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以下のお礼文は、pixivに上げたももほたの「策士、策に溺れて」という話の後日談みたいなオマケです。
該当作品を読んで頂いた方がわかりやすいと思います。
(2020/08/08更新:お礼文1種類)

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「おっ、か〜がやん!」
廊下の前方を歩いている見慣れた赤髪を見つけて駆け寄ると、振り向いたクラスメイトは心底嫌そうな顔で、ゲッ、と口にする。まったく酷いなぁと思いつつ、いつものことなので気にしない。
「仕事おわり?午前中はかがやん居なくて寂しかったなぁ〜」
ホットブラッドは外せない仕事が入ってしまったらしく、午前中に公休をもらったと聞いていた。ちょうど学園に着いたところだったのだろう、鞄を肩にかけたままだ。
「うわっ、櫻井ひっつくなっつーの!」
警戒しまくっている加賀谷にぴたりと体を寄せると、案の定しかめっ面で俺の肩を押し退けてくる。いいねいいね、そうこなくっちゃ。この嫌そうな顔が面白くて揶揄うのが止められないのだと、本人は気付いていないのだろう。ははは、と笑うと、半分諦めたようにため息をついて、加賀谷が顔を逸らすように窓の外へ視線を向ける。
「あ、」
「なになに、誰か居た?」
何かを見つけたような加賀谷の表情に気づいて、その隣に並んで窓の外を覗く。
「あれ、蛍たちだ」
加賀谷の視線の先を見ると、蛍と椿、そのすぐ後ろを鳥羽と藤間が楽しそうに談笑しながら歩いている。ちょうど昼休みに入ったばかりだ、向かっている方向からして食堂にでも行くのだろう。
そういえば、と加賀谷が思い出したように言葉を零す。
「あいつら、昼は約束があるつってたな」
なるほど蛍と食う予定だったのか。合点がいったような表情の加賀谷をちらりと一瞥して、もう一度視線を後輩たちへ戻す。
ここからじゃ何を話しているかは分からないけれど、笑い声と楽しそうな表情を見ればずいぶん仲が良いのが見て取れる。じっと視線を投げてみるけれど、誰もこちらには気づいていないようだった。
「仲いいな、あいつら」
「ねぇ」
加賀谷の言葉に短く相槌を打つ。加賀谷の声はただの感想という感じだ。
同じクラスの仲の良い四人組なのはよく知っているけれど、実際にこうして四人が揃っているのを見るのは初めてかもしれない。あぁ、案外蛍は同級生とは距離が近いんだな、とその姿を見てなんとなく思う。蛍は初めて会った時から人見知りの気があったから、同級生たちに馴染めているか心配だったのだけど、どうやら俺の杞憂だったみたいだ。
ふと、鳥羽が蛍の肩にグイと腕をかける。ぴくりと、自身の眉根が寄るのが分かった。続いて、椿が蛍の腕を軽く叩いて、楽しそうに四人が笑う。
「……………………」
つい蛍の様子を目で追ってしまう。特に驚いたように体を揺らす様子はなかったし、ビクリと強張るような仕草も見えなかった。至って普通の、友人たちとのスキンシップの光景だ。そうか、俺との練習で慣れたのだろうか、ああいう触れ合いが出来るのは微笑ましいことだな。そう思わなくちゃ、いけないはずだけど。
「……櫻井?」
「えっ、あ、なに、かがやん」
怪訝そうな声が耳に届いて、ハッと隣を見ると、友人が訝しげな目でじっと俺を見ている。
「なんつー顔で見てんだ、お前……」
「え?」
なんつー顔、というのは。ぺたりと右手で自分の頬に触れる。そんなに変な顔をしていただろうか、俺はただ仲のいい後輩たちを優しく見守ってただけで、
「不満そうっつーか、拗ねてるみてぇな顔。蛍と喧嘩でもしたか?」
思わず、言葉に詰まった。不満そうな顔、と聞いて頭に浮かんだのは、鳥羽が蛍の肩に腕を回す場面だ。
本当は、克服したね、と喜ばなきゃいけないはずなのに。それなのに俺は、確かに「俺のものに触れられた」と思ったのだ。
俺が懐柔したのだから、蛍に触れていいのは俺だけなのに。そんな子どものような独占欲で、仲良さそうに連む彼らを見て、嫉妬のような感情を持った。それがどうしてなのか、分からないほど子どもではないけれど、どうしたって口にするのは憚られる。
「や、喧嘩なんかしてないよ、」
もう一度、窓の外へ視線を向ける。もう蛍たちの姿は見えなくなってしまっていた。とっくに食堂へ入ってしまったのだろう。
「……ただ、ちょっと自分にビックリしただけ」
スキンシップの練習にと、あのハグを始めた時には、俺がまさか蛍にこんな感情を抱くとは思ってなかったけれど。
一週間前、ただのスキンシップのつもりで蛍の肩に頭を寄せた時のことを思い出す。体温の近さと、ほのかにする石鹸の匂いと、こちらを見る蛍の瞳がやけにキラキラと輝いて見えて、それだけで胸の辺りが苦しくなった。どくどく鳴る心音がうるさくて、少し気恥ずかしくて、急に自分が蛍にどう思われてるのか気になって落ち着かなくなったのだ。
今までかわいいかわいいと後輩の一人として蛍を愛でていたはずなのに、あれから可愛いと口に出せなくなったのは、言葉にしたらあまりにも熱が篭ってしまいそうだったから。
「ただ、距離感って難しいなーって、思っただけ」
近過ぎたのだろうか、いやそんなはずはないけれど。うーん、と少し唸れば、興味があるのかないのか、加賀谷はへぇと短く相槌を打つだけだ。
加賀谷が変に勘繰ったりしない奴でよかったな、と口元に笑みが浮かぶ。
「さ、俺たちもお昼食べよっか、かがやん」
「なんでお前と食うことになってんだよ」
「え〜いいじゃんケチ〜」
嫌がる加賀谷の隣を歩きながら、先ほどの蛍の姿を思い出す。懐いてもらいたかっただけなのに、俺の方が蛍に懐いてるなぁ、となんとなく自虐的な笑みが漏れた。今日は部屋に帰ったら、ただいまと言って、いつもより長くその体を抱きしめてみようと思う。





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