「まだですか」 「まだ…もうちょい待って…」 「さっさ決めて下さい。なんぼほど迷うんすか」 かれこれ30分、同じ店の同じスペースで立ち尽くしてる謙也さんに俺は5分置きで同じ問い掛けを繰り返してた。 部活が終わってちょっと買い物したいから付き合って、すぐ終わるしマクド奢るからって言うからついて来たったのに。 謙也さんが買おうとしてるんはリストバンド。今まで使ってたのが流石にもうボロボロやからってのは言われんでも見れば明らかやった。 やからそれを買い替えるのには賛成。ずっと身に着けるものやから気に入ったのを選びたいんもわかる。 でも謙也さんが今、何を悩んでるんかは理解出来へん。右手に持ってるリストバンドと左手のそれ。俺には両方全く同じに見えた。 「…それ、何がちゃうん。デザイン同じやん」 「微妙にちゃうねん!こっちのがふかふかしてそうやねんけど、先に目についたんはこっちやし…」 言いながら更に悩みこむ謙也さんに、沸々と沸き上がってた苛々が増していくのを感じた。 白と黄緑のリストバンド。謙也さんが手にしてる二個の他にも籠に敷き詰められてる量産品。 そんなんどれでもええやん。一番上に積まれてるやつで何があかんの。 部活後の空腹も手伝って遂に苛立ちが頭まで上った俺は、謙也さんの手からリストバンドを二つとも引ったくった。 「あっ、何すんねん!」 「はいあんたはこれな」 「へ?」 奪った二個を握りしめて、謙也さんには籠から新しく取ったものを押し付ける。 状況が飲み込めてないらしく間抜けな顔して立ち尽くしてる謙也さんはほっといて俺はレジに向かった。 「これ下さい」 「ちょ、光!?」 「うっさい、あんたがさっさと決めへんからやろ」 一度きつく睨み上げたら謙也さんはうっ、と言葉を詰まらせた。簡易包装された二個のリストバンドは素早くリュックに仕舞ってしまう。 「ほら、謙也さんも早く会計済ませや。俺腹限界っすわ」 「お、おん…」 俺が押し付けたリストバンドを渋々とレジに差し出した謙也さんは納得いかんて顔してたけど、それ以上文句を言ってはこんかった。 謙也さんは包みを断ってそれを手にしたまま店を出る。じっと見つめた後、腕に嵌めて色んな角度から眺めてからうん、と一つ頷いて。 「これも案外ええわ。有難うな財前」 「こっちは無駄な出費してん。照り焼きのバリューセットな」 「うっ…100円マックやあかんの?」 「三角チョコパイも付けますか?」 「…バリューセットでお願いします」 うなだれる謙也さんの隣に並んで歩きながら、リュックの中の二つのリストバンドをどうしようかと思い耽った。 そんな経緯で入手したそれを、まさかボロボロに擦り切れるまで大事に使い込むなんて事。 その時の俺は、まだ知るよしも無かった。 |
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