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「こら!いい加減にしないと、ジョージア先生に言い付けるぞ」

「ダメ!!とうさんには言わないで」

その日の稽古終わり、テイラーの放った奥の手に、シェールは顔面蒼白になった。

「さあ、どうしようかな」

「やだ!ごめんなさい。もうしないから。とうさん、怒ったらめちゃくちゃ怖いんだ」

意地悪くつぶやくテイラーに、シェールは自らの不作法を懸命に詫びた。

「知ってるって」

「それにとうさんのオシオキ、すごく痛いし」

「それも知ってる。って言うか、お仕置きなんて誰がしても痛いだろ?」

「そんなことないよ。ミルズ先生のオシオキ、あんまり痛くないもん」

「そ、そう?ってか、ミルズ先生に叱られたりすることあるんだ」

全く予想し得なかった発言に、テイラーは目を丸くした。

「うん。本当にたまにだけど。先生、いつもはものすっごいやさしいし、滅多なことじゃ怒らないけど、でも…」

「滅多なことをすると、怒られるわけだ」

「うん」

力なくうなずき、シェールは目を伏せた。

「でも、怖くないんだろ?」

「怖いよ!!」

シェールはばっと顔を上げた。

「でも、今…」

「あんまり痛くないってだけで、怒ったらめちゃくちゃ怖いよ。本当に本当、とうさんより怖いって思ったもん」

「あの二人の恐ろしさは、比べようがないって言うか、全然方向が違うんだよな…」

言いながら、テイラーの脳裏にかつての師が二人並んだ。一方が、常に苦虫を噛み潰したような顔をしているのに対し、もう一方は常に氷の如く鋭利な笑みをたたえている。

「ジョージア先生が苛烈なオニなら、ミルズ先生は冷酷な悪魔って感じなんだよな。笑いながら、地獄に突き落とすみたいな」

いずれにせよ、万にひとつも彼らを怒らせるような事態に陥れば、間違いなく心身ともに消耗する。

「って、今の話、二人には絶対するなよ」

テイラーはハッとして、シェールを見据えた。

「わかってるよ。僕だってまだ惜しいもん、命」

「だよな」

門弟の台詞に胸を撫で下ろしたのも束の間。

「だから、さっきのこと、とうさんには黙っといてね」

「え?!」

「さよなら!」

流石はオニの子、油断ならない。気か付いたらこのとおり、形勢逆転である。


~Fin~ 2021.8.26 次回はそんな悪魔が仏になる話が書きたい…



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