拍手をどうもありがとう★ 「こら!いい加減にしないと、ジョージア先生に言い付けるぞ」 「ダメ!!とうさんには言わないで」 その日の稽古終わり、テイラーの放った奥の手に、シェールは顔面蒼白になった。 「さあ、どうしようかな」 「やだ!ごめんなさい。もうしないから。とうさん、怒ったらめちゃくちゃ怖いんだ」 意地悪くつぶやくテイラーに、シェールは自らの不作法を懸命に詫びた。 「知ってるって」 「それにとうさんのオシオキ、すごく痛いし」 「それも知ってる。って言うか、お仕置きなんて誰がしても痛いだろ?」 「そんなことないよ。ミルズ先生のオシオキ、あんまり痛くないもん」 「そ、そう?ってか、ミルズ先生に叱られたりすることあるんだ」 全く予想し得なかった発言に、テイラーは目を丸くした。 「うん。本当にたまにだけど。先生、いつもはものすっごいやさしいし、滅多なことじゃ怒らないけど、でも…」 「滅多なことをすると、怒られるわけだ」 「うん」 力なくうなずき、シェールは目を伏せた。 「でも、怖くないんだろ?」 「怖いよ!!」 シェールはばっと顔を上げた。 「でも、今…」 「あんまり痛くないってだけで、怒ったらめちゃくちゃ怖いよ。本当に本当、とうさんより怖いって思ったもん」 「あの二人の恐ろしさは、比べようがないって言うか、全然方向が違うんだよな…」 言いながら、テイラーの脳裏にかつての師が二人並んだ。一方が、常に苦虫を噛み潰したような顔をしているのに対し、もう一方は常に氷の如く鋭利な笑みをたたえている。 「ジョージア先生が苛烈なオニなら、ミルズ先生は冷酷な悪魔って感じなんだよな。笑いながら、地獄に突き落とすみたいな」 いずれにせよ、万にひとつも彼らを怒らせるような事態に陥れば、間違いなく心身ともに消耗する。 「って、今の話、二人には絶対するなよ」 テイラーはハッとして、シェールを見据えた。 「わかってるよ。僕だってまだ惜しいもん、命」 「だよな」 門弟の台詞に胸を撫で下ろしたのも束の間。 「だから、さっきのこと、とうさんには黙っといてね」 「え?!」 「さよなら!」 流石はオニの子、油断ならない。気か付いたらこのとおり、形勢逆転である。 ~Fin~ 2021.8.26 次回はそんな悪魔が仏になる話が書きたい… |
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