+ Rosy Chain +

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こちらの作品は第七章と第八章の間のお話です。

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Rosy Chain Side Story

05.Honey, Honey

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* Kouki *
 それは、本当に小さなことだけれど。
 俺たち流の、感謝の気持ち。

 * * * * *

「……風澄、いい加減に機嫌直せよ……」
「別に機嫌悪くなんかないもん。普通だもん」
 今の君の、どこが機嫌が悪くないんですか。
 ……と思わず突っ込みたくなるほどツンケンした表情で、彼女はそっぽを向く。
 実際に突っ込みを入れたらそれこそ口をきいてくれるかどうかも怪しいので、しないが。
 辛うじて、同じソファに座ってくれているぶん、まだマシであろう。

 彼女がこれほど機嫌を損ねている、その原因は俺である。
 彼女がこれほど機嫌を損ねている、その理由も俺である。
 風澄自身は否定するが。

 けれど、俺だって怒らせたかったわけじゃない。
 むしろ逆だ。
 喜んで欲しいからこそ、したことだったのに。
 なのに。

 どうしてこういう結果になるんだか……。

 もし俺が彼女の立場だったら、それはもう手放しで喜ぶと思う。
 ただ、大前提が違うのだ。
 すなわち。
 
「いいもん、知ってるもん。昂貴が私よりずーっとお料理が上手いっていうことはねっ!」
 
 風澄の好きな、ハニートースト。
 俺も気に入った、ハニートースト。
 それなら色々試してみるのは基本だと思うんだが、幸か不幸か、妙に菓子作りに長けている俺の父親に聞いたレシピが大当たり。
 そもそもハニートーストを作るにはいろいろな方法があるのだが、基本は至極単純かつ簡単である。しかし、シンプルであるがゆえに、ほんの少しの材料や手順の差だけでも、まるで違う味になってしまう。
 実家で試しに作ってみたところ、あまりの美味さに、これは是非とも風澄に食べさせたいと思い、ふたりぶん作ったのだが……彼女の反応はと言えば、笑顔で一口食べた後、固まったかと思うと、ひたすら黙り込んだまま静かに食べ、ナイフとフォークをきちんと揃えて皿に置き、溜め息をひとつ。その後は話し掛けない限り無反応。感想を聞いても、返ってくるのは沈黙か、拗ねたような言葉だけ。
 俺が食べたほうは美味かったし、風澄の皿も綺麗になっているから、味が合わなかったわけではないと思うのだが、こういう反応となると、さすがに不安である。

 昨日は良かったよなぁ。
 実家に帰省して、二日半ぶりに逢った俺たちは、荷物を片付けもせずに抱き合った。
 積もる話はたくさんあったのだけれど、それよりなにより、触れ合いたくて。
 心も身体も満足しきって眠りについた俺たちが目を覚ましたのは、当然の如く、既に日が高くなった頃だった。
 目が覚めた時、自分の腕の中に彼女が居る、その幸せに浸りきっていた。
 ブランチもどきの朝食を摂った後も、さっき紅茶を淹れた時も、笑顔が絶えなかった。
 しかし今やこの状態である。
 あーぁ、やっと逢えたのに、さっきまでラブラブだったのに、なんでこうなるんだよ……。

「そんなに嫌だったなら、もう作らないからさ……」
「違うもん。そんなんじゃないもん」
「味は合ってたわけ?」
「…………」
 頼むから、美味かったなら美味かったと、不味かったなら不味かったと、正直にはっきりきっぱりと言ってくれえぇ!
 それとも、やはり俺は、風澄が嫌がることをしてしまったんだろうか。
 気づかないうちに何かしていたとか……う、やばい、あながち無いとも言えないな……思い当たることがありすぎる……。
 とは言え、あれやこれやの最中はともかく、今現在、彼女の機嫌を損ねるようなことをしたわけじゃない。と思う。たぶん。
「……なぁ、風澄……」
 自分には一体なにが悪かったのかわからない。どれだけ考えてみても、さっぱり思い当たることがない。
 しかし……とてもこの状況には耐えられん。しくしく。
「俺にできることなら何でもするからさ……機嫌、直してくれよ。頼むから……」
 条件つけてる時点で、言質を取られないようにする癖が出ているけど。
 風澄のためなら嘘じゃないから。
「……本当に?」
「本当! 本っ当に、なんでもします!」
 あ、でも、禁欲は勘弁して欲しい。
 さすがに今はそんなことを口に出せないが。
「……じゃあ」
「ん?」
「私のお願い、聞いてくれる?」
「何を?」
「内容聞いちゃダメ」
「おいおい……」
 あのう、俺は一体何をねだられるんでしょうか。
「せめてヒントくらい……」
「ダメ! 絶対ダメ!」
「最初の一文字……」
「いいって言うまで何も聞かないからね!」
 風澄って、こんな女の子だっただろうか。
 どちらかと言うと聞き分けが良くて、わがままを言わないで、むしろ自分の感情を素直に出すことが苦手なタイプだと思ってたんだが。
 俺も俺で子供っぽいことを言っているけど。
 まぁ、そんな彼女はどうかと聞かれれば。
 可愛くてしかたがなかったりするんだが……。

 でもまぁ。
 風澄になら、いいか。
 恋愛が惚れたほうの負けだってことは、もうとっくにわかってる。

「いいよ。なんでも聞いてやる」
「ほんと?」
「本当。……だから、許してくれるよな?」
「言うこと絶対に聞いてくれたらね」
「ああ、だから、なんでも聞くって」
「じゃあね……」
 そして彼女は、がばっと俺の腕を掴み。
 顔を伏せ、少し頬を赤らめて、こう言った。
「……さっきの、すごく美味しかったから……作り方、教えて?」
 と。

 ……俺、鼻血吹くかも……。

「だ、だめ?」
「だめなわけあるかー!」
 あ、変な日本語になっちまった。
 でも良いのだ。これで良いのだ。なんだって良いのだ。
 可愛いなぁこんちくしょー!
「や、だめーっ! なにしてるのよーっ!」
 あまりの可愛さに、思わず額やら頬やらキスをすると、彼女は恥ずかしがって抵抗した。
 ダメですよ風澄ちゃん、拒否は許しませんよ。
 こんなに君が可愛いのは君の所為だから、しっかり責任は取ってもらう。
「んんっ、や、ちょっと、昂貴っ……」
 くすぐったそうに身をよじる風澄を抱き寄せ、髪に顔を埋め、首筋にキスをして。
 甘い吐息に誘われ、口唇を重ねる。
 手を伸ばし、首に腕を絡め、くちづけに応えてくれる彼女が、よりいっそう愛しい。
「いいよ……教えるよ。いつがいい?」
 キスの余韻に浸りながら、腕の中で俺を見上げる風澄の柔らかな頬を撫でて囁く。
「いつでもいいの?」
「そりゃもちろん」
「じゃあ今!」
「……………………………………………………、今?」
 あのう、俺の耳に幻聴が……。
「そう、今。今すぐ教えて!」
「さっき一枚食ったばっかりだろ?」
「いいの!」
「その前にブランチを食っただろうに……」
「別腹!」
「さ、さいですか……」
 半ば彼女の勢いに押されつつ、キッチンへ向かう。
 一度買い足したから、残っているパンは四枚。とりあえず一枚は練習としても、ポイントは手順なんだし、すぐ憶えるだろう。

 ……その時の俺は、知るべくも無かった。
 風澄が『打倒・昂貴のハニートースト』という、激しい闘志を燃やしていたことに……。

Line

ハニートースト、リベンジ! 昂貴の作り方はものすごく手間がかかるので私はやりませんが(笑)。
Honey Time 2と言うよりは洋楽の某曲のイメージでこんなタイトルになりました。
いやはやしかし……昂貴、弱っ!(笑)

Line

First Section - Side Story The End.

2007.09.30.Sat.

* Rosy Chain *


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