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ふわり、と食欲をそそる香りが鼻孔を擽った。
タオルケットにうずくまるようにして眠っていたヒカルは、重いまぶたを持ち上げて、その香りの出所を探るようにして目を瞬かせる。
「……キミ、食べ物の匂いだけは分かるんだね」
ふと笑みを含んだような声がヒカルの耳に届き、その方向を見やれば幾分か眩しい光が薄暗い部屋の中に差し込んでいた。起き抜けであるヒカルの目には少し眩しく、タオルケットを顔の上まで引っ張り上げる。それとほとんど同時にピシャ、と襖が閉じる音がして、それから食器同士のぶつかる音が部屋に響いた。
「おかゆを作って来たんだけど、食べられるかな」
もとの薄暗さに戻ったことで安心したヒカルがタオルケットを目の下まで下げると、冷たい掌がヒカルの額を覆った。気持ちの良さに再び眠りに囚われてしまいそうになるのを必死で絶えて、ヒカルはやっとのことで目を開けると相手の顔を探し当てる。
そこには随分久しぶりに見たような気がする、ライバルの姿があった。

(──そんなに寝てたかな)

思えば眠りにつく前はまだ昼前だったはずなのに、この部屋の薄暗さから今がまだ昼だとは思いづらい。傍にあった気配が更に近づいたような気がして目を向けると、アキラがベッドの淵からヒカルを覗き込んでいる。

「まだ大分熱があるな。まだ頭は痛い?」

ヒカルが布団の中で小さく頭を左右に振ると、アキラの表情が幾分か和らいだのが暗闇の中でも見て取れた。

「それでもまだ熱は高いみたいだから、これを食べた後に解熱剤を飲んだほうがいいかもしれないな。おかゆ、食べられる?」
「食べる。いーにおい」
アキラが持ち上げた椀の中からほのかに梅の香りが漂い、ヒカルは自分が意外と空腹であることに気付いた。これなら食べられるもなにも、足りないくらいかも、とヒカルは内心思う。
「眠る前までは何の匂いもしないってぐずってたのに、食べ物の匂いだけは感じ取れるなんてキミの鼻は現金だな」
ヒカルの呟きにアキラは再び笑いながら、スプーンで掬い上げたおかゆをヒカルの口元まで運んでやる。
風邪が良くなったからだよ、とかなんとか呟きながらも素直に口を開けるヒカルは意外と元気そうで、この調子だと明日には熱も下がるだろうとアキラは安堵した。
すっかり殻になった皿を脇にどけて薬を飲ませると、腹が膨れて再び眠気を感じたヒカルがうつらうつらとまどろみだすその横で、アキラは手を伸ばして乱れたヒカルの柔らかい前髪をゆっくりと撫でてやる。しばらくそうしてヒカルの顔を覗き込んでいると、くっついてしまいそうな瞼を薄く開いたヒカルはじっとアキラを見つめ返した。

「なに?」
「……なんでも」

気付いたアキラに覗き込まれて、ヒカルはふいに笑い出しそうになる。
熱があるにもかかわらず、何故だかひどく幸せを感じてしまったから。
タオルケットを再び顔の上まで引き寄せながら、その中でヒカルはこっそりと微笑んだ。

たまには風邪を引くのもいいかもしれない、
そんなことを思いながら、ヒカルは今度こそ優しい眠りへと身を委ねた─








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