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    【光のもとで / 勝利の女神は俺らのもん Side 海斗】
    
    「んじゃ、翠葉行ってくんなっ!」
    「うん、頑張ってね」
     球技大会のたびにするようになった会話。
     翠葉は球技には出られない。だからといって仲間はずれになるようなこともないけど、時折寂しそうな顔をするのは知ってる。
     応援席でちゃんと参加してるのに、やっぱ競技自体に参加できないことが翠葉の中では寂しいことなのかもしれない。
     今では翠葉は球技大会の集計の要にいて、全学年クラス委員に救いの神とまで言われてるのにな。
     球技大会の集計場が毎回戦場化していたものを、翠葉が加わることでかなりスムーズに進行するようになった。
     そういうの、ちゃんとわかってるのかな、って疑問に思うくらい自信なさげなのが玉に瑕。
     そんな愚痴を零したら佐野に言われた。
    「じゃぁさ、責任押し付けようぜ」
    「はぁっ!?」
    「責任だよ、責任。クラス全体のさ」
    「なんだよ、それ……」
    「応援団長やらせようよ、御園生に」
     佐野の提案に面食らった。
    「佐野……お前、頭いいな?」
     真面目に言ったつもりだったのに、
    「海斗の頭が足りないんだろ?」
     司張りの返答しやがって……くっそ。
     悔しいけど、こういう場で機転がきくってのは成績とかの問題じゃないんだよ。
     頭の回転、発想の転換。その部分では佐野に負けたと思った。
     結果、まんまと翠葉をうちのクラスの応援団長に担ぎ上げて、クラス代表の表彰台に立たせることも押し付けた。
     そんな状況を作ったからには、この試合に絶対負けられないわけで……。
     相手は司のクラス。因縁対決と参りましょー?
    「ほかのどのクラスに負けてもかまわないけど、藤宮司のクラスだけには負けたら許さないわよ?」
     にこりと笑う桃華が怖えぇ……。その隣で、翠葉が困ったような笑顔でいた。
     準決勝と決勝戦には翠葉を応援席に戻すっていう約束で集計を手伝わせてることもあって、順調に勝ち上がれば翠葉は必ず見に来れる。
     だから、クラスみんな、ここまで頑張って勝ち上がってきたんだ。ここで負けられっかよっ。
    「おら、行くぜっ!」
     俺が号令をかけると、佐野が付け足した。
    「勝ちになっ」
     と。するとメンバー各々声をあげる。
    「あったりまえだっ!」
    「うちのクラスの勝利の女神をなめんなよっ!?」
    「あ゛!? たかだか2Aだろ? 負けねえっつーのっ」
    「根性見せてやりますよっ!」
     言いながらコートに足を踏み入れる。
     翠葉、ホラ、今だって。
     応援席を振り返ると、トン、と桃華に肩を叩かれ促されている翠葉がいた。
     口を小さく開けて、何か言おうと試みてるのはわかる。でも、決勝戦なんですよ、翠葉サン。
     もっと大きな声で言ってもらわないと聞こえないって。俺にも司にも。
    「なーにーーーっ!? 悪ぃんだけど全然聞こえねぇっ!」
     声を張ると、一瞬「どうしよう?」って顔をして、でも、決意したように澄んだ声が通った。
    「みんな頑張ってねっ。負けないでねっ。絶対に優勝してねっ」
     翠葉、それはつまりどっちに言ってるの? みんなって言ったら司含まれちゃうじゃんさ。
    「御園生ーっ、クラス名忘れてるっつーの!」
    「あ、ごめん」
     そんなふうに唇が動いてすぐ、
    「海斗くん、佐野くん、河野くん、和光くん、高木くん、頑張ってっ!」
     そう、そうこなくっちゃね。
    「あそこまで言われたら負けらんねぇよな?」
    「うっし!」
    「やるかっ!」
     司。悪いけど、翠葉はうちのクラスの勝利の女神であってお前のじゃないからなっ!
     ご愁傷様っ!
 

     イラスト:涼倉かのこ様





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