時間の流れとは残酷だ。

「さる、ひこ」
「みさき、」

ちゅ、と響く音はどこまでも卑猥で、身体を潤していく。
柔らかい唇は気持ちを高ぶらせ、だがどこかで落ち着かせてくれて。
好きな相手との口付けはこんなに気持ちいいものなのかと驚くほど、気持ちいい。

けれど。

―――ピピピ、

響く端末音。
分かっている。
終わりの鐘の音だ。

伏見の首に巻き付いていた八田の腕が離れようとするのを止めるように伏見はより強く八田を抱きしめる。
けれど『もう時間だろ』と苦笑するように唇も離れ、先ほどまで見えなかった赤い頬が姿を現し、口付けの代わりにというように銀の糸が二人の間をつなぐ。

「まだ、もう少し」
「ダメだろ、端末鳴ってる」
「どうせ副長だ」
「なら尚更ダメだろ」

路地裏。
乱れた息遣い。
抜け出したことがどうやらバレたらしい。
だがきっと副長こと淡島世理はいま伏見は八田と一緒にいることに気付いているだろう。
持ち場を離れるなんて八田絡みでないと、そんなことはしないと分かっているだろうから。
伏見は舌打ちをし、もう一度だけ口付けて八田から離れる。
そして帽子が脱げている頭をクシャリと撫でた。

「そしたら美咲、」
「あぁ」

「「またな」」

パン、と手を打って互いに別方向へと歩いて行く。
二人は今敵同士。
同じ所から出るわけにもいかない。
たとえ二人の仲がバレていたとしても、それを直接見せるか見せないかでは大きな違いがある。

次に会えるのはいつだろう。
次に触れられるのはいつだろう。
伏見は寮に入っている為、簡単に会うことは出来ない。
休みだって簡単に取れるわけではない。

あぁ、もっともっと傍にいて触れていたいというのに。

もっと長く。
ずっと、ずっと――――


(美咲)
(猿比古)


時間の流れとは残酷だ。







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