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「ねえ、さっき勝ったあの子、バーディだっけ?人の話聞いてなさ過ぎて、よく怒られているでしょう」

レグラス=フォードが統括との面会を終え、無事帰路に着いた後のことだ。ミゼットはタリウスに話し掛けた。

「おっしゃるとおりです」

これまでに幾度、そのことでバーディに雷を落としたことかと、タリウスは苦笑する。

「過集中っていうの?ひとつのことに集中すると、周りが一切見えなくなるみたいだけれど」

「過集中?」

ミゼットの台詞をタリウスは目から鱗が落ちる思いで聞いていた。人の話を聞いていないのは、てっきり注意散漫だからだと思っていた。

「集中し過ぎて、逆にまわりが見えなくなっているということですか」

「ええ。さっきみたいに強みにもなるけど、度が過ぎると命を落としかねないから、ここを出る前に、まわりが見えるくらいには矯正したほうが良いんじゃないかしら」

続く言葉に、タリウスは言葉を失った。

「その、つもりですが…」

「ごめん。出すぎた真似だった?」

「いえ、すみません。そもそもあれを強みと思ったことがないものですから」

驚いて二の句が継げなかったのだ。

「そう?鈍感なことって大事よ」

確かに、それについてははつい先程、嫌と言うほど痛感した。

「逆に、ダルトンなんかは繊細過ぎて、時々扱いに困るもの。ま、あれはあれで、重宝してはいるんだけど」

「重宝しますか。どんな具合に?」

「そうね、とにかく慎重だし、普段と違うことに、ほんの些細な異変にも敏感に反応するから、こちらも警戒出来る」

「慎重…」

「初めは、いつも不安そうな顔をして、何でも逐一確認するから、てっきり自信のなさのあらわれなのかと思ったけど、違ったみたい。センスあるわ」

「そう、ですか」

それきりタリウスは閉口した。

「どうしたの?」

「いえ、なんと言うか…もう、いっそあなたが教官をやったほうが良いのでは」

「ええ?!」

予想外の台詞にミゼットの目が点になる。

「自分なんかより、よほどあいつらのことを見ていますよね。そうでなくても、誰がバーディで勝つと思いますか」

「あれは、只の勘よ。それに、近くにいすぎると逆に見えないことだってあるわ」

「ダルトンとは毎日顔を合わせていますよね」

「いや、まあ、そうだけど」

ようやく面倒な賓客が帰ったと思ったら、こんなところに厄介な伏兵が潜んでいるとは。ミゼットは腹の中で親友に助けを求め、それが叶わないと知ると、困り果てて天を仰いだ。

~Fin~ 2021.8.21 
「先見之明」の後で。ねーさんに絡むタリ。



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