季節は夏。向日葵様の夏園が最も力を発揮する時候。

この時期には麓の村で夏祭が催される。皆が一族の先祖を迎えるためだ。
祭の中で舞や祝詞を奉納するのも私の役目なので、その日には麓へと行く。

しかし麓へ行く度に少々残念な気持ちになる。
麓の女の子達は祭に備え、それぞれに着飾っているのだが私には着飾るような良い着物を持っていないのだ。
持っているのは舞御子が代々伝えてきた藍地の着物が一つだけ。後は普段着でとても華やかとは言いがたい。

(私も着る事ができたらな・・・)

そんな事を思いながら庵の縁側で涼をとっていると、向日葵様が尋ねてきた。
手には上等そうな反物がある。紫と藍で朝顔を染め抜いた反物だ。

夏園の草木で染めたものだというが、なんとこれを私にくれるのだと仰った。
こんな上等なもの、私には勿体無いと断わったのだが半ば強引に向日葵様は反物を渡してきた。

向日葵様がお帰りになった後、反物を広げてみる。辺りに広がる爽やかな草木や花の香り。
普通の反物とは違う、どこか懐かしい感じがした。

(折角だから、浴衣をしつらえてみようか・・・)

そう思いながら、早速布の切り出しを始める。

今年の夏祭はいつもよりちょっと心が躍る。



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