● パーフェクト・ゲーム ●


父親と進路のことで 大喧嘩して家を飛び出したのが数年前。
それでも行く場所はなくて、職人であ る祖父の住む町に飛び込みで弟子入りすることになったのはそのすぐ後のこと。

そして、たまの休みには必ず隣で笑ってくれる子が出来たのは、ほんの少 し前。
人生はゲームじゃないんだから真剣に考えろと怒鳴った両親を思い出 す。
どこまでも、完全で真っ当な人生を望んだ父。
ゲームなんかじゃな い。
いや、ゲームであったとしても。
俺はあの時だって、いつだって真剣 試合なんだ。


この街は、かつて住んでいたごみごみした場所とは全く 違う、何もかもが澄み切った場所だ。
空気も水も、住人さえも穏やかで気持ち がいい。
家を飛び出したのは全くの勢いで、今となっては全然後悔していない と言えば嘘になる。
けれど、そのおかげでこの場所に出会えたことに感謝して いるのもまた本当のことだった。
だから、この街で生きていくことを決意し た。

家を出たときに、一度全てを失った。
いや、失ったのではなく捨 てたのだ。
でも、この街に来てそれ以上のものに出会い、そしてそれ以上のも のを得たということは自信を持って言える。
そして、心の中にわだかまってい た気持ちを完全に吹き飛ばしてくれたのが、現在隣で他愛もない話をしながら笑っ ているこの少女だ。


「ね、一回戻らない?」
「どこに?」
「アンタの故郷」
「はぁ?」
突然そんなことを言ってきた彼女に、俺は素 っ頓狂な声をあげた。
その言葉はあまりにも突然で脈絡すらなく、想像だにし ていないことだった。
いきなりのことにぽかんとする俺に、彼女は相変わらず の笑顔で言う。
「だってさ、もう数年帰ってないんでしょ?」
「そりゃそ うだけど…、でも俺、あんな所に帰る気はないぜ?」

両親の考える俺の進 むべき道とは、ただ目的もなく進学して学歴を重ね、ただ目的もなく安定した収入 を得るための仕事を選ぶことだった。
特に父は職人である祖父の不安定な収入 で幼い頃から苦労してきたらしく、事あるごとに堅実・無難な道を示した。
そ れ以外の道は正しい道ではなく、ただの寄り道でありゲームだと言い放った。
それは祖父に憧れ、ゆくゆくは祖父のような自分に誇りを持てるような仕事に就き たいと考える俺の思考を真っ向から否定するものだった。

だから、飛び出 した。
だから、もう帰るつもりもない。

けれどそんな俺の気持ちには 構わずに、更に彼女は問う。

「だめなの?」
「ていうか、何でお前が そういうこと言うんだよ?」

そうだ。
彼女に俺の事情を話したとき は、深く頷いて俺の選択は間違ってないと即答してくれた。
むしろ、自分の信 念を貫き通した俺に心の底から共感してくれた。
けれど今、彼女は俺に故郷に 帰ろうと言う。
どういうことだ?
少し裏切られたような感覚さえ覚えなが ら、怪訝な顔になる。
すると、いつも笑っている表情を少しだけ引き締め、俺 の方に改まって向き直った。

「理由、訊きたい?」
「ああ」

「私が行きたいから」
「へ?」

彼女に合わせて真面目になった俺の表 情は、彼女自身の言葉によって一瞬で崩れ去った。
あまりの予想外の即答に真 っ白になる。
そんな俺を見て彼女は大きく吹き出すと、またいつもの表情に戻 って言った。

「アンタはさ、この街好き?」
「もちろん」
「何 で?」
「何でって…好きなことをやれるし、みんな優しいし、それに…」
「それに?」
「…お前も、いるし」

気持ちに嘘はないが、改めて言っ てしまうと照れくさい。
マトモに相手の顔が見れずに俯くと、声で彼女が小さ く笑ったのが分かった。

「よろしい」
「な、何だよ」
「私と同じ だ」
「え?」

思わず顔を上げる。
目の前には、満足そうに笑う彼 女の表情があった。

「私も、アンタがいるからここが好きよ」
「そっ か。良かった」
「もしも万が一アンタがいなくなっても、アンタと出会った場 所であることは変わらない。だから、私がここを嫌いになることはないと思う」
「ああ」

俺は彼女の言葉に頷く。
俺だってそうだ。これからこの 先何があったとしても。
彼女と出会ったこの場所を嫌いになることはまずない だろう。
俺の返事に、彼女は今度は悪戯っぽい表情になった。

「だか ら、アンタの故郷に行きたいの」
「だからそれがどう関係…」
「だって、 アンタが育った街でしょう?」
「……」
「なら、私はきっとそこを好きに なると思う」

そう言って、屈託なく笑った。
その言葉は、一語一語俺 の胸に染み込む。


ああ、そうか。
彼女は俺の故郷を好きになるだ ろう。
そしたら、俺は彼女が好きな俺の故郷を再び好きになる。

あ あ、そうか。

「なぁ、頼みがあるんだけど」
「何?連れてってくれん の?」
「お前が頼みを聞いてくれたらな」
「いいよ。何?」
「お前の 生まれた街にも連れてってよ」

完敗。
きっと他のどんな方法を以って しても、そして相手が他の誰であっても、こんなことを言うことはなかっただろ う。
きっと、これからもずっと俺はこいつに敵わないんだろうな。

け れど、ここまでの完全試合ならいっそ潔い。
いいよ、もう一生お前に負けっぱ なしで。
完全なんて望んじゃいない。不恰好で構わない。
ただ一つを除い て。
ああ、家を出たときに使った大きなカバンは、どこにしまったんだっけ か?
暖かい日差しの中、二人手を繋いだ。
願わくば、彼女の愛するもの全 てを愛せますように。
俺の愛するもの全てを彼女が愛してくれますように。

そして、お互いがお互いをずっと大切に思えますように。
それが、俺 にとって唯一の完全な人生だ。




このタイトルを使いたいがた めに書きました(笑)
途中でどんどんキャラが暴走し(二人しかいないの に…)、最後はムリヤリ感が否めません。うぁ。

好きな人の全てをひっく るめて好きになる。
その想いが相手に伝わることで、相手の好きなものが増え ればいいな。
そんな想いを込めて。

相手が好きだと言ってくれる自分 が好きだ。
恋愛においてそんな自信を持つことが出来れば、その恋愛はめっけ もんだと思います(笑)

てなわけでこれもフリー小説とします。
ギリ ギリ著作権放棄はしないので、改変とか作者詐称とかは勘弁してやってください (←しません)
お持ち帰りや転載に特に報告要らないのでお気軽にどうぞーv v
何かあれば「もっと送る」でどうぞ。返事は付きませんが大切に読ませてい ただきます☆





ついでに一言あればどうぞ(拍手だけでも送れます)

あと1000文字。