初顔合わせ小咄 竜の王と伝説の吟遊詩人

 今日は居酒屋がとても賑やかだ。
 暖簾が掛けられているが、内部は明るく楽しそうな賑わいが漏れている。本日は魔物が多めの日なのだろう。居酒屋大魔王では、魔物と人とで入店制限を儲けた日が交互ある。気にしない人間や、人間に手を挙げない魔物だけは、分魔分人制度にお構い無しでやって来る。
 楽しそうな音楽が漏れ聞こえ、踊っているのか地響きが店の外にまで伝わって来る。
 私も魔物みたいなものだし、ちょっと様子だけでも見て行こうかな。少し戸を開けて中を窺うと、案の定魔物達の宴会真っ盛りである。これで居酒屋の床が抜けないのだから、大工の腕も、店主の闇の衣の制御技術も素晴らしいのだろう。目の前で火炎の息でアルコール大爆発。誰も死にはしないが、酷い物だ。
 そんな中、カウンターに人間の頭が見えた。丁度、私の背が低い状態だったのでカウンターの上の酒瓶の影で、茶色い柔らかい髪の天辺くらいしか見えない。魔物でも元人間の腐った死体とかは毛髪があるが、やはり生きている人間は綺麗なので見間違えたりはしないだろう。
 こんな魔物達のど真中で、酒が啜れる人間を私は一人しか知らない。
 そう、アレフだ。
 アレフは本当に魔物に対して偏見のない男で、城に招いてもごく普通に魔物達に混ざって話はしているし、死神の騎士を筆頭とした戦士達に混じって修錬もする。食事の趣味だけは魔物と異なるが、そこは自炊の達人。結局作った食事を食べたがる魔物達に囲まれ、一緒に御飯を食べている。
 流石のローラもイトニー以外の魔物と交流をする事は稀だ。
 不思議な男である。私以上に魔物に好かれているのではと思うくらいだ。
 私は扉を後ろ手に閉め、ざっくりと竜の形に彫った木製の杖を伸ばして茶髪を突いた。響いていた音が乱れて止まり、男の驚いた声が響いた。アレフにしては大袈裟な驚きっぷりだ。何故そんなに驚くんだろう?
 男がカウンターの横に身体を回して、こちらを覗き込む。
 あ。
 アレフじゃない。
 人間の区別が多少は出来る私でも、男はアレフに似ていたがアレフではなかった。柔らかい茶色い髪と瞳は同じだが、目元は優し気で眉根にしわが寄っていない。音楽が止まったのは、彼が持っている銀の竪琴を奏でる手が止まったからだ。
 友人によく似た男は、私を見つけると友人には決してできない優しい笑みを浮かべた。
「こんばんわ」
「こんばんわ」
 互いにぺこり。もう喧噪は戻って来ていて、挨拶も掻き消されてしまいそうだ。
「すまない。知人と勘違いして杖で突いてしまった」
 私の弁明に男は露骨なまでの驚きを見せた。やや垂れ気味に細められた目元が、大きく開く。
「知人ってもちろん人間ですよね? 魔物と仲が良いのですか?」
 私は頷いて男の隣の席に乗り上がった。男はアレフガルドでは平均的な身長で戦士を生業にしていないのか、やや細身な印象だった。厚い防寒着や毛皮を裏打ちしたマントは、アレフガルドの旅人らしい装いだ。ベレー帽に添えられた練獄鳥の尾羽が、妖しい光を滲ませている。銀の竪琴を片手に持った男はガライと名乗った。吟遊詩人ガライ。もっと真面目で重苦しい人物かと思ったら、魔物と無邪気に戯れる気さくな性格とは意外だった。
 私も名乗り、アレフの城の過ごし方をガライに語って聞かせる。ガライは愉快そうに私の話を聞いていた。
「いやぁ、竜王さんのお友達は変わった方ですねぇ」
「私もそう思う。魔物と仲良く出来る人間なんて知らないし、魔物もなんだかんだで彼を受け入れてしまう。不思議な雰囲気の男だよ」
 そう、不思議な雰囲気。私がアレフとガライを見間違えたのは、その雰囲気からだろう。低い深夜の声色は心地よく、性格は真逆だが他者を思い遣る気持ちがそれぞれある。アレフはガライの子孫なのかもしれない。
 ふと、そう思った。

ちょっと古い書きためたお話をリサイクル

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!



ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)
あと1000文字。