自分の年齢は分かっている。

いや、別に『もしかしたら自分、認知症かもしれない・・・』なんていう疑念に駆られて年齢を
確かめた訳では無い。
なら何で、如何様に?
三十路にとうとう突入かぁ、なんていう黄昏をしたいわけでもないので、正直に白状。どうも
話が何時も遠回りになるのがいけないところだ。

俺が自分の年齢を脳味噌内で反芻させた理由は他でもない、目の前の金髪。
金髪、といっても他の金髪より抜きん出て金色を帯びている、どんな豪華絢爛な宝石より希
少な純金の髪。糸のように流れる髪を目で追うと、そこには当然、旋毛があり、頭皮があり、
そして、

「鋼の」がいる。

俺がその名前を呼ぶと、訝しげ、否、半分面倒臭そうにこちらを振り返る。
どうも、本を熟読してる最中の様で、「ンだよ」と一言言った後、俺が何も用件が無いと理解
して、また本に目を戻す。現在の彼の中での方程式では、『俺<本』なわけで、『俺≧本』に
なることはまず無いに等しい。
再び目の前に金糸が現れた。先ほどから目の前、と言ってるが実際はこれを目の前、と言
わない。近く、という。それでもって、本当は隣であって、俺自身が座り方を変えて目の前に
鋼のがいるようにしているのだ。
執務室の人気者、二人掛けのフカフカソファ君(と、心の中で読んでいる。流石に口に出した
ことは無いから、安心してください)の上で並んで座ってはいるが、鋼のと目が合った試が無
い。本を読み終わるまで待ってなさい、ということか。
だけど、こんな目の前に自分の欲望とか好奇心とかを煽る金色の彼を目の前に、虚心坦懐
を保てるはずが無い。自制心だとか制御心だとか、そういうものを一切無視して、年齢不相
応な「うずうず」だとか「どきどっき」だとかの効果音をプラスさせたくなるような心情で、正直
自分でも呆れる。
自分何歳?さんじゅっさーい!何ていう下らん自問自答を脳味噌で繰り広げながら、現在進
行形を満喫している。

しかし、あれだな。
恋人が、隣に居るんだけどなぁ、なんていう幼稚な我侭を頭で垂れてみる。
照れ隠し、だとかそんな甘ったるい理由で本に没頭しているなら、まぁしょうがないか、否、寧
ろ愛しくて仕方ない。
だけど、これは違う。
明らかに「今俺は本を読んでいるので邪魔をしないでください。ってかすんじゃないぞ糞が」とい
う一意専心さを伝えてくる。最近の若者は年中反抗期の様だ。わーんこわいよー。
別に、不安だとかそういうものはない。ただ単に、無意識に、鋼のの中で『俺<本』が出来上が
ってしまっているだけであって、自分という存在自体を無下にされているわけでは無い、と思う。
だって、それなら、恋人になんかなったりしてくれない。
目の前の金色はそんな簡単に愛の告白を受け入れて、ご丁寧にそれを返して、承諾して、今だ
って一応傍には居てくれてるわけだ。
でも、何処となく疎外されてる感がある気がする。否、別に鋼のはただ本を読んでいるだけなん
だけど、何ていうか、あんたと話す必要性は皆無だ、とでも言われそうな感じ。

「はーがねの」
無視されそう、なんて思いつつも、もう一度呼んでみる。あ、振り返ってくれた。まぁ、ここまでは
よしとする。だけどまた、眉間に軽く皺を寄せて本に視線を戻そうと向きなおそうとしている。これ
じゃさっきと一緒じゃないか!
顔の位置を戻そうとする鋼のの前髪に、咄嗟にキスをした。シャンプーの香りは旅先のホテルに
よって何時も違うが、常時いい香りがする。そして髪は低反発枕(高反発枕なんてものはあるの
だろうか?)のような柔らかさがあって、鼻と唇が埋み込む。
ちょっ、何だよ、と慌しく身動ぎしようとするが、決して頭上の唇を離そうとはしていない。要する
に、拒否されてない、ということか。えがったー。
嫌がられていない、という事実を目の前にして安堵した。現行動は結構な賭けでもあった。これで
唇をはたかれてみろ。もう、恋人、なんていうものには終止符が打たれてエンドロールが流れてし
まう。それどころか、先程までの恋人発言がまさかの自分の妄想だ捏造だだのとブーイングを受
けかねない。
しかし、この危険な賭けともう一つ、請願届けを出すことがあるのだ。
金色から唇を仕方なく撤退させる。何なんだよ、と先刻まで唇をつけていた場所を押さえている(
決して拭ってはいない!)鋼のを見ながら、真面目くさった顔で言う。

「方程式を、変えてくれ」
「は?」

口を『は』の字で一時停止して、心底意味が分かりません理解できません、という面持ちでこちらを
見ている。全く、分かってくれよ、という安心により軟化した浅い溜息をついて、もう一度言い直す。
「だから、方程式を変え」
「ンだよ方程式って?」
あ、方程式が何か分かってなかった。というか分かるはずも無かった。『話が噛み合っておりません
』というエラーメッセージが流れる。考えろ自分!
じっ、と不満気な目で見つめてくる鋼のの目はやっぱり金色で、合わせ辛い。そして同様に、さっき
のお門違いの言葉への後悔がつのって、照れくさい。どうやって説明すればいいか、皆目検討つか
ない。暫し思案投首した挙句、
「だから、その、本を見るのをちょい、と止めてくれると嬉しいなぁ、なんて思ってね
なんて訳の分からない言葉が出てくる。目が合わないように、少し俯いてボソっという自分の声は間
抜けで、どっちが年上で上司か分からない。しかし、吐いた唾は飲めないので、仕方無く言い訳めが
しい事を言ってみた。
幾人の美女に対するロマンチシズムなお世辞やら褒め言葉は口からスラスラ這い出てくるのに、
どうも彼への言葉は、一字一句考えながら、そして若干の照れ臭さを含んでしまう。ペースもベース
も何もかも乱されっぱなしだ。
「要するに、構ってくれ、って言いたいわけ?」
未だ顔を合わせていない鋼のは、遠まわしに言い続けていた答案を、恥ずかしげも無くサラリと申し
上げてきた。ソウダヨカマッテ!ワンワン!なんていう下らない頭は放っておいて。
「まぁ、そういう解釈でもいい」
否、そういう解釈、なんかじゃなくて、正しい答え、なんですけどね。まぁ、構ってくれ、だなんて三十路
街道まっしぐらの親父が言ったら、鳥肌どころか体調不良で卒倒する輩もでてきそうだからね。
逃げ出したい、穴があったらそこに住み込みたい、だなんて思いながら恥を神経に浸透させていると、
プッと笑い声が聞こえた。
うろうろさせていた目線を漸く鋼のに合わせてみると、声を殺しまくって笑っている。何だお前は!そん
なに人の恥が楽しいか!!と憤慨したくもなるが、あまりにも理解不能なので一応聞いてみる。
「・・・何だね」
「大佐にも可愛いとこあんなって思っただけっ。あぁ、本ね、よっし、やめるやめる」
後で読みゃぁ良いし、と言いながらパタンと本を閉じてソファ下に投げ置く。最初から止めてくれれば、こ
んな赤っ恥をかくことも無かったのに、と言いようの無い不満を頭内で呟く。
しかしそんな不満も、ご機嫌に立ち上がって、

「飯でも食いにいこーぜっ」

と満面の笑みで誘われてしまったら、歯が立たない。お手上げだよ、と心の中で降参のポーズを挙げる。
さっきまで寡黙を保ってた部屋でさえ、彼に負けて慌しくなっているのだから、俺が負けるのは当然だ。

立ち上がりながらふと、さっき鋼のが投げ置いたソファ下の本に目をやる。
さっきまでこいつに負けてたのか、なんて思うと腹立たしいが、今はもうこっちのが優勢だ。
フフン、とさっきまで上位にいた本を見下げる。どうだ、『本>俺』なんていう方程式は覆してやったぞ、と
一人嘲笑しそうになりながら、心の中で呟く。(この心の声、というものが他人に聞こえるようになってしま
ったら、自分は多分凄い馬鹿にされながら生きていかねばならない。)
ほんの少しの優越感と同情を本に送る。すまんな、これから俺は恋人とでーとなんだ、と惚気ながら。

早くしろよー、と急かす彼の元へ早足で向かう。ふむ、鋼のと俺とでは、現時点では『鋼の>俺』な訳だろ
う。その点については否めない。

しかし。
(それを覆すのが、男の傲慢って奴でしょう!)なんて宣言は、多分彼には届いてないだろう。さっきからか
った仕返しだ。教えてやらぬが吉日、だ!







そして食事の後連れ込んだホテルでは、宣言通り『俺>鋼の』の方程式が成り立ったわけで。

自分より幾億分も可愛い恋人への仕返しは、きっちしできましたとさ。

めでたーしめでたしっ。






                   
  拍手ありがとうございました^^
なんかもう訳わからん文章でサーセンorz
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