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その日、タリウスは上官の使いで城内に向かっていた。

「許可証を拝見する」

「許可証?」

城門で一礼し、いつものように門番の横をすり抜けようとしたところ、行く手を阻まれた。配置換えがあったのか、門番の男は知らない顔だった。

「この先に行くには許可証が必要だ」

「確かにそうだが、これまでは…」

士官学校の教官は、中央の軍人であることに変わりはないが、厳密に言えば、城勤めの身分ではない。門番の男の言っていることはわかるが、今まで一度たりとて入城を断られたためしはなかった。

「祭礼の前で警戒レベルが上がっているんだ。外部の人間は、許可証がなければ通せないのが決まりだ。まさか突破しようって言うんじゃないだろうな」

「そんなことはしない」

男はいきり立ち、腰の獲物に手を掛けた。

「おい!新入り!今度は何を騒いでるんだ………って、教官?!悪い、こいつが何か?」

レックス=トラヴァースである。彼がさもすまなそうにこちらを窺うが、男は構わずしゃべり続けた。

「トラヴァース隊長、この者が許可証を持たずに入城を」

「ああ、教官は良いんだ。外部つってもすぐそこだし、顔パスで通して良い」

「ネズミ一匹通すなと仰ったじゃないですか。教官だけ特別扱いするんですか?!」

「特別扱いって言うより、慣例だ」

男は益々ヒートアップし、レックスも若干ひき気味である。

「しかし、自分は着任したばかりでこの者の顔を知りません。教官の制服を着ているというだけで通して、もし後々問題になったら」

「ああ、もううるさい。わかった。教官、悪いが今日のところは出直してくれ」

レックスが折れ、男は勝ち誇ったかのようにこちらを見た。

「だけど、これがもし火急の用で、あとからミルズ先生にいちゃもん付けられたとしても、俺は知らねえからな」

「え?」

上官の言葉に、男はぴたりと動きを止めた。

「最悪、先生本人が怒鳴り込んで来るかも知れねえけど、そんときはお前が相手しろよ」

「いや、自分、ミルズ先生はちょっと…」

「ちょっとなんだよ」

「いえ、だからそのつまり、苦手…でして」

「あの人が得意な奴なんかいねえよ。それこそミゼットくらいなもんだ。良いから、何かあったら、お前がミルズ先生の対応しろよ」

「え、いや、でも、隊長のお知り合いでしたら、その今回に限ってお通りいただいても…」

男は探るような目線をタリウスに送ってくる。

「いや、これまで慣例に甘えていたこちらの落ち度だ。一旦戻り、上官に、ミルズ主任教官に指示を仰ぐ」

「ま、待って!失礼しました。どうぞ、お通りください」

男は血相を変えて、タリウスに追いすがった。

「ったく、何で慣例なのか考えてみろよ」

「す、すみません!」

レックスにぴしゃりと尻をはたかれ、男は小さくなって道を開けた。

「流石は教官、意地悪だな」

すれ違いざま、レックスの囁く声が耳に届く。

「それはお互い様でしょうが」

タリウスが呟き、そこから少し離れた中央士官学校では、先程から主任教官のくしゃみが止まらない。

~Fin~ 2022.3.27 
教官に喧嘩を売ってはいけない件についてw



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