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以下お礼文です。
(両片想いもやもや銀妙。お妙さんサイドと銀さんサイドで2ページになってしまいました…)



銀時と妙




洗濯物を干していると縁側に置きっぱなしの携帯が鳴った。通話ではない。短い振動だけの通知。弟だろうか、と妙は携帯を確認しにいく。新八は今朝から贔屓のアイドルのライブ遠征へ出掛けていて、泊まりだから今日は帰って来ない。

「…あら、まあ」

画面を見ると、メッセージがぴこんと表示されている。送り主は弟ではなかった。というか当分弟の携帯から連絡は入らないだろう。メッセージは彼の上司である坂田銀時からだった。

[新八、うちに携帯忘れてるわ]

用事があるからと万事屋に寄って空港へ向かうと言っていたが、きっとその時に忘れたのだろう。馬鹿ね。届けるにしても、もうとっくに飛行機は出ている。間に合わない。まあ電子チケットではなく紙チケットだったし、財布も持ってるだろうから最悪の事態は免れるだろう。少しの不便くらいお通ちゃんが忘れさせてくれる。妙はすぐに返信を打った。

[すみません。そのまま置いといてもらえます?]
[今日から遠征だろ?携帯なくていーの]
[なんとかなるんじゃないですか?一応タカチンくんに連絡しておきます]
[あいつも以外とマヌケだよな~]
[意外、ね]
[こまかいな。母ちゃんかよ]
[そういえば銀さん、年賀状の"謹賀新年"も間違えてましたよ]
[そんなわけないだろ]
[証拠あるもの]
[破り捨てろ]
[新ちゃんは忘れんぼうだし、銀さんは漢字もろくに知らないし、わたし安心してお嫁にいけないわ]

新八についての用件を話し終えた後で、どうでもいいやり取りが続くのが案外楽しい。立ちっぱなしだった妙はついに縁側に座った。向こうの返信が早いので洗濯物もなかなか再開できない。なのに自然と上がる口角は誰にも見られる心配もないのでそのままにしておこう。ラッキーだ。こんなふうにメールをするのは珍しい。

「志村さーん、こんにちはぁ」
「あ、」

しかし返事を待っている間に客人が来た。回覧板を持ってきたご近所さんだ。はーい、はいはい、と声をかけながら慌てて玄関へ向かう。話が長いのできっと30分は捕まってしまうだろう。いい加減洗濯物も片付けなきゃいけない。あと洗い物もまだやってないし買い物にも行かなくちゃ。しなければいけない事を頭で整理して、ご近所さんが帰ると順に取りかかり、やっと一段落して縁側に置いたままの携帯を見ると9件の新着メッセージがあった。全部銀時だ。はて、と思って開いてみる 。

[予定もないくせによく言うよ]

予定?と妙は眉根を寄せた。ああ、お嫁に行けないと言ったことへの皮肉か。続けてメッセージに視線を落とす。

[え、何。なんで急に黙るの]

[まさかマジで結婚すんの]

[ついにゴリラと?]

[いや、それはないか]

[ゴリラ以外にいんの?]

[おい]

[お妙さん]

[何か怒った?]

なんだ。妙はむくれたように唇を尖らせる。何で私がゴリラと結婚するのよ。だいたい結婚報告をこんな形でするわけない。そんなのわかりきったことじゃないか。わかっていて深掘りするから意地が悪い。どうせあの人は私のことをどこにも貰い手のない女だと思っている。結婚不適合者の仲間だとでも思っているのだ。

「…なによ」

だけど彼は知らない。私が先週求婚されたこと。スナックに来たお客さんだった。貿易会社の社長の息子さん。一度デートをしてほしいと言われ、何度断っても引き下がってくれないのでついにこちらが折れたのだ。だって理由がない。私には恋人がいない。将来を約束した人がいない。デートは楽しかった。彼はスマートで紳士的で、だけど裕福さを見せびらかす素振りのない姿勢はとても好印象だった。そして帰りに早速求婚されてしまったのだ。結婚を前提にお付き合いを、というよくあるセリフ。尚早すぎないかと指摘すると、だってもう次は会ってくれないでしょうと芯をつかれた。

[しますよ]

トトトト、と文字を打つ。送る。すぐに既読になった。どんだけ暇なんだ、このひと。

[何を]

短い言葉が返ってくる。私も短く返した。

[結婚]

是非、と言えたら。是非お受けしますと返す事が出来たら、私は今頃立派な玉の輿に乗っている。悪い人じゃない。とてもいい人。もったいないくらいだ。家柄も申し分ないし外見だって素敵だった。そこまで揃っていて、だけど私の気持ちはとっくに決まっている。決まったままびくともしない。

[誰と]
[優しくて素敵な人]

そこで通知が止まる。すぐ既読になるくせに返信が来ない。部屋の静けさがやけに痛く感じた。なによ、この間は。お茶でも淹れようかと立ち上がろうとしたところで携帯が鳴った。ああ、もう、やだな。電子機器に踊らされてる。

[いつ]

さっきから質問ばかりだ。なにを、だれと、いつ。まさか本当に結婚するとでも思っているのか。携帯越しでは本気か冗談かわからない。だけどあの嫌味な人が真に受けるかしら。妙は若干戸惑いながら返信をした。

[いつか]

そこで、また間が空く。既読はついた。何だか苛立ちに似たものがふつふつと沸き上がる。返事がくる前に、もう送ってやろうか。困らせてやろうか。全部教えてやろうか。このもどかしさも、私の望みも、全部。自棄になってポンポン文字を打っていく。

[いつかあなたのお嫁さんにしてくれますか?]

しかし実際の文面を見て、加速した勢いが急に止まった。ぶわっと額に汗が浮かぶ。やばい、だめだめだめ。どうやっても笑い話にならない気がする。絶対気まずい。間違って送信ボタンを押したら大変だ。一度打った文字をトトトトト…と一気に消した。ああ、意気地なし。消してしまった言葉は一文字も伝わらない。当たり前だ。あんなに緊張して打ったのに、一文字も、一ミリも伝わらない。文字のやり取りってそういうものだ。これが実際に向かい合った会話だったら、或いは電話だったら、何かを言おうとして言えない気配がきっと伝わってしまう。空気が変わる。言おうとして、はぐらかして、別の話題を見つけて、だけどさっき飲み込んだ気持ちが少しだけ身体の中から出てしまうのだ。視線とか、指の動きとか、そういうところから。話が完全に別の方向へ行くとほっとしながら落胆して、わざと大袈裟に笑ったりして、そうやっていつも逃げて。逃げて、ここまで来た。あああ、と携帯画面に額をくっつけて縁側に倒れる。悶えて足をばたつかせ唸ってから脱力する。なんだ妄想かよ、と鼻で笑うあの人を思い浮かべて携帯を睨み付けた。なによ。ばか。人の気も知らないくせに。


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