■ 犬と猫の話






「猫、良いよなー」

「いや、俺んとこのじゃなくてさ。親父の知り合いのなんだけど」

「蒼い目ですっげ綺麗なの。細いけどしなやかでバランス良くて、そうそうあいつパンチよりキックが強力なんだよ」

「我侭だし気紛れだしつれなくってさ、あんま触らせてくれねえし。でもそれも可愛いっつーか」

「たまーに甘えてきたりするともうマジで感動もんなんだって!」



机の向こうから聞こえてくる話し声に、青子が首を傾げる。

「何時の間に快斗ってば猫好きになっちゃったんだろ?」

幼馴染だというのに、特別快斗が猫を好きだという話を過去に聞いた記憶はなかった。むしろマジックで使う鳩の敵として警戒していたくらいだ。動物自体は嫌いではないが、だからと言って猫が特別好きというわけでもなかったはずなのに。

不思議そうに快斗を眺めている青子の隣で、紅子の顔が引きつっていた。
視線の先にいる快斗の顔はだらしなく崩れていて、彼の言う「猫」をそれこそ猫可愛がりしていることが窺えた。瞳が蕩けていて声に熱が入っている。
彼が語っているのは本当に猫の話なのだろうか、どうにも嫌な予感がした。


「あーもう、欲しいなー・・・・・・土下座してでも譲ってもらおうかな・・・・・・駄目かな、やっぱ」

青子の疑問と紅子の疑惑を他所に、快斗は机に突っ伏してぼやいている。












「犬か・・・・」

「いや、俺が飼ってんじゃなくて野良なんだけど。最近よく遊びに来るんだよ」

「ちょっと毛が跳ねてて、結構でかいんだ。かなり力も強くて、圧し掛かられたら重くてさ」

「構ってやると目輝かせてすっげー喜ぶんだよ。そういう単純なとこがまあ、可愛いっつーか」

「特に何かした覚えもねーのに、妙に懐いてくるんだよなぁ」


教室の端、友人と話している新一を眺めつつ、園子が顎に手を当てた。

「あら、新一君ってばそんなに犬が好きだったっけ?確かに昔ルパンには懐かれてた気がするけど」

その意見に蘭も同意する。動物に好かれる性質だし標準的には好きなのだろうが、特別に犬を好きだと言う話は聞いたことが無い。そもそも事件だの何だのと駆け回っているため、面倒を見切れないと言ってペットを預かる事さえ断るくらいだ。

友人相手に犬に付いて熱く語るその姿は何やら幸せそうで、発言も愛犬家のそれに近い。だというのに面差しは妙に甘ったるく見える。
なんだか恋人のことについて惚気ているみたい、などと蘭は漠然と考えた。


「まだ居着く気はねえみたいなんだけど。飼われる気になったら、首輪でも付けてやろうかなと思って」

幼馴染とその親友の怪訝そうな視線に気付かず、新一はにこにこ笑って上機嫌だ。







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