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   アメリカ人のくせに日本語しか話せない大学生アルフレッド君と留学生アーサーさんの話。
 
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    「excuse me」



    背後から掛けられた声に足をとめた。

    と同時にまたか、とも思う。

    面倒くさいとあからさまに書かれているだろう顔を取り繕って振り向いた。



    外国人、という言葉が真っ先に浮かぶ。

    そこに立っていたのは見慣れない外国人男性だった。


    染色じゃない、自然な色合いの少しだけ褪せた金髪。

    顔の彫りは深くて、曲線的で柔らかな日本人の輪郭と比べると少し直線的な気がする。

    凛々しい眉の下には、くっきりとしたラインの目。多分色はグリーンだ。

    いわゆるアングロサクソン系。アメリカ人だかカナダ人だかイギリス人だかオーストラリア人だかは分からないけど。


    その外国人が困ったような顔で――眉を微かに寄せているから、多分困っているんだろう――俺に話しかけてきた。


    「I lost my way. Would you be kind enough to show me the way go to the dormitory?」


    薄い唇がほとんど形を変えることなく言葉を紡ぐ。

    ネイティブな発音。速度。耳に慣れないそれは空耳どころかそもそも言語として認識できない。

    ほにゃほにゃって言ってるようにしか聞こえないよ。


    まいったな、と思いながら軽く唇を噛んだ。


    「あー、」


    小さく発声。呼気をほとんど吐き出さなかったそれは思った以上に空気を振動させてはくれなかった。

    喉が渇く。唇を湿らせて、脳内に並べたカタカナをなぞった。


    「ソウリィー。アイキャントスピークイングリッシュ」

    「well?」


    今のは何となくわかった。本当に?とか、嘘だろ?とか、多分そんなとこ。

    まあ、客観的に考えれば彼の反応ももっともなんだけどさ。



    俺は、アメリカ人だ。



    彼より少し色が濃いけど、同じような金髪で、目は青で、顔立ちだって日本人とは程遠い。

    だけど生まれも育ちもここ、日本だ。この国から出たことだって一度もない。


    こんな容姿のせいで英語が堪能なんだろうと思われることが多いけれど、残念ながら英語の成績は常に下から数え

    た方が早い。この言語を使っての意思疎通なんてできそうにもない。



    それでも街を歩いていると英語で話しかけられることの方が圧倒的に多いし、話しかけてくる人の大半は外国人だ。

    そりゃ知らない国の人よりも同じ英語圏らしき人の方が話しかけやすいよね。

    俺だって海外で何か分からないことがあった時にタイミング良く日本人がいたなら絶対そっちに話しかける。



    でも外見がこれでも、中身は英語教科晩年赤点の俺なわけで。


    英語が話せないと告げると大抵の人が冗談だろ、って顔をする。それを納得させる言葉は、そんなやり取りを数十回

    繰り返すうちに覚えた。


    やっぱりどこまでもカタカナの羅列でしかないそれを、なんとか英語っぽく発音しようと努力してみる。


    「あー、アイワズボーンエンドレイズド、インジャパン」

    「ah, sorry. Well…the dormitoryへノ、行き方を、教えテくだサイ」


    まずい、ドーミトリーって何の事だかわからない。

    て言うか、日本語喋れるなら最初っから日本語で話しかけてくれよ。いきなり英語で話しかけられると相当焦るんだぞ!

    ドーミトリー、ドーミトリー……やばい、やっぱりまったく全然どうしても分からない。

    どうしよう、わからないで乗り切るか? でも分からないって英語でどういえばいいのかわからない!















    焦って泳がせた視線の先に、一条の光が見えた。







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