|
朝、駅に着くとホームにはいつも以上の人の数。 なんだろう、と辺りを見回すと、よく知った顔が見えた。 「ハアイ、ティンカーちゃん。ご機嫌いかが?」 「アラタ君!?何してるのここで!」 「電車待ってるんだよ。見て分からない?」 「そうじゃなくて、アラタ君の駅はここじゃないでしょう?」 「まぁまぁ、細かいことは気にしない。それよりもティンカーちゃん、こっちこっち」 そう言って人込みに流されそうになっていた私を自分の所に手招きしてくれるアラタ君。 色々流された気がするけど、ありがたくその手に掴まった。 「今日はやたらと人が多いのよね。何かあったのかな」 「朝テレビでもやってたけど、見てない?人身事故だよ。ほら」 アラタ君の指差した先には事故の案内が流れる電光掲示板。 「うわぁ、朝からツイてないなぁ」 「ほらティンカーちゃん、そんな顔しないの。ここにシワ、出来ちゃってるよ?」 とん、と眉間をつつかれてハッと顔を上げるとアラタ君の笑顔。 「そういう顔もCVC(超ベリーキュート)だけどね、そろそろ電車も動き出すみたいだし、スマイルスマイル」 そう言うアラタ君の表情が随分大人に見えて、思わず言葉を失う。 「ティンカーちゃん?どうかした?」 「う、ううん。そうだよね、一日はこれからだもん。笑顔笑顔!」 誤魔化すように笑うと、電車がホームに滑り込んで来た。 中には既に人がいっぱい。 「うわぁ、乗れるかなぁ…」 とても乗れる気がしなくてため息をついた時。 「ほら、ティンカーちゃん。俺の手、離さないでね」 左手をぎゅっと握られ、そのまま引っ張られるようにして電車に乗り込む。 予想通り、車内はぎゅうぎゅうの超満員。 「フゥ、本当にすごいねこれ。ティンカーちゃん、大丈夫?息出来てる?」 目の前のアラタ君がそう聞いてくれるけど、息出来るどころか、全然苦しくない。 後ろは扉、前にはアラタ君。 彼が壁となって私を守ってくれている。 そう認識した瞬間、なんだかすごく恥ずかしくなって俯いてしまう。 「ティンカーちゃん?やっぱりキツい?」 そんな私を見て、私が苦しいんだと思ったらしく、アラタ君が心配そうに声をかけてくれる。 その直後、私のすぐ横にある彼の腕が更に力を込めたのが分かった。 「ご、ごめんねアラタ君。私は大丈夫だよ」 慌ててそう言うと、彼は「ならよかった」と笑った。 でもその腕の力が緩むことも、彼との距離が変わることもなくて。 真横にある腕の力強さとか、目の前の以前より一段と男らしくなったその顔をつい意識してしまって私はやっぱり顔を上げることが出来なかった。 ようやく駅に着くと、またその手を引っ張られるようにして外に出る。 「んー、すごい人だったな。ティンカーちゃん、本当に大丈夫だった?」 「だ、大丈夫だよ。ありがとう、アラタ君」 「んー?俺は特に何もしてないし?それに俺としては久し振りにティンカーちゃんと密着出来て役得ってヤツ?」 「こ、こら!変な事言わないの!」 先程までその距離を意識してしまってたせいか、顔が熱くなるのが分かる。 「さ、ティンカーちゃん。そろそろ行かないと遅刻しちゃうんじゃない?」 そう言われて時計を見るといい時間。 「わぁ、本当だ!ごめんねアラタ君、私行くね!」 「はいはい。気をつけて行ってらっしゃい」 走りつつもチラッと振り返ればひらひらと手を振っているアラタ君。 そういえば、アラタ君はこんな朝早くに何の用事があったんだろう? そんな疑問が頭に浮かぶ。 「って、時間ないんだってば私…!!」 私は止まりかけていたそのスピードを再び速めた。 |