□ ある侍女と侍女の密談 □ (81話の閑話。巫女付き侍女たちの会話)



巫女さまがシオンさまのところへ行っている今のうちに、ティーカップを片付けて、ベッドシーツの交換も済ませようと思い、シーツを取り外して新しいシーツを用意したところで誰かが扉を叩いた。
部屋の主の巫女さまは、今はいない。このままにしておくべきか、扉を開けて対応するべきか悩んでいると、扉が開いた。

「アイネ!久しぶり~!」
「え、エレナ?」
「私も巫女さまの専属侍女になったの!」

ついさっき巫女さまが教皇に頼みに行ったばかりなのに、この早さはありえない。
それにエレナのことだから、女官達の目の敵にされそうなことを嫌がるはずだから、きっと時間がかかるはずと思っていた。

「エレナなら、断るかもしれないって思っていたのだけど・・・・・・」
「そこは、あれよ・・・・・教皇から直接頼まれたし、休みも増やしてくれるっていうし・・・・・・何より、賃金がすっごく良いの」

最後の一文を上機嫌に言ったところを見ると、きっとそれに釣られたんだろうと気づいてしまい、思わずくすりと笑ってしまう。

「エレナ、それはお金に釣られたっていうのよ」
「まあ、そうとも言うわね!それよりアイネ、これからよろしくね!」
「ええ。こちらこそ、お願いね」

手に持っているベッドシーツをベッドに取り付けようとした時に、エレナが気がついて手を差し伸べた。

「シーツを取り替えるのね?それなら手伝うから、半分貸してちょうだい」
「ええ、それなら私は上を抑えるからエレナは下をしてくれる?」
「わかったわ」

手分けしてベッドシーツを取り付けると、いつもよりも綺麗に早く仕上がった。
後は掃除をして部屋の空気を入れ替えるだけど、これならきっと早くに仕事が終わるかもしれない。
仕事が終わったら、巫女さまの元へ急いで駆けつけようと考えていると、また誰かが扉を叩いた。

「いませんか?」

声ですぐにアリエスのムウさまだと気づいた。
鍵はかかっていないけれども、きっと勝手に扉を開けて入ってくることはない。
けれども巫女さまと恋人関係だから、このままというわけにもいかずに、扉を開けて対応することにした。
扉を開けると、ムウさまは思っていた人物と違う人物が出てきたことに、少し驚いたようだった。
驚かせたことへの対応に、軽く頭を下げて礼の姿勢を取る。

「巫女さまでしたら、先ほど教皇様の元へと行きました」
「シオンのところに?」
「ええ、教皇様とお話があるようでしたので」
「そうですか、ありがとうございます」

優美な笑みを浮かべると、ムウさまはすぐに教皇のところへと向かった。
ムウさまが心配するように、教皇様の巫女への対応は一線を超えているような気がする。
ごくたまに、教皇さまは恋焦がれるような視線で遠くから巫女様を見ているけれども、それがたまに不安になってしまう。
選ぶのは巫女さまで、もう巫女さまも心を決めてしまっている。もしそれに教皇様が気づいた時に、いったいどうなってしまうのだろうと。

「あの、アイネ・・・・・・どうして、アリエスさまが巫女さまの部屋に?」
「それは、巫女さまに会いたかったからと思うけど・・・・・・」
「前からずっと気になっていたんだけどさ・・・・・・巫女さまとムウさま、互いに視線で探し合ってるよね」
「え・・・・・・視線で探し合う?」
「うん、ほら・・・・・・互いに存在を確認しあってるというか、まるで・・・・・・互いに想い合ってる感じ?」

本人たちはひっそりと恋人として互いに想い合っているけれど、まさかエレナに気づかれていたことに驚いた。
巫女という立場があるから、本人たちは上手に隠してしまっているので、感づくのはすごく難しいと思う。
でもこれなら、もう言ってしまった方が良いのかもしれない。同じ巫女さまの侍女として、いつかは気づくことなのだから。

「あのね、エレナ。落ち着いて聞いて」
「なになに?どうかしたの?」
「その、いつかは気づくから言うけど・・・・・・巫女さまとムウさまって恋人関係なの」
「マジ?」
「本当のことだけど・・・・・その、巫女さまにも立場があるから黙っていて欲しいみたい」

エレナは一瞬、驚いたように目を見開くと、珍しく真剣な顔になる。

「え、それっていつから?というかさ、どこまで進んでるの?」
「いつからって言われても・・・・・・たぶん巫女に就任した後で・・・・・・その、頻繁に夜を共にしている関係というか」
「うわぁ・・・・・・そこまで進んでたんだ。巫女さま、やるぅ・・・・・・ん、この場合はムウさまがやり手というべきか」

私も同じ部屋に居るのに、気にせずに巫女さまに触れようとしているところを見ると、本能のまま動いているように見えてしまう。
巫女さまも異性に近づかれても、女聖闘士だった名残で動揺することは一切なかったけれど、それが余計に問題を大きくしてしまっているような気がする。

「あのさ、それ・・・・・・することしちゃってるんでしょ。もし、子供ができたらどうするつりもなんだろ」
「ムウさまに、何か渡されているようだから・・・・・・おそらくムウさまが対応していらっしゃるんじゃないかしら?」
「ふ~ん・・・・・・でもさ、体のことを考えたら、そんな危険なモノを渡すわけないと思うから、効果はそんな強くないんじゃない?」

言われて初めて気がついた。あれだけ巫女さまを大切にしているところを見ると、たしかに危ない薬なんて渡すはずがない。
おそらく体の負担を考えて効果が高いというくらいに収めている可能性がある。

「・・・・・・もし、巫女さまが身ごもってしまうことになれば・・・・・・」
「きっと、父親は誰だー!ってなるわね。ま、ムウさまだけど」

もしそうなれば、自然と巫女さまとムウさまの関係が聖域中に知れ渡る。
巫女さまは役目を辞任してしまう可能性だってある。そうすればきっと、ムウさまと夫婦関係を築くことになる。
まさかムウさまは、そこまで考えて行動しているかもしれない。でもそれは、可能性の話であって、疑惑でしかない。
それに、決めるのは全て巫女さま自身だから、

「あれ、でも巫女さまの就任って、そんな前のことじゃなかったはず・・・・・・ということは、巫女さまは最近になって恋人になったんでしょ」
「ええ」
「そういえばさ、巫女さまってムウさまのことを嫌ってたって聞いたけど・・・・・・嫌ってる人間が近づくわけないわよね。じゃあ、ムウさまが押したの?」

思い返せば、ムウさまは常に巫女さまの行動を先読みしていた気がする。
とくに当時は、シャカさまと巫女さまの穏やかな雰囲気を見るたびに、何か焦っていたように動いていた。
一時巫女さまの護衛だったシャカさまと、巫女さまは仲が良かったように見えたから、余計に奪われてしまうような感覚があったのかもしれない。

「押したというよりも、焦っていたような・・・・・・」
「焦ってた?!何それ!じゃあさ、もしかして当時は巫女さまは他に意中の人が居たとか?たとえば、教皇さまとか・・・・・・」

いきなり教皇さまのことを言われ、少し驚いたけれど、エレナも教皇さまが巫女さまに向ける視線に気づいてしまっていたのだろうと思った。

「教皇さまと巫女さまは、小さい頃からご存知だったらしくて、父親に似たような感覚っておっしゃってたけど・・・・・・」
「はあ?!外見詐欺感はすごいけど・・・・・・まあ、外見詐欺前を知っているから余計にそうなっちゃったのかしら」
「外見詐欺って・・・・・・」

たしかに実年齢はかなり高いのに、肉体年齢が18歳らしいから、詐欺といえば詐欺かもしれない。

「まあ、ムウさまとシオンさまって同じ民族だけあって少し似ているから・・・・・・うっかり子供ができていても、立派に父親をやっていけそうね」
「あの、エレナ。さっきから何を言っているの?まるで教皇さまと巫女さまが将来一緒になるみたいに聞こえるけど・・・・・・」
「ああ、まあ・・・・・・アイネには、いっかな。あのね、契約の一部にシオンさまの恋路を応援するってあるのよ」

「え・・・・・・それは、つまり・・・・・・ムウさまと別れて、教皇さまと恋人になるようすすめるってこと?」
「まあ、そうよね・・・・・・」

「私は、巫女さまが幸せになれれば・・・・・・それでいいの。巫女さまの幸せは、巫女さまが決めるもの」
「今の巫女さまは、ムウさまの傍に居て、とても幸せな笑みを浮かべているの。だからそのままにしてあげて」
「そう。ならアイネはムウさまを応援するのね。私はシオンさまを応援するから・・・・・・だって、そういう契約だもの」

「大丈夫よ。シオンさまにムウさまと巫女さまの関係は言わずに、なるべく自然消滅目指しつつ・・・・・・シオンさまのサポートするから!」

エレナはきっと、巫女とムウさまが恋人になる前のムウさまを行動を知らないから、自然消滅できると思っている。
シャカさまや教皇さまと違い、初めから常に巫女さまだけを見ていたムウさまを知らないから、そんなことを言えるのかもしれない。
それにそんな簡単には、あの2人は離れないと思うけれど、それはきっと自分で判断しなければいけないこと。

「そう、なら・・・・・・私は何も言わないわ」
「ありがと、アイネ」

嬉しそうにエレナはにっこりと笑みを浮かべた。
エレナは契約だから動くと言っているけれど、私はただ、巫女さまの傍にいたいために動く。
だって知っているもの、エレナはとても面白くて話やすい子だけど、とても頭が良くて要領が良くて、冷静な判断力を持っている。
女官の方々にも気に入られていて、自分に被害がないように動く子だってことを。




-fin-







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