君の代わりに(神+リナ)




少女は泣いていた。
両手で顔を覆い隠し震える姿はとても痛々しく、傍で少女を見守っていた彼女の兄は辛そうに視線をそらす。
彼女の目の前には綺麗に並べられた白い棺。どうやらその棺の中に、彼女と親しかった人々が眠っているらしかった。

「リナリー、そろそろお別れの時間だよ。部屋に戻りなさい」
「いや…、お別れなんて、いや…!」

リナリーと呼ばれた少女は、兄の言葉に大きく首を振って反抗した。ふたつに結ばれた髪の毛が耳の横で揺れる。
まだ幼い彼女は相次ぐ人の死に遭遇するたび、その大きな瞳から涙を溢し、それを嘆く。
その場を離れようとしないリナリーに兄は困り果てていると、相変わらず不機嫌そうにしながら廊下を歩く少年を見つけ、彼はその名前を呼んだ。

「神田くん、ちょっといいかな」

呼ばれた少年こと神田は、黙ったまま兄、コムイの元へ歩いていく。
コムイは泣きじゃくる妹の肩を抱き、神田に言う。

「もうすぐ火葬の時間でね、リナリーを部屋まで連れていって欲しいんだ」

僕は最後まで見届けなくちゃいけなくて、とコムイが言うと、状況を何となく理解した神田は小さく頷く。
妹を神田に託すと、コムイはよろしくね、と言い残して行ってしまった。
神田はまだ泣いているリナリーを見、口を開く。

「…行くぞ」
「いや…」
「……お前がここにいたところでこいつらは生き返らないし、どちみち燃やされるだけだ」

行くぞ、ともう一度静かに言って歩き出すと、リナリーは涙を拭いながら後ろをついてきた。
結局何もできない自分に腹立たしさを感じながら。








「神田は悲しくないの?」

涙もどうにか止まったころ、長く続く廊下を並んで歩きながらリナリーは尋ねた。
かつん、という靴音がやたら耳に響く。

「…別に」
「どうして?だって今まで一緒にいたんだよ、一緒に戦ってくれてたんだよ」
「………」

リナリーの言葉に、神田は無言で返す。
悲しくない、というのはある意味語弊だったのかもしれない。悲しくないわけではないのだけれど、きっと悲しめないのだ、彼は。
神田は返事を返す変わりに、違う言葉を投げかける。

「…お前が、」
「え?」
「お前が、泣けない奴らの代わりに泣いてやればいい」

だから泣いてもいいのだと。
涙を耐える必要などないのだと。
遠回しに伝えられた彼なりの優しさに、リナリーは再び涙した。





泣けないあなたの代わりに、
(私は泣くの)

















(書き下ろし)

2009/4/18




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