★ ただいま五作品掲載中です ★


○ 『華鬼シリーズ 華鬼×神無』 お題:華鬼の手料理。
○ 『華鬼シリーズ 梓』 お題:彼女から見た彼ら。
● 『魔王様シリーズ イナキ+ダリア』 お題:はじめてのおつかい。
○ 『華鬼シリーズ 大田原』 お題:お見舞い。
○ 『華鬼シリーズ 響×桃子』 お題:二年後。

「ダリア先生、ごめんなさい!!」
「ん、大丈夫だ。指示通りにやればいいんだろ?」
「うん!」
「任せろ」
「ありがと、お願いします!!」
 なぎさの声にせわしない足音が混じり、次にドアの開閉音が続き、やがて階下が静かになる。イナキはふっと溜め息をついて本から視線をはずし、少しだけ開いたドアを見つめた。わずかな空間から「よし」と気合いを入れるダリアの声が漏れ聞こえてきて、彼は何となく不安になってしおりを挟み直して本を閉じ、逡巡してから立ち上がった。
 身支度を整えて玄関に向かうダリアの姿が見える。
 思わず口を開いたイナキは、とっさにつぐんで小さくうなった。彼女が何かを頼まれるたびに付き添っていては、彼女のためにはならない――ようやく中学に進級したばかりという少年は、まるで母親よろしく模索した。たまには遠くから彼女の動向を見守るのもいいかもしれない、と。
 そして問題があったときに手を貸せばいいのだ。
 そばにいてあれこれと世話を焼くより、その方が彼女のためにもなるだろう。背格好なりは立派に大人の女性だが、ダリアはとにかく常識というものを知らないのだ。このチャンスに、彼女がどれだけこの世界に順応したか確認しようとも考えた。
 ダリアが玄関から出て行くのを確認し、しばらく間をあけてイナキも靴を履く。そして、離れすぎないよう、気づかれないように微妙な距離をおきながら歩き出す。自分が多少なりとも魔に属しているのは幸いだなと、身の不遇を嘆くことなくイナキはひとり頷いていた。
 やがて彼女はデパートの一角、キャッシュディスペンサーへとたどり着く。足を止めて見惚れる多くの視線をものともせずにガラスドアの奥に消えた彼女は、内部を見渡し表示を確認して、緑色の看板へと近づいていった。
 そして、おもむろにバッグからカードと通帳を取り出し、緊張した顔をくすんだ色彩の画面へと向けた。
「そっか、給料日だった」
 姉のなぎさはパン屋で働いているのだが、給料は振り込みになっている。なるほどと納得したイナキは、自分の過保護さに失笑して肩をすくめた。確かに指示通りにやれば問題なくお金がおろせる。わざわざついてくる必要などなかったのだ。
『そのままの状態でお待ちください』
 軽い電子音のあと、無愛想な女の声がスピーカーから流れてきた。
 見つからないうちに帰ろうと片足を持ち上げたイナキは、違和感に眉をひそめてガラス戸の奥を凝視した。キャッシュディスペンサーと向き合ったダリアは、息をつめ瞬きもせず、彫刻よろしく固まっている。
「……ダリア」
 くらりとめまいがした。
 そのままの状態というのは、額面通りの意味ではない。何も息を止めろだの瞬きをするなだの、指一本動かすななどという無茶な指示ではないのだ。あれは、処理が終わるまでその場で待っていろという内容の言葉だ。
「まだまだ先は長いなぁ」
 教えることは山ほどある。イナキはそれを再確認して肩を落としたが、大変だと思いこそすれ、不思議と面倒だとは感じなかった。
 それがたぶん、惚れた弱みというものなのだろう。
「イナキ!?」
 ショルダーバッグをかけ直し、緊張した面持ちでお金の入った封筒を両手できっちり握りしめたダリアが、イナキを見つけて驚きの声を上げた。
「帰ろうか?」
 手を差し出すと、ダリアは慌ててバッグに封筒をしまい、嬉しそうに笑顔を弾ませた。




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