2/25 禁プリ5 ストリートプチ記念の無料配布でした!
洋菓子店パロディ。カケタイとアレカヅアレ(左右定めずどうぞ)。
ひとまず1〜3まであります!


ベルベットロマンティックメランコリー
<1>



「きみのいる景色はいつだって色づいて、繊細で美しくて、おれの好きな洋菓子と似ているんだ」
まるで宝石を散りばめたような台詞を吐き出しながら愛おしげに笑った彼の声を、今でも時々思い出すことがある。



握りしめた地図から目線を上げて、煌めくエメラルドグリーンは目の前の建物を映した。白を基調としたゴシックはこじんまりとしているが、確かな存在感がある。なるほど、悪くはない。西洋を思わせるようなその佇まいを見上げ、タイガは僅かに胸を高鳴らせた。
ここは、学校を出てから二年ほど世話になった先輩—カヅキの勤める洋菓子店である。前の店をひと月前に辞めたタイガにカヅキから誘いがかかったのは、今から二週間程前の話であった。『人望の厚いカヅキの紹介』という強力な武器のおかげで、タイガが最も苦手とする採用面接は無し、履歴書の提出でさえ勤務開始日の当日で構わないという、にわかには信じ難いプロセスで話はあっという間にまとまった。
そして、その勤務開始日が今日である。タイガは今日からここで、パティシエとして働く手筈になっている。経験の浅い自分はもうしばらく技術を学ぶ立場にはなるだろうが、カヅキの下につけるのならばそれもまた嬉しかった。
ケーキをメインに扱うこの洋菓子店はイートインもできるのだと聞いている。小さいながらも小洒落たテラススペースへ目を向けて深呼吸をする。その瞬間、不意にガラスドアの開く音がして、タイガは咄嗟に頭を下げた。さながら体育会系。勢いは良い。顔を知らぬ店主とは、店の前で待ち合わせをすることになっているのである。
「えっと、カヅキさんの紹介の……って、きみで合ってるよね?」
「はい、世話になります」
学生の頃、タイガはある人に言われたことがあった。『タイガはさぁ、腕は良いのに。無愛想だし、不器用だから、相手に少し悪い印象を与えちゃうことがあるでしょ。それがもったいない。おれはきみのことを知っているけれど、知らない人はきっとびっくりしちゃうんだよ』。その時は腕が良ければ何の問題もないじゃないかと思っていたタイガであったが、事実、前の店もおおかたその理由でクビになった。だいいちいんしょう。頭の中で拙く呟く。結局のところまずは外面的な印象が肝心なのだ。今ではあの頃の言葉がよくわかる。
「あぁ、いいよそんなにかしこまらなくても」
昔よりも多少は大人になったタイガが深く頭を下げたものの、フランクな声は苦笑を混じえながら返ってきた。店の外観からは生真面目な印象を受けたが、店主らしい男の唄うような声は到底それを感じさせない。思わず眉を寄せそうになったのを堪え、もうほんの少しだけ深く頭を落とす。
「えっと、とりあえず顔あげたら?」
困ったような色を滲ませて紡がれた言葉に従って、ゆっくりと頭を上げていったその視線の先で、見覚えのあるオレンジが鮮やかに焼きついた。夕暮れと同じ色をした二つの瞳はみるみるうちに丸くなっていく。それはタイガのエメラルドグリーンもまた同じであった。
「え……タイガくん……?」
「カケル……!?」
抱えていた荷物を地面に取り落とし、タイガはまばたきをする。その姿を彼だと認識した途端、どくんと跳ね上がった心臓がどんどん煩くなっていった。眉を下げて笑う相手から目が離せなくて、震え続ける心の辺りをぎゅっと握りしめる。レンズの奥の瞳は相変わらずキャラメリゼのように甘く、数年ぶりに顔を合わせたその姿はあの頃よりも少しだけ大人びたようだった。





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