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今回のお礼はⅢ賢者♂×Ⅲ勇者♀です。全部で10Pあります。





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 アリアハンの勇者が極秘裏に旅立っていたことを知ったダーマ神殿の驚きようと言ったらなかった。
 とは言ってもそれは空の上の話だけで、報告の義務が果たされていないだの、勇者の候補生だから問題ないだの、そんな話が天井からたまに漏れ聞こえてくるのにはうんざりした。
 どうでもいい話だ。勇者なんて何人目だ。それより業務回してくれよとか、まだ転職者のリスト出来ねえのかよとか、そううんざりしてた頃にまさか自分にかの問題が落ちて来るなんて、神っていうのはどうかしているとしか思えない。
「勇者の監視役をお願いしたい」
 メレゾフ神官長が言った。僕は耳の穴をほじった。
「なんて? リスト、出来たんですか」
「はい」
 デスクに地鳴りのような音を立てて紙の山が落ちてきた。くそ、言うんじゃなかった。
 舌打ちをこらえて紙を束ねていると神官長がもう一度言った。
「アリアハンの勇者一行が来る。君にはその監視役として旅に同行して欲しい」
 神官長を見上げた。真顔だった。
「本気で言ってます?」
「当たり前だ」
「何で僕なんですか」
「不真面目だからだ」
「喧嘩売ってます?」
 自慢じゃないが、真空呪には自信がある。
「そうじゃない。お前、アリアハンの勇者のことをどれくらい知っている?」
「ちょっとしか知りませんよ」
 アリアハン生まれアリアハン育ち。十六歳。剣と魔法に秀で、そのために成人する前から王の覚えもめでたかった。
 言うと、神官長は首肯した。
「間違いのない情報だな。ちなみに勇者は女なのらしい」
「へえ、勇ましいですね?」
「ああ。お陰でうちの僧侶どもの妄想が止まらなくてな」
「は?」
 つい、雑な聞き返し方をしてしまった。しかしさすがはメレゾフ神官長、怒りもせずに続きを語る。
「すでにまだ見ぬ勇者様に恋をするような輩まで出てきて、僧侶内の秩序が乱れて困っている」
「おキレイなマダンゴ野郎どもが」
 反射的に吐き捨ててしまった。神殿の半人前僧侶共はいつだってそうだ。そうやって僕にお鉢が回ってくる。
「それでもと遊び人、不良魔導師の僕の出番ってわけですか」
「それが他の長の判断だ」
「ははあ」
「私個人としても、ついて行くならば君だろうと思っている」
「へえ」
 片眉を上げると、神官長は変わらぬ無表情で言う。
「勇者の仲間は手練れらしい。二人いるのだが、うち一人はアリアハンの宮廷魔法使いでな」
 それだけでもうピンときた。
「アリアハン王の目ですか」
「そういうことだ」
 思わず繰り返し頷いてしまった。なるほど、スパイ合戦をせよというわけか。信仰の道だけを追求する童貞たちには荷が重い。
「君ならば世慣れしていて度胸もある。冷静に連中を観察して、ダーマの利となる動きができるだろう」
「お世辞なんて珍しい」
「本音だ」
 まあそうだろうな。メレゾフさん、あんまり口上手くないから。僕は肩を竦めた。
「良いですよ、行きましょうか」
「本気か」
「あんたがそれ言うんですか。本気ですよ。内勤も飽きてきた頃でしたし、仕事も増えてきたし、そろそろ外をぶらぶらしたいなーなんて」
「お前らしい」
 メレゾフさんは笑って、大神官に伝えておくと言って去って行った。一人残され、椅子にもたれかかる。
「勇者かあ」
 魔王退治、するつもりなんだろうか。
 正気じゃない。アリアハン王の意図なんて知らないけど、魔王なんているかどうかも分からない、庶民に至っては存在すら知らないものだっていうのに、何で倒そうなんて言えるんだろう。そして、どうして勇者はそれを実行しようと思えるんだろう。
 庶民は、目先の生活だけで精一杯なのになあ。デスクに積んだ紙の山を眺めているとうんざりしてきた。
 まあ、堅実な生活にも飽きてきたし、勇者について行けばちょっとは息抜きできるかな。根っからの遊び人の僕はそう考えて、大きく伸びをした。



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