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以下はガンダムWサイドのお話です。





a cold remedy (その2 12/20 更新しました!)




 思い返してみれば、10年以上共に過ごしたゼクスの記憶の中に、トレーズが臥せった姿というのは見当たらない。
高貴な家の御曹司である彼は、彼に害を成すと判断されたさまざまなものからさりげなく厳重に保護された環境で育っていて、当然怪我や病気からも縁遠い生活をしていたからだ。勿論、彼本人が自分の立ち位置をよく理解し、幼い頃から体調管理を徹底させていたというのも大きい。
一方ゼクスはといえば、反対に自分の限界を振り払おうと無茶をしては寝込むような幼少時代だった。
 そのたび枕元に見舞う彼の心配げな顔と、普段はゼクスに良くしてくれる使用人達が、彼をなるだけゼクスに接触させまいとしていたのを憶えている。それほど周囲は彼の体調に気を配っていた。
 だからこれほど動揺してしまうのも無理はない。そうゼクスは自身を落ち着かせてみる。
 帰途の車中、彼は上機嫌だった。いつものように人を魅了する笑みを浮かべ、今朝行われた連合幹部との会議の話題や、今年のワインの出来や、一昨日飼っている猟犬が3匹の仔犬を産んだことなどを饒舌に話した。シートに横になり、ゼクスの膝に頭を乗せて。
 普段ではありえない状況と膝から伝わるその体温の高さに、相槌もそぞろになる。
「疲れているようだね、ゼクス」
「いえ」
 不意にそう訊かれて、我に返った。彼はゼクスを見上げ微笑む。
「任務の後に長い移動を強いてしまって済まなかったね。だが、こうして君と逢うことが出来て嬉しいよ」
「閣下、私を召還なさった理由は、本当にそのことなのですか?」
 こんな体制で彼を見下ろして「閣下」と呼ぶのも違和感を感じるのだが、ゼクスは彼の護衛として任務遂行中の身だ。
「ああ、勿論」
 トレーズは少年のようにくすりと笑う。
「レディに、君の顔を見るまでは薬は飲まないと言ったら手配してくれたのだよ。君にも彼女にも少々しわ寄せがいったのは申し訳なかったが、たまにはこんな些細な我侭も許されるかと思ってね」
 そのレディ・アンは、トレーズの残務を引き継いで本部に残っている。本当なら彼女こそが付き添って送り届けたかったのだろうに、見送る際に二人に向けられた、諸々の感情が入り混じったオドロオドロしい表情を、彼は知っているのかいないのか。
 全く彼らしくない。
 半ば呆れて見遣っていると、重たげに手が伸ばされて頬に触れた。
「怒っているかい?」
「いえ、そのようなことは……」
 力のないその手を思わず支えてしまった。手袋越しにでも分かるその熱に、胸の鼓動が乱れる。
 こんなに体調を悪くしていて、この人はどうしてこんなに穏やかに微笑むのだろう。
「君の素顔が見たいな。ミリアルド」
 ゼクスは思わずたじろいだ。この車は軍の公用車で、トレーズの私邸に到着するまでゼクスの任務は終了しない。そんな公私混同を、普段の彼は強いたりしない。
 それでも、熱に潤んだ眸に抗えずためらいがちに仮面を外すと、彼は眼を細めほっと息をついた。
「人は病に掛かると弱くなるというが、それを実証してしまったな」
 少しかすれた甘い声が囁く。
「──本当に、ただ君に逢いたかった。ミリアルド。笑ってくれていい」
 ゼクスの中の狼狽は、まだ続いているらしい。 
「いえ……」
 堪らなくなって眼を逸らした。
 リムジンは滑らかにクシュリナーダ家領の門をくぐり抜ける。屋敷には医師が彼の到着を待ち受けているだろう。こんなおかしな状況もあと僅かだ。
 ゼクスは知らず、溜息をついていた。



to be continued───








済みません、あともう少し続きますorz

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