ふぇなの
現在一種のみ



絡んだのは手。
縮まったのは距離。
開いたのは。






【露】






日曜日。学校もお休みで、予定のない日。自室のベッドで転がりながら、なのはさんは暇を弄んでいました。
机の上に広がる教科書とノート。宿題ももう終わってしまったようです。
このまま無為に時間を過ごすのもいいですが、どこかに行こうかとクローゼットを空け、なのはさんの目に入ったのは、Yシャツ。
それを見つけて目を丸くし、思い当たったのか苦笑して、さらに思案しながらじっと真顔見つめること、一分。
なのはさんは動きました。
さらに一分後。そこには今まで来ていた上着を脱ぎ、代わりに先ほど見詰めていたYシャツを着たなのはさんの姿。


「うーん、背伸びたもんねー」


腕を前に伸ばして、掌を覆う袖口。視線を下ろせば太腿にかかる裾。肩幅は、少しずれていました。
何事かをぶつぶつと呟き、姿見の前に立ったかと思えば無意味にくるりと一回転。
改めてYシャツを纏う自分の姿をまじまじと見ます。


「モデル体型め」


よくわからない無駄な悪態をつきながら袖口に手をひっこめてみたり、襟元に顔をうずめたり、裾を引っ張ってみたり。
言葉とは裏腹に何だかんだでちょっと、いえ、かなり楽しそうななのはさん。
傍から見たら一人自室でただYシャツを着てニヤニヤしながらはしゃいでいる不審人物です。


「なのはー?」
「ひゃぅ!?」


そんな空間に新たな風。軽いノックと共に顔を出したのは母親、桃子さんでした。
驚き焦っている娘を見て、その姿を見て、桃子さんは首を傾げます。それこそ当然の疑問でしょう。なのはさんが着ているのは、学校指定のYシャツですから。


「今日は日曜日よ?」
「わわわわわかってるよ!」
「補習はないって言ったわよね?」
「そうです!」


どもりながら返答するなのはさんにさらに疑問符を浮かべる桃子さん。
本日は日曜日。学校はおやすみ。娘が着ているのは制服の一部であるYシャツ。
しかるべき、問いです。


「どうしてそれ着てるのかしら?」
「何でもありません!」


しかし頬を赤くしたなのはさんの答えにそれ以上聞くことはありませんでした。
どうして怒ってるの、と苦笑いを浮かべて桃子さんは溜息をつきます。


「もうすぐお昼ご飯よ」


どこか落ち着きのないなのはさんにそう告げると、桃子さんは部屋を出ていこうとします。
ああそうだ。そう呟いたドアを閉める間際。とてもいい笑顔で、桃子さんは娘を見ました。


「早く返してあげなさいね、それ」


パタン。閉じられるドアと、遠ざかる足音。一人きりの部屋。
なのはさんはベッドに突っ伏します。


「ばれてるよー……」


耳まで、赤く染まっていました。



ついでに何かあればどうぞ。
あと1000文字。