月が出ていた。
窓の外の景色は何も変わらない。立ち並ぶ木々も、その合間から覗く空も、今日も同じ形に切り取られている。
まるで自分のようだ、と思ってから、そんな事を考えている自分が滑稽だと思う。
何を思い何を考えようと現状が変わるわけではない。自分は、この場所に留まるしかないのだ。
……己が居るべき場所は他にあると知っているのに。
瞳を閉じ、己が為すべき事をはじめる。
心に浮かべる姿はただひとり。
……もう二度と会う事はないであろう、ただひとりだけだった。