web拍手、ランキング投票のクリックありがとうございます! 【君ヲ想フ Side 司】 夢を見やすいほうか、と訊かれたら否だ。ただ、眠りの浅いときには見ることもある。 見る夢のほとんどは寝る間際に考えていたことがベースになっている。もしくは、印象的すぎる出来事が姿を変えて夢に現れる。 たいていのことなら、「あぁ、あれが原因か」と心当たりのようなものがあるわけだが、これは――。 なんで翠がいる……? 目の前に翠が寝ていた。無防備極まりない状態で。 いや、睡眠中は誰もが無防備なものだろうが、翠においては拍車がかかってそう見える感が否めない。 部屋においては全くもって見覚えがない。ベッドヘッドはいかにも翠が好きそうなラタンでできている。 目に見えるものすべてが白で統一されていた。翠が纏っているシーツもキャミソールワンピースも、何もかもが白く、色を持つのは 翠の肌と髪のみ。 ベッドヘッドの上に白いレースカーテンが揺れていた。カーテンの向こうにどんな景色が広がるのかは検討もつかない。 ただ、冷たくも温くもない風が部屋の空気を緩やかにかき混ぜていた。 自分の背後に壁と白いドアにアンティークゴールドのドアノブを認め、翠の横たわるベッドに近づいた。 なんでこいつはこんなにもすやすやと寝ているんだろうか……。 まじまじと見下ろし、少しの違和感を覚える。その正体を突き止めるため、一歩下がり、全体の翠を把握する。 睫が長いのはいつものこと。色が白いのも唇の血色が悪いのも、華奢な身体も変わりない。では何が違うのか――。 「…………」 なんとなく「何」が違うのかはわかった気はするが、微妙に認めがたい。 「なんで大人っぽくなってるんだよ……」 姿形、何も変わらないように見える。けれど、何が変わったかと言われるなら雰囲気というか、「感じ」なのだ。 眠っているときに見られるあどけなさはある。が、それとは別で……どうしてか大人っぽく見える。 具体的には言葉にできないものの、違和感の正体はつかめた。つかめたところで問題が発生するとは思いも寄らなかったわけだが……。 「無防備に寝てるなよな……」 顔にかかる髪をそっと払ったそのとき、 「ツ、カサ――」 「っ……!?」 起きたのかと思ったら単なる寝言だった。 「おまえは俺の寿命を縮める気か……」 作者の謀略だったら何か仕返ししないと気がすまない域……。無邪気な翠にはデコピンくらい見舞ってもいい気がする。 「……それ、ココアだよ?」 翠の寝言はまだ続くようだ。一体どんな夢を見ているんだか……。 自分にはそぐわない「ココア」という単語にほんの少し心が和んだ。そして、次の瞬間に心臓が止まる。 パチリ。大きな双眸が俺を捉えた。そして言うんだ。起きぬけの、あどけない笑顔と声で。 「ツカサ、十八歳の誕生日おめでとう」 咄嗟に片手で顔を隠したけれど、片手で覆える面積なんて高が知れている。 今、間違いなく体温が上昇している俺の顔は翠に見られているのだろう。 勘弁してくれ――そう思った瞬間、現実に引き戻された。 「珍しいな、司が寝るなんて。疲れてるんじゃないの?」 朝陽だった。場所は図書館の最奥、窓際の席。 時計を確認しようとすると、 「五分も経ってない。ジャーキングで目ぇ覚ます司とか、すごい新鮮だった。夢でも見てた? 顔が赤く見えるのは気のせい?」 意味深に突っ込まれ、朝陽は席を立つ。 「まだ時間あるけど、そろそろ行かない?」 どこへ、と訊く前に呆れた顔をされた。 「まさか忘れてないよな? 今日、お前の誕生日。翠葉ちゃんたちが誕生会の用意してくれてるんだろ?」 そう言って、おもむろにブリーフケースからアイボリーの封筒を取り出した。 「…………」 今日が俺の誕生日? 俺はまだ眠っているのか? 現実と夢の境界があやふやすぎる。重力は確かに感じるのに……。 これは作者の謀略ではなくサプライズなのかもしれない。 ……今回だけはのってやる。 夢ノ中デ ナホ 君ヲ想フ――。 イラスト:涼倉かのこ様 |
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