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     【腹心の部下は面倒見がいい Side 秋斗】
     
     「飲み物、お取替えしますよ」
      蔵元に声をかけられて視線を上げると、デスクに置いてあったカップが空になっていた。
      そういえば、さっきの一口が最後だったか――
     「助かる」
      言いながらカップを受け取り、「あれ?」と思う。
     「っていうか蔵元、今日外回りなかったの?」
      何気なく訊ねると、蔵元は「信じられない」と言った目で俺を見下していた。
     「秋斗様は今日がどんな日であるかご存知ではないと?」
      あれ……? どうして蔵元の顔が引きつってるんだろう……?
     「今日、なんかあったっけ……?」
      蔵元は口角をこれでもかと引き上げてから、
     「午前は入社式で、午後から研修って言ったのは秋斗様でしょうがっ! ああああ、こんなことだから、秋斗様を壇上に立たせて挨拶のひとつやふたつやらせたかったんですよっ!
     それを、面倒とか、表に立つのは蔵元やってよとか、なんでもかんでも私に振るからっ――」
      あー……そういえば、そんな仕事を振られて蹴っ飛ばしてそのままだった気が……。
      そろりそろりと蔵元を見上げると、
     「そのあたり、唯のほうがまだ使えますね……」
      蔵元の視線の先には、別のブースで見かけない顔に仕事を教えている唯の姿があった。
     「そっかそっか……。新人研修は唯に振ったんだったっけ」
     「秋斗様……人に振った仕事と社の大まかなスケジュールくらいはきっちり頭に入れておいてくれませんかね……」
     「悪い悪い。でも、うちは優秀な人間しかいないから、俺が把握してなくても回るだろ?」
     「回る回らないの問題じゃないんですよっ!」
     「モウシワケゴザイマセン……」
     「まったく……。いつまでたってもあなたって人は――」
      蔵元はブツブツ言いながらデスクにあったカップを取り上げ、カップを持って立ち去った。俺は、斜め後ろのブースにいる唯に視線を戻す。
     「そうそう。それで合ってる合ってる。で、こっちはさっき教えたやつの応用でぇ……」
     「こっちは無理っすっ! さっきのよりも複雑じゃないですかっ」
     「だから応用だって言ったじゃん。ちなみに、うちの会社は『無理』『できない』『やれません』禁止だから覚えておいて?
     ほらほら、やってみる! なんでもやってみないと何がわからないのかすらわかんないでしょ!」
     「ううう……間違えても怒んないでくださいよっ?」
     「それは了承しかねる。俺、男には厳しくいく派なんだ」
      にっこりと笑う唯の顔は天使そのもの。しかし口にしている内容は、数年前に俺が唯に向かって放ったものばかり。
     「くっ……教え方が俺と一緒」
      これは間違いなく、俺が伝授したことになるんだろうな。
      そういえば、司に対しても同様のことを言ってきたっけ……。結果、海斗がその被害を被ったわけだけど……。
     「本当、俺の周りには似たり寄ったりの人間しかいないな」
      でも、唯にしても司にしても、俺よりは確実に面倒見が良さそうだ。
      新人の彼はあーだこーだ言いながらもきっちり手は動かしているし、唯の突っ込みが入らないところを見ると、相応に使える人間なのだろう。
      そもそも新入社員を雇う際、最終選考したのは俺だ。使えない人間を入れた覚えはないし、唯が楽しく教育できるような人間を選んだつもり。
      その甲斐あってか、唯は「面倒」とか言っていたくせに、今は楽しそうに指導をしている。
     「あの唯が新人研修ねぇ……。俺も年を取るわけだ」
      俺は湯気の上がるハーブティーを一口含み、モニターに向き直って作業を再開することにした。
     

             
     イラスト:涼倉かのこ様





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