拍手をどうもありがとう♪ ミルズ家のダイニングである。テーブルを挟んで向かい合うのは、シェールとゼインだ。 「実によく理解している。素晴らしい」 今しがた解き終えたばかりの問題を、ゼインが反対側から満面の笑みで採点していく。 ここ最近、二人はチェスの勝負の前に、こうして一勉強している。時間にして三十分程度だが、きちんと集中すれば、それなりに力がつく。勉強は量より質というのがゼインの持論である。 「この分なら、期末試験は首席かもしれないね」 「えっと、あの、そのことなんですけど」 シェールは、件の寝坊事件について、事の次第を話して聞かせた。そして、最後に「ごめんなさい」と小さく謝った。 「私に謝る必要はないよ。学校で叱られたのだろう?何なら、父上にも」 「そ、それはもう、ホント強烈でした。けど、僕が悪いから、仕方ないんですけど。でももし、進級できなかったら…」 「それはないと思うよ」 「本当ですか?!」 「学んだことがきちんと身に付いているかを図るのが、進級試験の目的だからね。たとえ見せかけの得点が低くとも、君の答案を見れば、もう一年やり直させる意義を感じないだろう」 ゼインの言葉に、シェールは心底ほっとした。彼の言葉には説得力がある。 「とはいえ、あくまで私の見解だが、考えたところで仕方あるまい。そんなことより、宝島はもう読み終えたのだろう?また何か持っていくかい?」 「それが、宝島は今とうさんが読んでて」 「父上がかい?」 予想外の話に、ゼインは思わず吹き出した。 「ごめんなさい、勝手に又貸しして」 「かまわないよ。君の家族であれば、なおのことだ。だが、それにしても、君自身はもう読み終えたのだろう?」 「もっちろん!楽しすぎて、続きが気になっちゃって、それでまあ、失敗しちゃったんですけど。でも、とにかく海賊とか財宝とかすごくおもしろかったです」 「それなら、君におすすめの本があるよ。流石に二回も同じ失敗を繰り返さないだろうからね」 「本当ですか?!もちろんもうしません!でも、二冊も借りて良いですか?」 「ああ、確かに二冊も持ってくるのは重いだろうね。それなら、宝島のほうは、父上から返してもらうとしよう」 「わかりました!」 その頃、宿屋の二階では、タリウスのくしゃみと悪寒が止まらない。 ~Fin~ 2023.3.20 寝坊の原因はユリアではなく、ゼインだった件。タリパパビミョ~。 |
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