「真希ちゃん」
「ごきげんよう、白井さん」
 昨日、ミサでお会いしたみちるさんからとても綺麗な薔薇をいただいた。お庭にたくさんの薔薇が咲いたらしく、幸せのおすそ分け。綾瀬総合病院に飾るために持ってきた。
「素敵な薔薇ね」
「えぇ。教会に飾ろうと思って持ってきました」
「お手伝いするわ」
「お身体、よろしいのですか?」
「平気よ。薔薇を見ていると元気になるわ」
 赤い薔薇の花束。抱きかかえていた真希は教会でお祈りしている患者様に声をかけられて、ヴァージンロードの真ん中で立ち止まった。週に1度はボランティア活動のためにこの病院に来ているから、自然と患者様とは親しくなる。白井さんは癌の治療のために通院をされていると聞いている。
「トゲに気を付けてください」
 真希が抱える薔薇を奪うように受け取った白井さんは、鼻歌交じりに花瓶に薔薇を飾り始めた。投薬治療が終わった後で、少しお祈りをして心を落ち着かせていたところだったそう。この病院のボランティア活動は、真希にとってすべてが楽しいものだとは思わない。真希の名前を憶えてくださった人の中には、この場所で息を引き取る人もいる。お姉さまやお父様から訃報を知らされるたびに真希ができることは、祈ることだけ。お医者様になったとしても、命は救えない。そんなことはわかっているけれど、それでも、真希はお医者様になって、1人でも多くの人に幸せな死を、苦痛のない死を、否、できることなら納得のいく生を提供できるようになりたいと思うのだ。
「立派な薔薇ねぇ。真希ちゃんのおうちで咲いたの?」
「いえ。レイの……親戚のおうちのお庭で」
「レイちゃん?あぁ、火川神社の巫女さんね。そういえば、真希ちゃんは親戚だったわね」
「はい」
「顔も確かに似ているわねぇ」
「よく言われます」
 レイは病院に寄り付かないが、地域の神様と共に生きているため、麻布に長く住んでいる人は皆、火川神社の巫女をしているレイと綾瀬家という名前に馴染みがある。地域の行事があると火川のおじい様が何かしらの会長を務めていることが多いし、綾瀬総合病院は何かと協賛として地域の広告に名前が出てくる。
「しばらく枯れないといいわね」
「そうですね」
 蕾のものが多いから、次のミサまで持つだろう。みちるさんのことだから、これから散るようなものを避けてくれたに違いない。



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