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 夏の長い日が落ちた後。
 元々それほど暑くなるわけでもない森の中は、そうなればいっそ肌寒く感じるほどに涼しい風が吹き通る。
 それが、湖の畔ともなれば、尚更で。
 ざあ、と木立ちを揺らす風の音が、さわさわと湖の水面を揺らす静寂の音へと変化するのを肌で感じながら、黒子は特に気配を消すでもなく通い慣れた湖までの道を歩く。
 その先に、確かに予想の通りの俄か同居人の姿。
 湖に顔を向けた火神の背が、しっとりと重い闇の中に確かな熱量を持って佇んでいる。
 その、たった一ヶ月足らずの内に見慣れてしまった姿を、黒子はしばらく森と湖畔の境目に立ち尽くしてじっと、何かを堪えるように目に焼き付ける。
 潔いまでに張り詰めた、奇麗な背中。
 その姿に黒子はそっと、覚悟を決める。
「…火神君」
 風の音に乗せるように静かに紡いだ声は、そのまま背を向けた相手の耳に届いたようで、伸ばされた背筋がゆっくりと森と湖の境目に佇む黒子の方を振り向く。
 振り向いたその顔に、驚きの色はなく。
「黒子」
 ぽつり、と。
 何かを確かめるように紡がれた名前には、一体どんな思いが込められていたのか。
 確かめようにも、既に薄闇とは言えない暗さに沈んだ森の湖畔、十歩分ほどの距離を挟んだ相手の表情はほとんどが影に沈んで杳とは知れない。
 それでも黒子には今、それ以上の距離を詰めるだけの気概は持てず、その距離を―――十歩分の距離を縮めることはせず、湖の岸辺と木立ちの境目に立ち尽くしたまま、ゆっくりと生ぬるい空気を吸い込む。
 涼を含むとはいえ夏の空気。
 しかし、肺腑に満ちた空気が喉から声となって出てこようとしないのは、決して湿気を含みじとりと張りつくような、そんな暑気のせいではないだろう。
 自身のそんな往生際の悪さに呆れながら、黒子は無理矢理にもう一度、火神君、と舌を動かす。
「一緒に、この森を出ましょう。…君の記憶を、取り戻すために」
 告げた声は、思う以上にしっかりと、震えることなく夜気に響く。
 真っ直ぐに、静かに夜闇を貫くように。
 そうして、さらさらと鳴る水面を揺らす風の音が、さわさわと木立ちを揺らす風の音が、妙に耳に突く沈黙が横たわる。
 何も言わない火神と。
 もう何も言えない、黒子と。
 沈黙は、息さえ潜めて二人の間に蟠る。
 鼓膜を震わす自身の言葉を、正直、今すぐにでも撤回したくなるその沈黙に、もう、あと一秒も耐えられないと黒子が思った、その時。
 じゃり、と土を踏む音がして、上半身だけ捻るようにしていた火神が完全に湖に背を向け、真っ直ぐに黒子に相対してくる。
 そして、闇を透かしても真っ直ぐに射抜くような、獲物を前にした野獣のようにぎらつき底光りするような視線が、逃がしはしないというように黒子をじっと、射竦めて。
「―――お前は、それでいいのか?」
 その声は、視線のようにぎらついたところも攻撃的なところもない。
 あくまで淡々と、背後に広がる夜の湖の水面のように静かな声。
 湖のように、底に見えぬ何かを孕んだ、声。
 闇を透かして対する黒子にその真意を読み取れないまま、けれど一月以上を共に過ごした勘だろうか、わずかに滲む黒子に対する心配のような色をわずかなりとも感じ取って。
 こんな時でも彼はお人好しだと、少しだけ、可笑しい。
 そんなことを思える自分が、少しだけ、嬉しい。
 あまりにも互いを知らないままにすごした一ヶ月。
 けれどもそれは、確かに黒子の中の真実だ。
 だから。
「はい」
 もしも君との繋がりがこれきりになったとしても。
 それでも、僕はこの決断を後悔しない。

絶対的存在感 -前



とりああえず次の更新候補その一。
私得と思っていたのに予想外の人気ですごい戸惑った挙句怖くなってちょっと更新が止まったという逸話付き(ぇ。
後半ではそろそろ青峰君が出てくるかなーとか思ってます。登場がおもっきり悪役予定だけども!しかたないよね!

書きたいものがいっぱいいっぱい。
もっかい押すと黒子っちはぴばという名のショタ黒愛され話(未満)が出てきます。




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