「匿って!」
焦りの濃く混じった声で獅子座の少年が白羊宮に駆け込んでくるのは日常茶飯事である
「お前、今度は何をやらかし……何だその格好は?」
祭礼の為の衣装合わせをしていたのだとは解かるが、何故だか丈の短いキトンだけでなく
瀟洒なアクセサリーや飾り帯で飾り立てられている
「女官達が『絶対お似合いです』とか言って…絶対俺のことおもちゃにしてる!」
サークレットを外しながら口を尖らせて、そう零すレグルスの姿にシオンは思わず吹き出してしまう
「笑うなよ!」
「いや、すまない…女官達も4年に一度、しかもアテナ様をお迎えしてから初めての祭礼とあって
ついついはしゃいでしまっているんだろう、大目に見てやれ」
「アクセサリーだけならまだ許せたんだよ、俺の前にシジフォスが衣装合わせしてたんだけど
あっちは足首までの長い服だったのに、俺のは膝より上なんだ」
しきたりとして、成人男性が用いる礼装は14歳になってからとなっている為に13になったばかりでは
例え黄金聖闘士であれど少年用の礼服を着ることになっている、しかしそれが不満らしい
同じこと(短衣が嫌)を思う友人が居るようで、数刻ほど前に弟子をとっ捕まえる同僚二人の姿を目撃した
「3人で言ってたんだけど、こういうの恥ずかしいし似合わないし…」
何とか裾を延ばそうと引き下げながら溜息を吐く、柔らかなドレープからのぞくすらりとした手足に
血液が一気に顔の辺りに集まったような感覚に陥る
「いや…年相応というか…似合ってるとは思うぞ」
「3つしか違わないのに子ども扱いすんなよ…似合ってるって言ってくれるのは嬉しいけどさ」
そういって頬を膨らすレグルスに乾いたばかりの上掛けを羽織らせ、適当な飾り帯でまとめてやる
「これなら獅子宮に戻るまで人に会っても恥ずかしくないだろう?」
「ありがと!じゃあ着替えたらすぐ返しに来る!」
来た時同様、慌しく白羊宮から飛び出していく姿を、少し微笑ましく思って見送る
「…ありゃ獅子宮に着くまでに最低三回は服の裾踏んでこけるな」
突然割り込んできた声に振り向くと、マニゴルドがいかにも『面白がってます』といった風情で立っていた
「いきなり声をかけるな、びっくりするだろう」
「まぁ、おちびちゃんにあそこまで懐かれりゃ可愛くもなるのは解らん話しじゃない…けどな」
思い当たる節でもあるのか言葉に詰まったシオンを見て、笑みを深めたマニゴルドは更に続けた
「シジフォスときたら普段は温厚でも、当代であれほどの弟子バカはいないからな…覚悟しとけよ」



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