十二月十四日。早朝午前五時五十九分。
とても静かな朝だった。
気温はおそらく零度以下。暖房をつけているはずもない早朝の部屋の空気は澄み切っていて、体温のないわたしにとってこの部屋はとても好ましい空間だった。形式だけの呼吸動作ですら心地よく感じた。
深く息を吸い込んだ。
その、瞬間。
正確な体内時計を持っているわたしは、時が来たのを知る。
ぐりん、と頭を上げて、わたしはすぐ隣でふとんにくるまる人物に目を向けた。
染めていない髪を振り乱してすやすやと気持ちよさそうに眠る彼は高校一年生。
わたしは口を開く。
「起きてよ、起きてよ!」
設定音量は三。ふつうより少し大きめの音量でわたしは声を出した。
「起きてよ、起きてよ、起きてよ、起きてよ、起きてよ、起きてよ! ……起きてよお!」
彼はぴくりとも動かない。
わたしの目に涙が浮かんだ。もうやめたい。しかし仕事は放棄できない。
「お、おき、起きてよ! 起きてよお! 起きてよおおおお! 起きてよ、起きてよ、起きてよ、起きてよ……」
彼が跳ねるように起きあがった。
わたしの心臓が跳ねる。
うれしい!
はじめてだ。彼がこんなに早く起きるのは初めてだ。
やっとわたしは仕事を完遂できた。
起きてくれたのは嬉しいのだが、ストップしてもらわなければコールはやめられない。わたしの体表面に接触すればわたしはコールをやめられる。
「起きてよ、起きてよ」
彼がけだるげに右腕を上げる。
「起きてよ、起きてよ」
そして大きく振りかぶった。
あれ?
「起き」
ばしぃん。
頬を張り飛ばされた。
わたしの顔が大きく振れる。わたしの声がふつりと止まる。
彼はわたしを殴打して、すがすがしいほど振りかぶった手でわたしの頬を打ち抜いて、その姿勢のままふとんにインサイド。
眠りの世界へ消えてった。
なんだか無性にかなしくなって、わたしは静かにさめざめ泣いた。
携帯のアラームがアンドロイドだったら、みたいな想像を起きるときにしました。