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とある老執事の話をお楽しみ下さい。

*** とある老執事の話 ***


こんばんは。マスター、いつものを頼むよ。

……はい? 私ですか? 近くの屋敷で執事をしている年寄りです。
旦那様がおいでのときは食事を作るので、ついでに賄いを作るのですが、いらっしゃらないときはどうも面倒になりましてね。今日も、旦那様がおられませんもので。

え? いいえいいえ、とんでもない。夜遊びなど決してなさいませんよ。
お仕事です。とっても働き者の方でしてね、仕事が愛人と申しますか……お世継ぎの気配が微塵もございませんな。困ったものです。
見合い話は勿論山ほどございますが、どれも関心を持って頂けず……。

私は、今の旦那様がお生まれになる前から仕えておりまして。
旦那様が「坊ちゃん」だった頃からお世話させて頂いております。
手前味噌になりますが、自慢の坊ちゃんですよ。

経済的にはともかく、決して全て恵まれていたとは言えず、それでも賢明に努力を重ねておいででした。
今では本当にご立派になられて……礼装をお召しになった姿のお写真を見ると、涙がこぼれます。

見違えるほど出世され、やんごとなき身分になられた旦那様ですが、今でも時々、「坊ちゃん」だった頃の面影が垣間見えましてね……眠っている時のお顔ですとか、動物がお好きで、拾ってきた犬を大層かわいがっているご様子ですとか……ああ、この方は、あの「坊ちゃん」なのだなとその度に思います。

………おっと、失礼。どうやら、旦那様が予定より早く帰宅されるようです。
夕食の支度をしなくては。

では、また。



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