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・・魔法使いの卵・・


「キト。キート!」
空に向かって、叫び声が聞こえる。
去りゆく彼女の声には、鳥も驚かない。ただ――
「ノーラ」
「いたー!」
「昼寝の邪魔」
「………」
はっきりと言いきった彼の言葉に、ノーラと呼ばれた彼女が固まった。
かわいそうに、彼女はいつも――
「嘘だよ」
「ちょっ」
「先生が呼んでいるんだろう?」
ひらひらと手をふって、彼が立ち上がる。同時に強くひかれた腕。コツンと、額がくっついてふれる熱。
一瞬、何かを考えることを忘れる。
そして去っていくその姿をとらえて――見えなくなるまで見送る。
頬に触れた唇のあとが、残っているのではないかと、頬に伸びた指で唇を横からなぞった。頬が熱い。
「もう」




「ぁあ、早かったの」
「先生」
部屋の中に入った来た青年に、声をかける人物。答える声。
「やはりまずお主を捕まえることができる者に頼むべき、だな」
「先生」
さっきよりも幾分低い、答える声。
「そう怒らんでもいいだろう。日頃の行いじゃ。しかし彼女には言ってやらんのか? 人を責める前にそれが一番の問題じゃろう」
キトと呼ばれていた彼は、薄く笑った。
それを見た老人が、あきれたように、あきらめたようにため息をついた。
「ノーラもかわいそうに」
「どういう意味です?」
「お主、わかって言っとろうが?」
「例えば?」
老人は、ため息をついた。
「怒っていたほうがかわいいとか言うんじゃろ?」
「違いますよ」
「精神科はどこじゃ!?」
「正常ですよ」
「うううううそつけい!! お主が言い出す言葉であってはならん言葉を聞いたぞ!」
「ひどいなぁ」
「ひどくないわ! 日頃の行いじゃ!」
「だって先生。ノーラが僕を捜している時、ほかには何も考えていないんですよ」
「……わしはのろけられているのか?」
「そうです」
「案外怨んでる気がするがの」
「ありえません」
「ノーラ、騙されとるぞ」
「そんなことより、いったいんですか」
「お前、わしの話は終わっとらんぞ」
「だからなんですか」



・・おしまい・・



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