《オリジナル/この世でいちばんの不幸》


「イチ。君にいちばん美味しいところをあげるから」
うきうきした口調で明里がそう言って、大きな梨の皮を剥く。なんという種類の梨なのかは知らないが、身長に見合うサイズの明里の手の中でさえ余りそうな梨は、くるくるとまわされては白い中身を見せる。しゃくしゃくという音と、みずみずしい香りが鼻先をくすぐって、イチはかすかに眉をひそめた。
「なに?梨、嫌いだった?」
「いや。……あいつらにやれよ」
 遠い和室から庭を渡って賑やかな笑い声が響く。真が遊びに来ているのだ。
 ああ、と明里が笑う。
「もちろん。さくらにも、真にもいちばん美味しいところをあげるよ」
「………」
「ほら。梨とかリンゴはね、太陽の当たるいちばん上のところがいちばん美味しいんだよ」
 くるりと皮を剥き終わった梨を、きれいに八等分して、芯をとる。
 向き合った位置のものを二つずつ、四つの皿に盛る。
「全員、いちばん美味しいところが食べられるだろう?」
「………詐欺の口上みたいだな」
「そうだねえ」
イチの言葉にまったくだ、と明里がもっともらしく頷いて見せる。
朱塗りの盆に四枚の皿を載せて、子供たちが待つ賑やかな和室へと、運んで行った。



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