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● 『華鬼シリーズ 華鬼×神無』 お題:華鬼の手料理。
※甘月の刻56話直後(本編ではカットされましたが、実はキッチンに華鬼が消えたのはこういう理由でした)

○ 『華鬼シリーズ 梓』 お題:彼女から見た彼ら。
○ 『魔王様シリーズ イナキ+ダリア』 お題:はじめてのおつかい。
○ 『華鬼シリーズ 大田原』 お題:お見舞い。
○ 『華鬼シリーズ 響×桃子』 お題:二年後。

 台所から聞こえてきた音に神無は小首を傾げながらも歩を進めた。ドアの前でいったん立ち止まり、大きく息を吸い込んで高ぶった精神を鎮めてからゆっくりドアを開けた。
 ドアの向こうからは途絶えることなく一定のリズムが響いている。聞き覚えのある音に、しかし神無はどうしても納得がいかずに奇妙な顔をして室内を覗き込み、目を丸くしてその光景を見つめた。
 台所には華鬼が立っている。
 鬼ヶ里に来て、彼がそこに立った姿ははじめて目にした。しかもなかなか様になっているから不思議この上ない。
 神無はしばらくそこに立ち尽くし、華鬼が以前一人で母親の世話をしていたことを思い出す。ほとんど身動きの取れない母親のそばに彼はずっといたのだ、自然と家事も身についたのだろう。
 鍋を用意してダシを取り――そうしてテキパキと動く彼を見つめながら、神無は邪魔にならないように室内に入り椅子に腰掛けてその姿を見守った。
 意外な話だが、改装後にキッチンを確認していないと思っていた彼は、どこになにが置いてあるのかきちんと把握しているらしい。すっかり涙の乾いた瞳に映るのは、当たり前のように料理を作っていく男の姿だった。
 神無は大人しくそれを見守り、それからしばらくの後に目の前にくつくつとかすかな音を立てる鍋が置かれた。ふわりと鼻腔に食欲を誘う香りが届く。華鬼が鍋の蓋を開けると、湯気とともに香りが室内いっぱいに広がった。
 鍋の中身は雑炊であった。卵雑炊のようにも見えるが、どう見ても具の量が通常のそれよりも多い。取り皿にわけてもらい、それが彼のオリジナルの料理であることにようやく気付いてちらりと彼を盗み見た。
 彼は彼で、自分の取り皿に雑炊を取って向かいの椅子に腰掛ける。
「いただきます」
 少し緊張しながら声をかけたが、当然ながら返答はない。神無はそっと一口、口に入れた。
 凍えた体と心には、あたたかい食べ物がなによりもご馳走だった。しかしそれ以上に嬉しかったのは、彼の不器用な優しさだった。
 ただ単に、どう扱っていいのかわからなかっただけかもしれないが、それでも充分に嬉しい。
 二口目を口に運んで、ほっと息をつく。
「おいしい」
 思いかげず口をついた言葉に華鬼の表情がほんの少しだけ変化する。見落としてしまいそうなそれは彼がはじめて見せる柔らかな笑顔――けれど瞬きをした瞬間、まるで幻のように跡形もなく消えてしまった。
 神無はスプーンを持ったまま、きょとんとする。その顔が真っ赤になっていることを知るのは、彼に指摘されてからだった。




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