真面目に授業を受けていた午後。英語のグラマーの授業は相変わらず単調で、英国育ちの帰国子女の先生が、アメリカ人が監修をしている教科書に時々よくわからない文句を言いながら、ひたすら文法について説明しているのを、ただ聞き流していた。
 単調な授業に面白さなんて必要はなくても、もう少し興味がわくように工夫してもらいたいもの。そんなことを思っていたら、誰かの携帯電話の小さなバイブレーションの音が耳に届いた。

 先生の咳払いの音とともに、授業終了のチャイムが鳴り、生徒は一斉に立ち上がった。これで6時間目の授業が終わり、あとは掃除をして帰るだけだ。今日は部活がないから、美奈たちとクラウンでお茶をすることになるだろう。約束なんてしなくても、誰かがいるだろうから。



『ホワイト・マッシュルーム、買ってきて』


 …
 ……
 ………


 礼拝堂の掃除をして、教室に鞄を取りに帰り、なんとなく携帯電話の画面をのぞき込んだ。画面を傾けたら1通のメールの新着。


 いつ携帯電話の情報を交換したのか記憶がないし、普段は連絡を取り合わない人物から、謎の買い物依頼。
 

 送信者を間違えていないだろうか。というか、送信者を間違っている確率が100%と断言していい。

 『お久しぶり。メールを送る相手、間違えているわよ』

 レイはそう返信を打っておいた。相手のメールの到着時間はさっきの英語の授業中だ。誰かの携帯電話が鳴ったと思ったのは、どうやら自分のものらしかった。久しぶりに名前を見て、元気にしているのだろうかって少し気になるけれど、ホワイト・マッシュルームを買ってご飯を作るということは、楽しく日々を過ごしているのだろう。戦いが終わり、麻布から少しだけ距離がある場所に住んでいるはずだ。場所は知らないけれど、そんなに遠くじゃないはず。


「レイちゃん」
 クラウンへ行くと、うさぎと亜美ちゃんがいつもの席に座っていた。美奈とまこちゃんは部活のあとに合流するらしい。ホットコーヒーを注文して、なんとなく携帯電話の画面を確認する。間違ったことに対しての返信はまだ来ていないようだ。それほど性格を把握している人ではないけれど、一般常識を持ち合わせている人には間違いないから、いずれ、連絡は来るだろう。せっかくだからレイに買いに行かせようとするユーモアを持ち合わせている人でもなければ、レイとそんなことを言い合える関係でもない。

「おまち~」

 アメリカに留学中の衛さんと、電話でどんなことを話したのかを散々聞かされて飽きてきたころ、美奈たちが来た。バレーの後だからと言い訳をしてチョコレートパフェを食べる姿を眺め、部活がないときは「育ち盛り」を言い訳にしていたのに、なんて心の中で突っ込んでみる。普通に食べたいと思って注文をすればいいのに、美奈は夕食前の甘い食べ物に少しの罪悪感を抱えているようだ。そして、月末に近づいてくると、お金がないと言ってレイの腕をつかんでくる。美奈に奢る理由は何もないが、奢りたくない理由も見つからずに、結局お金を払ってしまうのだ。
 うさぎの惚気の次は、美奈が追いかけているアイドルが解散するっていうどうでもいいことを聞かされ続け、窓の外が薄暗くなっていった。
腕時計は17時半を回っている。亜美ちゃんがそろそろ予備校に行くからと立ち上がるのに合わせて、レイも立ち上がった。家に帰って、お手伝いさんが作ってくれるご飯を食べたら、ゆっくり本を読んでお風呂に浸かって。そんなことを考えながら、お財布を取り出すついでに携帯電話の画面を確認する。何もメールが入っていない。念のためにレイはちゃんと自分がメールを送ったのかを確認してみると、そもそも、相手は既読をつけていないようだ。


 忙しいのだろうか。



一言のお礼はブログにて行っておりますので、ぜひ一言っ!(拍手だけでもOK)
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。

簡単メッセージ