拍手をどうもありがとう♪

「ただいま。ミゼット?」

ゼイン=ミルズは、帰宅するなり顔をしかめた。家中に香辛料のような甘い香りが充満していたからだ。

商家である妻の生家から、時折珍しい茶葉や乾果が届くことはあるが、そういったものの匂いともまた違う。

「ああ、ゼイン。お帰りなさい。久しぶりにお香を焚いてみたのだけど、気に入らない?」

「いや。だが、何だか妙な気分がする」

一瞬、妻の顔がぐらりと揺れた。ふわふわと意識が軽くなる反面、身体は重たくなった。

「妙って?」

「何と言うか、君が…」

無理に力を入れると、頭がキリリと痛んだ。

「堪らなく君が欲しくなった」

言うや否や、ミゼットは思い切りゼインに抱きすくめられた。

「ちょっと、ゼイン」

大きな瞳が瞬く。そして、次の瞬間、彼の手がやおら首筋へと伸びた。

「ゼイン?!」

ミゼットの声が裏返る。あろうことか、その手が首を絞め始めた。必死に振りほどこうと足掻くが、強い力で身体を押さえ込まれびくともしなかった。次第に息が苦しくなる。このままでは締め殺され兼ねない。

「待って待って!私、そういう趣味ないし、興味ないから…!」

ミゼットが金切り声を上げると、ふっと呼吸が楽になり、次いでゼインが吐息するのが聞こえた。

おっかなびっくり覗き込んだ彼の瞳は、さもおかしそうにこちらを見ていた。

「ちょっともう、何てことするのよ!おかしくなったかと思ったじゃない」

「ああ、おかしくなった」

ゼインは吐き捨てるように言って、それから部屋の隅に向かい、勢いよく窓を開けた。

「ミゼット、これは一体何の真似だ」

「だから、お香だって」

そう言うミゼットの視線が定まらない。

「ただの香ではないだろう。何を入れた」

「何って、成分まではわからないわよ。エレインじゃあるまいし、自分で調合したわけじゃないもの」

「そんな訳のわからないものを安易に使うな」

「仕方ないじゃない、貰い物なんだから」

「君にそんな悪いお友達がいるとは知らなかったな」

「た、ただのおみやげよ。効能だって、心身の疲れを癒すとか、緊張をほぐすとか…」

必死に弁解するも、真っ向から疑いの目を向けられ、徐々に声が小さくなる。

「あとはまあ、ちょっとした多幸感?みたいなのも味わえるかもだけど、別に怪しかないわ」

「怪しい以外の何物でもない。多幸感なんてものは、ろくでもない薬草の代名詞だろう」

「まあ、そうだけど」

それ以上は言い逃れが出来ず、ミゼットが罰の悪そうな顔を見せた。

「だってほら、最近ちょっと元気なさそうだったから…あ、別にそっちの話じゃなくてよ?」

「ミゼット!!」

咄嗟に距離を取ろうとするも、すかさず屈強な腕に捕まった。

「全くいくつになっても君は君だね」

「ごめんって」

潤んだ瞳に見上げられ、ふいに衝動が戻ってくる。

「いいや、許さない。たっぷり償いはしてもらう」

ゼインは意地悪く囁き、それから嬉々として彼女の自由を奪いに掛かった。


~Fin~ 2021.4.21 贈り主はもちろんユリア嬢。




よろしければひとことお聞かせください♪お返事はブログから差し上げます。
お名前
メッセージ
あと1000文字。お名前は未記入可。