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【光の粒は幸せの色】




「……」
「JJ、前を見ないと転ぶよ……っと、ほら」

上ばかりを見ていたJJは、隣の恋人に腕を引かれどうにか段差で躓かず済んだ。外気で冷えた肌に体温が沁みて、季節が変わったことを改めて実感する。
12月に入り、世間はすっかりクリスマスムードだった。普段そうしたイベント事とは縁遠いJJですら、それを意識せずにいられない程街中は華やかに彩られている。色とりどりのイルミネーション、緑のリースやツリーに加え、白いそれらは特に彼の目を引いた。あちこちの店先で笑顔を向けているサンタは、どれも子供たちへのプレゼントを詰め込んだ袋を抱えている。

「わ、悪い……」
「すっかりクリスマスムードだね、歩くだけでも見るものが多くて困るだろう」
「……そうだな」

掴んだ腕を離してからさりげなく手を繋いできた瑠夏に生返事を返しながら、JJの視線はまた宙へ浮いた。遠くに見える空へ届くように大きなクリスマスツリーは、夜になれば一層きらびやかな光を見せるのを知っている。
昼に見るのも悪くないが、どうやらそうしてライトアップされたツリーを恋人同士で見るのは、クリスマスのしきたりのひとつらしい。と、何度目かのパオロによる嘘を今回も真に受けていたJJは、そっと隣の恋人へと視線を移した。

「アンタは、ツリーを見たいのか?」
「ツリーなら、さっきから何個も見ているよ」
「いや、そうじゃなくてだな……夜に……」

そこまで口にして、彼は理性に負けた。よく考えれば視界の利かない夜に、自分が護るべきボスと二人で出歩くなど護衛のすることではない。確かに自分は瑠夏の恋人という立場を与えられてはいるが、それ以前に、何よりも優先すべきは今掌にある体温を失わせないことだ。

「…………」

言葉の途中で口を噤んでしまった恋人の様子に、瑠夏はああ、と口には出さず納得した。心が読めた訳ではないが、JJは本人が思っているより考えていることがわかりやすい。自身の願いよりボスである自分を優先する、理性的で状況判断に長けた、護衛としては理想的な人物だろう。恋人としては物足りなくはあるのだが、そうした切り替えられない不器用さも瑠夏は愛しく思っていた。
繋いだ手の指を絡めれば、僅かな戸惑いの後そっとその指先に力が籠る。これは自分が教えたのだと、瑠夏はすっかり俯いてしまったJJを見て破顔した。

「……クリスマスの夜、こっそり屋敷を抜け出そうか」
「……瑠夏」
「クリスマスに、野暮な輩は居ないさ。もし居ても、キミが護ってくれるだろう?」

大きなツリーの前で足を止め、瑠夏は繋いだJJの手を己の口許へ寄せる。軽いリップ音を鳴らしてそこへキスを落とすと、彼の可愛い恋人は驚きの後その頬を真っ赤に染めた。
愛しいという感情には限りが無いのだと、男は緩む口許を隠そうともせず、唇に残った冷たい温度にもう一度触れる。

「瑠夏、ここを何処だと……」
「このくらいいいだろう?本当はキミの唇に触れたいんだから」
「止めてくれ、目立ちたくない」
「目立たないよ、ツリーの前で愛を確かめあっている恋人達は、ほら、そこにも」

小さく耳許に囁かれ言われた方へと視線を向ければ、狭いベンチで身を寄せ合い口付けを交わすカップルの姿が目に飛び込んできた。JJはついそこカップルをじっと見てしまったが、すぐ隣の男がそれに対して何かを仕掛けてこようとする前に踵を返し、瑠夏を引っ張るようにして歩き出す。

「おっと、JJどうしたんだい。人目のつかない所でキスがしたくなったなら大歓迎だけど」
「違う、冷えるからさっさと屋敷に戻るぞ。そもそも、もう用事は済んでいるだろう」
「キミともう少しツリーを見たかったのに」

心の底から残念そうにそう呟き、金色の髪を揺らしながら男はツリーを振り返った。そういえば先程の誘いの返答を貰っていない、「JJ」と瑠夏が呼び掛ければ、「何だ」と顔も見ずに返してくる。

「ツリーを見に行く約束は?」
「……」

なあなあにしようとしていたのがわかるその間に、瑠夏はつい苦笑を溢した。嘘が吐けない所は彼の美点であり短所だろう、からかいたくなる可愛さに腕を引き、恋人の身体をその腕の中に収める。

「っ……」
「行くって言わないと、夜が来るまでここでキミを抱き締めている事にする」
「おい瑠夏……!」
「ボクとライトアップされたツリーを見に行くって言うんだJJ、言わないと離さない」

時折こうして酷く子供っぽくなる瑠夏の言動に、JJは諦めたように溜息を吐いた。ここから自分がこの口が上手い男を説得出来るとも思えない、なら素直に頷いた方がいいだろう。そう腹をくくり彼はそっと恋人の背へ腕をまわし、胸に顔を埋めながら小さく「わかった」と告げた。
自分が口に出さなかった願いさえ叶えてくれる、自分がいかに贅沢者であるかを実感しながら、JJはつい口元に浮かんでしまった笑みを隠す。

「それじゃあ、今からデートのための服を買いに行かないとね」
「は……いや、服なら何でも」
「よくないよ、年に一度しかない日のデートなんだから。ほら行こうJJ!」
「瑠夏……っ、だから、早く帰らないと屋敷の奴等が心配……!」

強引な恋人の腕に引かれ冷たい空気の中を歩いていると、触れ合った場所の熱がいつもよりはっきりと伝わってくるな、早い帰宅を諦めたJJはぼんやりそんなことを考えていた。
もう少しどころではなくなってしまったが、たまにならこうした寄り道も悪くないだろう。繋いだ手を自分からも握り返しながら、JJは最後に一度だけ、約束のツリーを振り返った。そこは、変わらず仲睦まじいカップルの溜まり場になっている。
柄にもない焦燥感に今度こそ笑ってしまいながら、秘密の恋人達は街の雑踏へと姿を消すのだった。










おわり





→ちゅっちゅしてる橘×JJ



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