時計の針が、5から6に動いて、7、8、9、10、11、ようやく12。 その間ずっと、イリアはルカの背中に額をくっつけたまま声も出さずに、ルカはただその行為を甘んじて受けていた。 何も、聞こえない。 ぼんやりと浮かぶ月明かりが暗い部屋に差し込む、小さな虫の歌声より他に。 流石に疑を覚えて、ルカは小さな声で「イリア」と彼女の名前を呼んだ。 それでも、答えは無かった。 身体を捻ろうとして、動かしたと同時に腹部に襲った鈍痛にそれは叶わず、ルカは顔を歪める。 歯を食いしばった奥で、零れた呻き。 「死んでもいいなんて、思ってる?」 「え?」 「あんた、あたしのためなら死んでもいいって、思ってる?」 彼女の言動は、何時だって唐突で、予測不可能で、だから今だってそう。 ルカは思考も追いつけずに、目を丸くするだけだった。 ただ背中を向けたままではイリアの表情は見えなくて、唯一彼女の情動を知る術は震える、声の調子。 「答えてよ」 いつもみたいな不機嫌さを含んだ怒鳴り声でも、小馬鹿にしたような笑い声でもなかった。 恐怖と、不安と、それから怒りを孕むない交ぜな感情に耐え切れずに零れた声だった。 「死んでもいいなんて、もう思ってないよ」 胸に回った掌をルカは握った。 やっぱり、震えていた。 「でも、イリアと一緒に僕はこの世界を生きていたいと思うから」 たとえ腕が一本無くなろうと、目が瞑れようと、彼女の居る世界に生きることが出来るなら、それでいい。それがいい。 「死んでもいい、じゃないよ。何が何でも生きていたいから、だよ」 強くなりたい。 強くありたい。 世界で一番強くなくてもいい、それで、守ることが出来るなら、それが何番目だろうと構わない。 限界など見えなくても、それを以て傷付けてしまうものがあったとしても、震える声で「ばか」と紡ぐこの唇がいつまでも隣にあるのならば、永久の先の輪廻の果てまでずっと。 病的だ、と言う。 自分でもその意識はある。 もしかしたら、未だ魂の底に沈む滑稽な願いの破片の所為なのかもしれない。

 

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