サンタクロース



私は不思議な夢を見た。


小さな路地裏。ゴミの山。
降りしきる雪だけが、それらを覆い隠す。

置き去りの木箱はまるで…新品のイスのよう。


キシッと重く軋(きし)めば其処に、
膝に頬杖をついた誰かが座って居た。


その姿に見覚えのあった私は恐る恐る、近付いてみる。


赤い帽子に赤い服。
白くて地に付きそうな長い髭。

恰幅のいい姿にその衣装。
本やテレビで見て、よく知っている誰か。



「あの、もしかしてサンタさん・・・ですか?」


「・・・も・・・た・・」


「はい?」


「サンタクロースなんて…もういないさ。
だから、プレゼントも配るなんて事は・・・辞めたんだ。」



「それならアナタはやっぱり、サンタさんですね?」


「・・・・・。」



「あの、私……。
私は…いっつも贅沢してるからって。
親からもお菓子の入った長靴とかしか貰った事ないんです!

何度も、本当に欲しいものをサンタさんにお願いしたのに…。

だから、サンタさんなんていないってずっと…思ってました。」



「…本当に欲しいもの?」


「はい・・・。」


「それを貰った事がない・・・一度も?」


「ええ、一度も。」


「・・・・・。」



(よっこいしょ)

重そうな身体をゆっくり起こすと彼は座ったまま、背中に張り付いた
白い布を剥がした。

よく見るとそれは袋状になっている。



あ…!
サンタさんのプレゼント袋だ!



それは何1つ入っていない、空っぽのように見えた。

しかし、サンタさんがその袋に腕を差し入れると何やら、
ゴソゴソと漁っている。


「さぁ・・・これをやろう。」


袋から出て来たのは…
とても小さいけれど、細かな細工の施された
綺麗なコンパクトミラーだった。


「…ありがとう!
サンタさんって…本当に居たんだね 。

これは夢の中だけど。でも、会えて嬉しかったです!」


「…夢?」


「そう。
これは私が見てる夢の中だから…
朝になって目が覚めたら全部、消えちゃってるんだもの。」



「やれやれ。
近頃の子供達はそうやって、目に映るものさえ信じようとしない。

私は・・・何度も子供達に聞いてきたのに・・・。」





『プレゼントは何がいい?何でも好きな物をあげよう!』




「誰も答えない。
私の声を聞いていなかったのだから。

オマエさんが私を見つけられたのは奇跡・・・だな。」



サンタクロースはプレゼントを配る事を辞めてしまった。
子供達が自分の声を聞いてくれるのをずっと、待っていたのに。



これは私の夢。
だからきっと、誰に言っても信じてもらえないかもしれない。

だけど、目の前のサンタさんはとても悲しそうな顔。


だから私は決めたの。



「ねぇ、サンタさん。
皆が貴方の声を聞いたらプレゼント。
また、配ってくれますか?」


「ほほっほぅ…。」



低くて小さいけれど、とても温かいトーンでサンタさんが
笑ったように思えた。



「私。目が覚めてもきっと、貴方の事探します!」



私は夢の中のサンタさんと約束をした。


夢…だけど。




<サンタクロースなんていない。貴方もそう思いますか?>




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