聞いたボクの表情は笑っていたであろう。ゲンイチローくんによれば、ボクはいつも笑っていたようだが――。
「ずっと、一緒にテニスやろうね」
「あ、ああ……」
 ゲンイチローくん、わかってんのかなぁ。ボクがキミに恋をしているということ。
 ボクはゲンイチローくんに近付いて、彼の頬にキスをした。
「な……!」
 ゲンイチローくんは慌てているようだった。
「ボクの『好き』はこういうことだよ」
「あはは……ボクはテニスのことかと……」
「イヤだった?」
 そうだよね。男同士だし、気持ち悪いって言われても、文句は言えない……。
 すると、ゲンイチローくんがボクの元へ来て、ボクの頬にキスをした。
「ボクも……好きだよ。精市クンのこと」
「ゲンイチローくん……」
 ボクは思わず熱くなった頬を手で抑えた。
「これからもよろしくね、精市クン」
 そう言って、ゲンイチローくんはボクのことを抱き締めた。
「もちろんだよ。ゲンイチローくん。ところで……これからはゲンイチローって呼んでいいかな」
「――ボクも、精市って呼んでいい?」
「うん!」
 そして、少し大人になったボクらはいつの間にか、『幸村』『真田』と言い合う関係になっていったけれど――。
 やっぱり、キミを好きになって良かった――。



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