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ちいとあやのはなし
これまでのお話はこちら(novelからも入れます)↓ http://stellinadolce.web.fc2.com/title_1/noveltop.html

七夕の夜に雨が多いのは気のせいか。

携帯で明日の夜の天気予報を見て、思わずため息が出る。
日本が暗くなる夕方くらいから、雨。
その雨は上がることなく、七夕の翌日の朝まで降り続くらしい。

どうしてかな、なんとなく七夕の日って、雨が降るような気がする。

「そんなに七夕の雨って、悲しむこと?」

可愛らしく首をかしげる、雪村さん。
席が近くで、いつの間にか仲良くなった女の子。
ゲームに出てくるような可愛さで、目の保養になるなあと常々思っている。

「そりゃそうだよ」
「そうかなあ」
「だって、雨が降ったら、織姫さまと彦星さま、会えなくなっちゃう」
「うん、まあ、よくそう言うよねえ」
「一年に一回しか会えないって・・・ひどいよね・・・」

お互いに想い合っている織姫さまと彦星さま。
両思いなのに、七夕の日以外は姿形も見ることはできないなんて、なんて悲しい。悲痛すぎる。

「でも確かあれって、あれでしょ、二人で一緒にいたら仕事も何にもしないからって引き離されたんでしょ」
「ま、まあ、恋愛中は何も手がつかないっていうし・・・」
「でもさ、現実的には困るでしょ。好き、好き。一緒にいよう。それで、一緒にいるだけ。仕事しなきゃ暮らしていけないし、カップルがみんなそんなじゃ、社会も回らなくなっちゃうじゃない」
「・・・・・・前から思ってたけど、雪村さんって現実的だよね・・・」

可愛い可愛い雪村さん。その見た目から、ゲームに出てくる可愛い女の子のように、天然とか、ほわほわしてるとか、色々想像できるのですが。実は中身は全くの正反対。しっかり者で、しかも夢を見るような発言もほとんどしない方なのです。
彼女に夢を見ていた最初の頃の私はそれを認めたくなかったけれど、話せば話すほどに認めざるを得なくなり。ゲームと現実の女の子は違うんだと現実を知った。

「引き離されたのも、目を覚ませ!ってことだし、仕方ないよ」
「・・・で、でもー・・・いくらなんでも可哀想じゃないですか。七夕以外は姿も形も見えないんだよ?もうちょっと違うことで目を覚まさせてくれればいいのに。それか、目を覚ましたら元通りにいつでも会わせてあげる、とか。可哀想だよ・・・」
「なんでそんなに織姫と彦星のこと心配してるの。身内じゃあるまいし」
「だって・・・」

だって二人の気持ちを考えれば考えるほど悲しくなってくるんだもん。
突っ伏しながら手厳しい雪村さんをぼんやりと見ていると、ふと雪村さんが空を見上げた。それにつられて、私も空を見上げる。
晴れた空。これが明日まで続いてくれればいいのに。

「・・・まあ、でも二人、すごいとは思うかなあ」
「すごい?」
「だって、一年に一回しか会えないのに、好きで居続けてるんでしょ。今の時代、メールや電話とか、手紙とかあるから、近況とか気持ちを伝えられるけど、そんなのないんだよ。それって、すごいよね」
「・・・うん」
「遠距離恋愛なんて、私、連絡が毎日取れる状況でも、続ける自信ないもん」
「・・・・・・そうなんだよね・・・。うん、すごいよねえ、愛の力がないと続けられないよねえ」

予鈴のチャイムが鳴って、七夕の会話は終わった。
視線をもう一度外にやって、空のどこかにいるだろう織姫さまと彦星さまを想う。
それほど愛し合っているんだったら、会えないときには涙が止まらない夜もあるのかもしれない。・・・私は、その気持ちがまだよく分からないけれど。でも、きっとそう。
パンを急いで口に詰め込みながら、だからやっぱり、明日会わせてあげたいなあと思ったんだ。






「・・・短冊だ!」

母に頼まれたおつかい。
久しぶりに家の近くの商店街を通ると、商店街の奥のほうに、それはもう電線まで届きそうなくらいの大きな笹が立ててあった。
近くには、短冊に願い事を書くスペースがある。

「おや、久しぶりだな」
「・・・八百屋のおじさん!」

声をかけられて後ろを振り向けば、八百屋のおじさんが段ボール箱を持って立っていた。
しばらく見なかったからか、少し老けたような気がする。

「あれ、おじさん、お店は?」
「店はせがれに任せて、俺はこれから出張サービスだよ」
「出張サービス?」
「お年寄りの家に頼まれた野菜を配達に行くのさ。最近始めてな」
「そうなんだ。おじいちゃんやおばあちゃんたち、助かるねえ」
「まあなあ。ああ、そうだ、七夕は雨みたいだが、何か短冊に書いていったらどうだ?願いが叶うかもしれないぜ」

そう言って、笹を見上げる。私も一緒に笹を見上げた。

「あー・・・すごい笹だよねえ。これ、いつからいつまでここにあるの?」
「笹か?これは一昨日持ってきたんだ。まあ、七夕が終わるまでは、雨でもここに置いとこうと思ってる。・・・ああ、そろそろ時間だ。それじゃあな」

そう言って、バイクに手際よく段ボールを積んで、おじさんはの姿はあっという間に米粒ほどになってしまった。
その姿が全く見えなくなってから、もう一度笹に向き直る。
首が痛くなるくらいに首を倒して、笹を見上げる。
あちらこちらに、短冊がくくりつけられて、ところどころでは短冊が多すぎて、重そうに枝が垂れているところもあった。

「・・・願い事、かあ・・・」

今、急に言われたって、思いつかない。
どうしよう。
・・・・・・他の人が、何を書いてるのか、ちょっとだけ見せてもらって参考に・・・。
なんて思って、こっそり一番近くの短冊に手を伸ばした、その時。

「ちい?」
「・・・ひえっ」

パッと手を引っ込めて後ろを振り向けば、思った通り、あやの姿が。
ああ・・・びっくりした。べ、別に他の人の見ようとしたのはそんなに悪いことじゃないかもしれないけど、なんだかいけないことをしようとしたのを見つけられた気分だ。
心臓がバクバクしてる。

「・・・何そんな驚いてるんだよ」
「いや・・・べ、別に・・・って、あや、どうしたの?こんなところに・・・」
「それはお前だって」
「わ、私は・・・その、お母さんからおつかい頼まれて。あ、あやも?」
「俺はおつかいじゃない。今日は母さんも父さんもいないから、夕飯の材料を買いに来たんだよ」
「え、一人?」
「そ。出張だってさ」
「あや、自分で夕飯作るんだ・・・すごいねえ。メニューは?」
「カレー」
「いいねえ、カレー。誰が作っても美味しいカレー。あ、でもあやは料理できる人だもんねえ」
「まあな。・・・で?今何してたんだよ」

願い事に迷って人の見ようとしてました、なんては堂々とは言えず、仕方なく、これ、と笹を指差した。

「・・・笹、か。願い事でも書くのか?」
「うん・・・まあ」
「願い事って?ああ、あれか、ゲームがいっぱいできますように、とかか?」
「・・・ああ、それもいいかも」
「それもいいかもって・・・。本当はなんて書く予定だったんだよ」
「な、何を書こうかなあって、悩んでたところだったのですよ。願い事ってさ、急に言われても、すぐ思いつかないもんだよねえ」
「まあ、確かにな。無理して書くものでもないし。特に思いつかないなら書かなきゃいいだろ」
「え、でも書きたいよ!」
「ああ、そう。どうしても書きたいなら・・・一晩考えて、明日また書きに来ればいいんじゃないか?」
「・・・それもいいかもしれない。そうしようかなあ」
「じゃあ、そういうことで。お前、買い物は?」
「え?あ、これから・・・」
「俺もだ。それじゃあ、行くか」

そうして、さっさと歩き出すあや。
いつの間にか、一緒に買い物をすることになったらしい。誘われてもいないんだけど。

「ほら、行かないのか?」
「・・・行く」

私の答えに頷いて、また背を向けてすたすた先に歩き出すあや。
全くもう。私が追いかけるって疑ってもないんだから。
そうは思いながらも、笹をもう一度見上げてから、私は駆け足であやのもとへと向かった。



「知ってる?!渡宮くん、関西の大学希望してるらしいよ!」

そのニュースが入ってきたのは、二時間目が終わった中休み。
三時間目が体育だから、更衣室で着替えをしているときだった。

「何それ、うそー!」
「ええー?!」
「前友達とここら辺の大学の話してたじゃない!」

思わず、服を脱ごうとしていた手が止まる。
え、何?何だって?

「美河さん」
「・・・・・・う、うん?」
「知ってた?なんか、さっき私、先生と話してるの聞いちゃって」

ニュースをもってきた女の子に詰め寄られる。
他の着替え中の女の子も、そのままの格好で、近くに寄ってくる。
皆さん皆さん、今どんな格好で自分がいるか知ってます?とは言える空気でない。もちろん、私もそれどころじゃないんだけど、思考が働かない。突っ込む余裕なんてない。

「・・・え?」
「だからー」
「知ってた?これって、本当のこと?」
「渡宮くんとよく話してるもんね。聞いてたの?」 「あ、・・・あの・・・」

近い近い近い。皆さんの小さなお顔がどんどんビックになっていきます。
だから、だから、だから。
もういっぱいいっぱいで、息が、つまる。

「は、つみみ、です」

絞り出すように出た、かすれた言葉。これが、今の私の、精一杯。
頭が真っ白。何が起こってるのか、よく分からない。
それでも、その言葉で気が済んだらしく、そうなんだ、と女の子たちが離れていった。
プライベートスペースが確保されて、息苦しさが、少しだけ和らぐ。

「・・・大丈夫?」
「雪村さん・・・」
「顔、白いよ」
「・・・・・・うん、えと・・・びっくりした・・・ねえ」
「ビッグニュースだったね。渡宮くん・・・本当のところ、どうなんだろう。本人に確かめないと。本当かどうか分からないよ」
「あ、・・・うん。うん、そうだよね」

そう思う。その通り。そうだよ、そう。
そう思うのに、気持ちがざわざわと落ち着かない。
そうしているうちに、少しずつ着替える女の子たちが増えてきて、これ以上あれこれ聞かれるのも嫌で、急いで着替えを終わらせた。



今日の体育は、女子と男子、体育館を二つに分けてバレーボール。
ああ、困ったなあ、私、球技は特に苦手なんだよね。
授業だから仕方がないなあと思いながら、とぼとぼとコートに立つと、ネットを挟んだ向こう側の、さらに向こう側に男子の様子が見えた。
そうして、真っ先に目がいってしまうのは、今一番見たいような、見たくないような、よく分からない、あや。
あやが体育に参加してるなんて珍しい。いつもはなんだかんだ理由をつけてサボるのに。

ピ――――――!

笛の音に、はっとする。
気がつけば、もうボールがあっちこっちを跳ね回っていた。
危ない危ない、授業中だ。ぼうっとしてたら、ボールが頭に当たっちゃう。

そうは思いながらも、もう一度だけ男子の方に目をやる、と。
あやと目が合った。それと同時にこみ上げる、胸にぽっかりと穴が開いたような空白感。
なんとなくムカムカして、無理矢理、ぷいと視線を外す。そして、睨み付けるように未だに跳び回るボールを見上げた。
変に思ったかもしれない。でも仕方ない。授業中だもん。バレーボールだもん。よそ見は危険だし。なんて、自分で言い訳して。

気になってしょうがないのは本当。
ただ・・・。
本人に確かめてみないと、本当のことは分からないんだから。
だから。今だけは。
そうして、あやを、意識から切り離した。






昼休み。いつものようにご飯を食べながら、こっそりとあやを目で追う。
あやも友達とご飯を食べている最中。その笑った顔が今は憎らしい。
どうにかして話ができないかな。さっきの話を聞きたい。聞きたい。・・・聞けない。聞きたくない。
そうやってずっと葛藤を繰り返してる、私の心。
でも、聞かなきゃ、いつまでも噂に振り回されて今にも疲れ果ててしまいそうだから。だから、聞かなきゃいけないんだと思う。

「目がつり上がってる。怖いよ」
「え?こ、怖いって・・・」
「渡宮くんに、聞きに行ってくればいいじゃない。そんなに気になるなら」
「き、気に・・・」
「なるんでしょ?」
「・・・・・・うん」
「ま、でも、分かるかなあ。今、本人気がついてるかどうか知らないけど、大部分の女子の視線を集めてるんだよね」
「・・・・・・」

そうなんですよ。クラス中のありとあらゆる女子が、ちらりちらりとあやのことを窺っている。
それもあって、容易に近づけやしないのです。
ああ、トイレにでも立ってくれないかな。一人で。

「トイレに立て~立て~」と小声でつぶやきながら念を送っていると。

・・・立った!!
念が通じて立ち上がったあや。嬉しさと共にこみ上げるのは、自分の念の強さへの恐怖心だったり。
ま、まあ、深く気にしないようにしよう。
ふと目の前を見ると、雪村さんがじっとこちらを見ていた。

「・・・え、と」
「はい、行ってらっしゃい」

雪村さんには全てお見通しらしい。まあ、念を送っているところをばっちり見られているもんね。

「トイレでしょ?予鈴鳴ったら、私、席に戻ってるから」
「・・・うん。あの、い、行ってきます」

そんな、トイレって大きな声で・・・。いや、うん、気を利かせてくれたのは分かってますとも。ありがとうございます。
恥ずかしくなるような気の利かせ方に心の中でお礼を言いつつ、私はあやの後ろ姿を追った。



続きます。


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