潮の匂いが鼻を擽り、ペタリと頬にはり付く髪の毛を一度撫でる。ゴウゴウと音を立てる風の音が聞こえ、静かに瞼を下ろした。 腰を少しだけ曲げて船縁に両手をつき、その上に顎を乗せれば、風と波の音が音楽を奏でていた。 悪戯をする風が真っ白なワンピースをひらりと持ち上げれば、中から健康的に程よく焼けた太ももが見え隠れする。 「サクラ、見えてるぞ」 ちらちら見える太ももの事を指摘すれば目を閉じたまま「いいのよ、我愛羅くんしか居ないし」と肩を動かしサクラは笑う。目を閉じたまま警戒心の無いサクラに、秘かに笑い手に持っていた氷のように冷えた缶ジュースを、見え隠れする太ももにペタリと貼り付けた。 「ぎゃああ! なにすんのよ」 色気の無い叫び声を上げ、缶ジュースが貼り付けられた右の太ももを庇うように、ひらひら動くワンピースをお尻の上から押さえ込んだ。 「見えてたからつい」 「なにがついよ!」 サクラの拳が飛んでくるが、ひらりと軽く交わし憤慨するサクラの頬に缶ジュースを押し付けた。 「これでも飲んで落ち着け」 「誰のせいよ!」 まったく! と声を上げながらも受け取ったジュースのプルタブを開ければ、炭酸飲料だったらしくじゅわじゅわと音を立て缶ジュースの中身が指を伝って零れていく。 わわわ! と慌てるサクラの様子が面白かったのか我愛羅は顔を逸らし肩を震わせて笑っていた。 「……覚えてなさいよ」 ジトリとした視線を我愛羅に向けながら、ジュースで濡れた親指と人差し指の間を舐めれば、甘い味が舌を刺激する。 「そんなに怒るな」 ほら、とお手拭を差し出した我愛羅に「折角いい気分だったのに!」と声を上げたサクラだったが、本気で怒っている様子は無かった。 たまにはこういうのもいいかも知れないな、と我愛羅は内心呟いた。 先日あった五影会談後、ただの雑談となり話題は何故だか我愛羅とサクラの夫婦仲について盛り上がり、他里の影から根掘り葉掘り聞かれた。 特に六代目火影であり、サクラの元担当上忍の"はたけカカシ"からは『仲良くしてる? サクラ泣かしてない?』などとまるで父親か! とツッコミを入れたく発言ばかりもらったのである。 喧嘩はたまにするが、別に想定内のことだし、夫婦仲も悪くない。どちらかと言えば円満な方だと自負していた我愛羅は『問題ない』と一言返答するに留まった。 しかし、若い頃から影に就き、尚且つ朴念仁を体言したかのような我愛羅に『たまにはデートしてる?』と聞いたのは霧隠れの水影"照美メイ" その言葉に、最近互いに忙しく、五影会談も近いということもあり家に帰っても会話もほとんど無く二人とも死んだように眠りにつくことが多かったなと思い返し『してない』と言ったことにより、はたけカカシが『うちの子が気に入らないっていうの!? ちょっと我愛羅くんがそんな子だとは思わなかったよ!』などと明後日の方向に怒り出したので、雷影と土影に取り押さえられていたのを覚えている。 『あら、だったらいいテーマパークあるわよ』 そう言った照美メイが懐から取り出した二枚のチケット。なるほど、この話に持っていきたかったのか。と我愛羅はチケットを受け取りながら納得した。 霧隠れの船着場から出ている客船に乗って、少し離れた孤島にテーマパークが出来たらしい。実際に一般人に向けて公開するのは少し先の話だが、先行して体験できるらしい。 行ったら感想を聞かせるとの約束を交わし、偶の休みにサクラとデートするのもいいかと考え、二人して休みを取ったのだ。 「んー、本当きもちいー! テマリさんとカンクロウさんにお土産買って帰らなきゃね」 「そうだな」 辺りに響く汽笛に、もう直ぐ到着するのかと二人で顔を見合わせる。互いに笑えば「さあ! 思う存分楽しみましょう!」と清楚なワンピース姿ながらも、握り拳を作るサクラに我愛羅は小さく笑い頷いた。 潮の香りが鼻を擽り、風は穏やかに微笑んで。 もういちど鳴り響く汽笛の音が、心躍らせていた。 2015.07.04 |
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