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拍手をどうもありがとう† 「うわー!かあわいぃーっ!!」 真新しい手製の巣箱を覗き込み、シェールは感嘆の声を上げた。キラキラと輝くその瞳に映るのは、もっふもふの白いかたまりである。 「母さん、あれは…」 「ウサギよ。あなたの父さんが市場で買ってきたの」 巣箱から少し離れたところでは、タリウスとアリシヤが小声で言葉を交わしていた。 「なんでまた?」 「あの子が欲しがったからよ」 「シェールが?一体いつ?」 息子を連れ、生家へ帰るのはこれが二度目である。自分が知り得る限り、特に手紙のやり取りなどはしていなかった筈だ。 「前にここへ来たときに、ジョンの小屋に興味をもったらしくて。そのときに、犬が欲しいのかと聞いたら、犬より猫よりうさぎが欲しいと言ったそうよ」 「それでわざわざ?」 「わざわざ買いに行ったのか、たまたま見付けて買ってきたのか、そこらへんのことはわからないけど。別に良いんじゃない?あんなに喜んでいるわけだし」 「そうだけど」 うさぎを抱き上げ、幸せそうに愛でるシェールを見て、もちろん悪い気はしない。ただこれだけ可愛がっているということは、それだけ辛い別れをしなければならないということだ。 「ねぇ、とうさん。この子うちに…」 そら来た。 「だめだ」 「なんで?まだ全部言ってないじゃん」 「聞くまでもない。うちには連れて帰れない」 「いやだー」 思ったとおりだ。タリウスは露骨にため息を吐き、それから母親に向け恨みがましい視線を送った。 「ずっとうさぎさんといたいなら、良い方法があるわ」 「いい方法って?」 シェールはうさぎを腕に抱いたまま、アリシヤを見上げた。何故だろう。タリウスには嫌な予感しかしなかった。 「あなたもうちの子になっちゃえば良いのよ」 「な…」 ふんわり微笑む母親を見ながら、タリウスは絶句した。 「えーっ?!そんなこと急に言われても!どうしよう!」 シェールはうさぎと父親とを交互に見比べ、ぴょんぴょん跳ねた。うさぎが迷惑そうに首をすくめた。 「冗談じゃない。シェール、悩むな。断れ」 「だって、欲しかったんだもん。うさぎ…」 今にも泣き出しそうなシェールを前にタリウスは本気で焦った。ひょっとしたら、記憶の彼方にある嫌なことを思い出したのかもしれない。 「なら、また会いに来れば良いだろう」 「本当に?また連れてきてくれる?」 「もちろん、いつでも来たら良い」 それを聞いて安心したのか、シェールはわかったと言って、腕の中のうさぎを巣箱に戻した。そして、背後のアリシヤをすまなそうに見上げた。 「ごめんね、おばあちゃん。僕、おばあちゃんちの子にはなれない」 「良いのよ。でも、本当にいつでもあそびに来てちょうだいね」 「うん!」 そうして極上の笑顔を向け合う母親と息子をよそに、タリウスはひとり特大のため息を吐いた。 ~Fin~ 2021.8.28 市場で売ってたってことは、多分、食用…。食べないけど。 |
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