【松】おそカラ
レス肉 (2019.02発行の『交差点で待ち合わせ』の後の二人) 射し込む光に包まれた美しい男の、安らかな寝顔を見ながらおそ松は思う。 奇跡みたいだ、と。 自分のようなオッサンの恋人が、こんなに美しい若い男であることがではない。 全世界から求められるアイドルが、草臥れた一介の一般人と付き合っていることがでもない。 自分が気持ちのすべてを捧げる相手が、全力で愛を返してくれることこそが、信じられない奇跡だ。 恋人が身じろぎして、かけていたシーツがめくれる。直してやろうと腕を伸ばし、おそ松は息を飲んで動きをとめた。 カラ松の二の腕にくっきりと残った青アザを見止めたからだ。 音を立てて血の気が引くのを感じる。天国から地獄を突き落とされた気分だった。どう見たって、何度見たって、それはおそ松が残した指の痕だった。 キスマークなんて可愛いものではない。 興奮と欲情の果てに前後不覚に陥って加減が出来ずに、力の限り握りしめた痕だった。 おそ松の醜い執着が若い身体に残した傷だ。 (どうしよう) この若い恋人は仕事に誇りを持っている。そしてその仕事はやたら裸を晒すことが多いのだ。そこに言いたいことは多々あれど、彼の身体に痕跡など残してはいけないことは明白だ。 加え、そのあとは自身の余裕のなさの現れでもある。如何にも童貞らしい(昨晩卒業したわけだが)必死さで、年下の恋人を気遣えもしなかった証拠だ。 どうしよう。 こんな痕を残して。 彼を気遣えもしないで初体験で。 ……もう嫌だっていわれたら、どうしよう。 「後悔してるのか?」 一人沈む思考を断ち切ったのは、自分ではない声だった。相手は一人しかいない。 「あ」 「……俺とヤって、後悔してるのかよ」 その顔に浮かんでいる剣呑な色に、おそ松は慌てる。彼の不機嫌の理由は己にあるのだから。 「ご、ごめんカラ松腰痛いよな! 俺、いやもう童貞丸出しで恥ずかしいー! っていうか!」 「は?」 「腕も、痛いよね。いや、ほんと余裕なくてお前の身体に傷とか残して」 「おい」 「で、でもさ! ちょっと、別れるとか! そういうのは待って欲しいな! なんて! ほら、これから上手くなるかもしれないし。将来有望だと思うんだよねオレ。一応カラ松だって喘いでたじゃん? あ、ヤベ、思い出したら勃ちs」 「うっさい黙れ!」 飛んできた枕が直撃し、おそ松の言葉は強制的に断ち切られた。 「別れるとか、そんな話はしてないだろ……むしろ後悔してんのはアンタじゃねえか」 呟くカラ松に、おそ松はまたしても自分の失敗を悟った。初夜の次の朝、恋人が頭を抱えていたら、それは確かに誤解するだろう。おそ松は意識して腰を優しく撫で、両腕に恋人を抱え込んだ。 「俺は、まあ後悔はしてんだけどさ。それは自分の余裕のなさっていうか、お前に負担をかけちゃったことをね、後悔してんの」 言いながら、己がつけた青あざを優しく撫でる。おそ松の動きで、自身の身体の状況に気付いたらしいカラ松は、少しばかり目を丸くしたが、次の瞬間には強気に鼻先で笑って見せた。全く問題ないと言わんばかりだ。 「童貞なんて、こんなもんだろ」 恋人の気遣いが嬉しく幸せで、おそ松は顔が緩む。 「昨日は、チョー気持ちよくて、チョー幸せでした! ね、俺、上手くなってお前のことぐっちょぐちょにするからさ。これから先も、よろしくお願いします」 額を合わせて微笑めば、美しい恋人は口の端を釣り上げる。 「脱童貞したばっかで随分強気じゃねーか。ま、お手並み拝見といくか」 いつだって許しをくれる愛しい人に感謝を込めて、おそ松はそっと唇を落とした。 |
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