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以下、続きからちょろっとではありますが、拍手小説です(*´ω`*)

拙作「神様のいない夏」番外編:千早と綾瀬の卒業式小ネタです。
本編知らなくてもおそらく大丈夫ですので、よろしければどうぞ!


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「羽村、綾瀬のとこ行かねぇの」

あれだけ仲良かったくせに、と、秋吉が不思議そうに口にする。

言われなくてもずっと、その人物がどこにいるのかなんて分かっていたけど。
視線をあげるとすぐに、教室のドア付近で後輩の女子に囲まれている姿が飛び込んでくる。

少し減ったと思えば、すぐに違うグループの後輩が寄りついていっているから、人の壁が一向になくならない。
あれじゃ疲れるだろと思うけれど、自分を慕って寄ってくる人間を、綾瀬が良くも悪くもないがしろにしないと言うことも、よく知っている。

「って、でもあれか。あそこに突っ込んで行く方が勇気いるよな」
「だろ」

あちらこちらで記念写真を求める声が響く式後の教室の空気が、どうにも肌に合わなくて。すぐに帰ってしまうつもりだったのに、秋吉に引き留められてしまった。
なんで秋吉がおせっかいに呼び止めたかも分かっているから、余分に苦しい。

「でもさ。なんか2学期になったあたりからおまえらぎくしゃくしてんじゃん。それまでずっとってくらい一緒にいたのに。喧嘩したのかしんねぇけどさ、このままでいいのかよ」
「……別に、」

「喧嘩した訳じゃねぇよ」とでも、「どうせ大学行ったら別々になるんだし関係ないんじゃねぇ」とでも言える。

実際、喧嘩した訳じゃないしな。
ただ、お互いが微妙な距離を測りかねていただけだ。表面的な会話だっていくつも交わしていたと思う。
それだけだ。
けれどそれは、周囲に気遣わせてしまうような空気をはらんだものにしかなっていなかったのだろう。

「後悔、すんぞ」

そう言った秋吉に、「しねぇよ」と小さく笑った。
秋吉の顔が心配そうなものになっていたから、笑えていなかったのかもしれないけれど。

「もう全部、今日で終わりだから」

自分の大学が早々に決まったのを良いことに、俺は自由登校の期間中、ほとんど学校にきていなかった。
できるだけ綾瀬のいる空気に触れたくなかった。

自分で決めた癖に、今更どうしようもなく悔やみたくなるから。

そんなの綾瀬にしてみたら、ひどく迷惑な感情でしかないはずなのに。
だから俺は綾瀬がどこの大学に行くのかも、地元を離れるのかどうかも知らない。

じゃあなと目を伏せると、秋吉があのなと早口でまくし立てた。


「綾瀬、W大にするって言ってた。おまえが決めたとこもそんな離れてねぇだろ。大学行ったって地元帰ってきたら会えるだろ。だからそんな、終わりだなんて言うなよ」

なにをそんな必死に秋吉が言ってくれるのかは疑問だったけど、知りたくなかったなと思う。
それを知ってしまったら俺は大学での4年間も、近くで綾瀬の姿を見ることもあるのじゃないかと、そればかりを気にしながら過ごすことになりそうで。

でも、

「――じゃあな」

終わりだと。そう決めたのは俺で、綾瀬もならしょうがないねとそれだけで受け入れた。

やっぱり綾瀬にとってそれだけの存在だったのかと思った。
それだけだったんだと思っていたかったのに、最後の最後で覆される。

あの日の、綾瀬の声が。眼が。
どうしようもなく意識の深淵に絡み着いたままだ。


――千早は、俺のこと好きだった?

好きだったよ。
好きじゃなかったら、あんなことできるはずないだろ。

好きだったと、過去形にするのにひどく違和感がある。それも全部俺が弱いせいだ。

浮かび上がってくる邂逅を打ち消して、もう一度手を振った。
綾瀬のいない方の出入り口を当たり前のように選んだ俺に、「羽村またな」と必要以上にでかい声で秋吉が叫ぶ。
それに弾かれたように、綾瀬が女の子たちに向けていた顔を上げたのが分かった。
絡みそうになった視線を避けたのは、俺だった。

捕まれたくないと思うのは、自惚れだ。
綾瀬はちゃんと、区切りをつけたはずで。だったら、もうこれで終わりでいいと思うはずで。


「千早」

なのになんで、俺なんかを追いかけてくるんだ、おまえは。
教室に比べ随分とひっそりとしている昇降口に、綾瀬の声が響いた。

顔を見たくはなかったけど。聞こえなかったふりもできないくらいには、距離が縮まってしまっていた。

「千早」ともう一度名前を呼ばれて、引き寄せられるように視線をあげる。
綾瀬の声には吸引力があるような気がいつも、俺はしている。

「……あの子ら、放ってきて良かったのか」

そう言うと、綾瀬はどこか苦しそうに微笑った。

「千早は、卒業パーティーとか来ない?」
「行かない。あんま好きじゃないし」
「だよね、そう、思って……最後だと、思って」

最後だと思ってなんなのか、その続きを聞きたくなかった。

「綾瀬」

だから、断ち切るように先に名前を呼ぶ。ずるいのも卑怯なのも、分かっている。

「俺、帰るな」

そう背を向けてしまえば、綾瀬はもう何も言わないだろうと知っていた。
たとえ何かがあったとしても、飲み込むのだろうと。

変化を求める気はないのだから、これが正解なはずだった。

微かに綾瀬の声が聞こえた気がしたけれど、それは俺のどうしようもない願望だったのかもしれない。


世界は、変わる。

4月になって、制服を脱いで新しい地で大学生活を始める。それだけでも随分と変わるだろう。


――いくらでも、いる。俺じゃなくても。

わざわざ、俺なんかを気にしなくても、綾瀬には。

まだ冷たい、春に変わりきる前の風が吹き抜けて行った。


本当は、笑ってさようならと言えれば良かったのだろうけれど。
馬鹿だと思うのに、言えなかった。

またななんて、口が裂けても言えない。
でも、これでもう会うこともないだなんて、もっと言えなかった。


【END】


お付き合いくださりありがとうございました!
少しでも楽しんでいただければ幸いです(*´ω`*)電子書籍本編では大学4年生なので、本編より4年前のお話です。

ちょっと遅くなった気がしますが、ギリ3月!
新しい生活を始められる皆さま、大変だと思いますが頑張ってください……!



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