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「ちょ…ねぇ、ユリアサン。何がどうしたらこうなるわけ?」

ミルズ家のキッチンである。ミゼットは、スプーンの先を口に含んだまま、ぎょっとして固まった。

「おいしくなるかと思って、ちょっとスパイスを足してみたら、何だかおかしなことになってしまって。何故かしら」

「本っ当、何でかしらね。料理以外、大概そつなくこなすのに」

ミゼットはげんなりして、天を仰いだ。

ユリアの料理の腕が惨憺たるものと知ったのは、比較的最近である。新妻となった彼女が、藁をも掴む思いで、ミゼットを頼ったからだ。

しかし、それにしてもだ。ミゼットが来客に応対するために外した、ほんの五分の間に、スープはもはやスープでなくなっていた。

「自分でも、これほどまでとは思わなくて。と言うより、今までお料理は殆んどしてこなかったものですから」

「あら、そう。つまり、旦那様の口に入ったことはないってこと?」

「それがその、一度だけ。女将さんが旅館組合の会合と偽って、デートに行かれたときのことです」

「お宅の女将さんもなかなかお盛んね。シェールのことは諦めたのかしら」

「さあ。ご本人は隠しているようですが、その実、シェールくんにもバレています」

「あの子は勘が鋭いからね」

むしろ、気付いていないのは、お宅の亭主だけだろうと、ミゼットは笑った。

「いつもなら、デートのときには下拵えまでしていってくださるのですが、その日は見様見真似で一からお料理をしてみたところ、それはもう大変なものが出来上がりました」

「そ、そう」

「万が一に備えて、胃腸薬を加えたのが良くなかったみたいで、全体的にどろどろした得たいの知れないものになってしまいました」

「全然備えになってないし、むしろ敗因はそれよ、絶対」

「でも、胃薬のお陰か、翌日はいつもどおり出仕されていましたよ?」

「食べさせたの?!」

この流れで、実食に至る理由がわからない。ミゼットは閉口した。

「流石の主人も一口食べて固まってしまって、けれどもシェールくんに食べさせるわけにはいかないと思ったようで、頑張って食べていました」

「やだもう、面白すぎ。明日、ダルトンに教えてやるわ。あははははは」

スープの材料は無駄になったが、お陰でなかなか楽しい話が聞けた。ミゼットは笑いが止まらない。

「そんな、ダメです。教え子の耳に入ったなんて知れたら、やられます。確実に」

「妻であるあなたには、手荒な真似はしないでしょうよ」

「ええ、ですから、ある日突然、ダルトンが消されることに」

「………かわいい顔して、すごいこと言うわね」

が、あながち嘘ではなさそうである。

~Fin~ 2023.1.20 



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