+ Rosy Chain + web拍手の送信ありがとうございます! それでは、お礼作品・Rosy ChainのShort Storyをお楽しみくださいませ。 こちらの作品は第一章と第二章の間のお話、 視点は昂貴の友人・浅井くんです。 * * * * * * web拍手について * 全五話のうち、ランダムで一話が表示されます。 ページ下部の送信ボタンを押して戴くと、ランダムで一話が表示されます。 連続で十回まで送ることができます。 Rosy Chain Side Story 04.No Reason ![]() * Kazuyuki Asai * 理由なんか、ないんだな。 ――どうして好きか……なんて。 * * * * * 「おまえさ……自分を振った男を三年も想い続けてる女なんて、信じられるか?」 「はぁ?」 大学の春学期、要するに前期が終わりに近づいた頃。 長い付き合いの友人、もとい悪友である高原が、そうのたまった。 「それも絶世の美少女」 「美少女かどうかは主観によるんじゃ?」 「それを差し引いても絶世の美少女」 「……単におまえの好みっつーだけじゃないのか、それ」 だけどこいつ、美女なんて見慣れてるからなぁ。そもそも、高原の姉からして美人だし。まぁ中身はだいぶ、かなり、相当、変わった人だったけど。そんな高原が美を強調するくらいだから、本当に絶世の美少女なのかもしれない。 「で、そんな絶世の美少女が、別れた彼氏のことを忘れられずに三年経つということは、有り得るかという話?」 「彼氏……では無いと思うが。たぶん」 「やに具体的だなぁ」 「どう思う?」 「うーん、そうだなぁ……」 まぁ、男はほっとかないと思うけど、俺自身は面食いじゃないから、絶世の美少女だからと言って惹かれるとは限らない。と思う。たぶん。もちろん、しばらく見惚れてしまうであろうことは、想像に難くないけれども。 「そういえばさ、失恋したばかりの男と女がつきあうってのは、よく聞く話だろ?」 「同類相憐れんでーってやつか。ありがちだな」 「まぁ、そんなもんだろうな。で、ここからが面白いんだけどさ、失恋した男が恋人の居ない女にその話をしても、その二人はつきあわない。でも、失恋した女が恋人の居ない男にその話をした場合、その二人は大抵つきあうらしい。『彼氏が途切れない女』の常套手段がこの手口なんだってさ。俺は女の気持ちなんかわからないし、その女が最初っから下心アリなんだか、ただの気晴らしの一環か、もてない女のやっかみなんだか、本当のところはサッパリわからないけどな」 「失恋の話なんか普通するか他人に?」 「そりゃおまえは失恋なんかしたことがないからだろ」 「……なるほど」 高原昂貴、26歳。 つきあった女の数イコール別れた女の数。イコール言い寄ってきた女の数。 まぁ、二桁で済めば良いほうだろう。 ……最っ低な男である。 なんでこんな最低男に女が途切れなかったのか。 ついでに、なんでこんな男と平々凡々な俺が、これだけ長い期間にわたり、友人としてつきあい続けてきたのか。 考えれば考えるほど謎である。 世の中は謎に満ちているな。うん。 「軽い男が居るのと同じように、軽い女だって居るだろ」 「ああ、なるほど。人それぞれか」 「そ。十人十色ってやつ」 「わかんねぇな、俺には。失恋したことなんか無いから」 「だけど『切ない恋』はしてるだろ」 こいつの周りに絶えなかった女の影が、修士課程最後の留学から帰ってきたら、それはもう見事なほど消え去っていて、あまりの変化に思わず理由を尋ねたのが二年半前。 聞けば留学直前に垣間見た女の子が気になって仕方ないと言う。 あん時は驚いたなぁ……。 「本命を想い続けて早三年? 似たようなもんじゃないか。しかもおまえの場合、相手のことは顔と名前しか知らず、その上、相手は自分を知らないときた」 「……知ったよ」 「へ?」 「知り合うだけで済まなかったけどな」 「……………………、相変わらず手の早いことで……」 この女の敵……いや男の敵ッ! 「つまり、その『絶世の美少女』が、おまえの『ファム・ファタール』で、ついに知り合うことができた、ってことか」 ファム・ファタール――日本では大抵『運命の女』と訳されている。……などと言うと、まるでロマンチックな恋愛物のヒロインみたいだけど、一般にファム・ファタールと呼ばれる女性は、そんなイメージとはかけ離れた存在だったりするんだな、これが。 つまりは、運命の女――転じて、悪女。男を破滅に導く妖婦。蠱惑的な美しさをたたえ、男を魅了し、惹きつけ、心を捉えて離さず、狂わせる、魔性の女のこと。美術史上、ラファエル前派が頻繁に扱ったテーマとしても知られているけど、これがまた誤解を招きやすい。と言うか、知らない人はみんな騙される。 ラファエル前派、正確には、ラファエル前派兄弟団。19世紀半ばのイギリスで結成された画家たちを中心とする同盟なんだけど、この年代がミソ。『ラファエル前派』って言うと、『ラファエルの前の時代の人』みたいに聞こえるけど、この場合は『ラファエルの前の時代に戻ろうとした人』というのが正しい。ラファエロは15世紀から16世紀にかけての人で、19世紀半ばと言えばヴィクトリア女王の治世だしね。ついでに言っておくと、ラファエルとラファエロの違いは英語とイタリア語の違い。細かい結成理念は専門外だから省略。って言うか忘れた。でも、これが『レンブラント前派』の場合は『レンブラントの前の時代の人』だったりするから、ややこしい。この場合は『前レンブラント派』という言い方のほうが誤解を助長しないから、最近は専らこっちを使うかな。 ラファエル前派の話に戻るけど、代表的な画家はハント、ミレイ、ロセッティ。ちなみに、このミレイもまた、誤解をされやすい人の一人。日本の場合『ミレー』と聞くとバルビゾン派の画家で《落穂拾い》を描いたジャン・フランソワ・ミレーが先に出てきちゃうんだよね。日本人好きする絵だし、国内の所蔵数も多いから、しかたないんだけどさ。で、ラファエル前派の『ミレイ』は、ジョン・エヴァレット・ミレイ。《オフィーリア》を描いた人と言えばわかるかもしれないけど、時代も被ってるから、更にややこしい。 ミレイはイギリス人でMillais、ミレーはフランス人でMilletだから、アルファベットなら間違いようがないけど、日本語じゃねえ。だから日本の美術史家はバルビゾン派のほうは『ミレー』、ラファエル前派のほうは『ミレイ』と表記しているんだ。『バレー』と『バレエ』みたいなもんだね。 で、ファム・ファタールの具体例をあげるならば、ユディット、デリラ――それから、やっぱりサロメを欠いて語ることはできないと思う。なお、この三人に共通する点は、男の首を切っていることだったりして……男からすると、恐ろしい話である。 「『ファム・ファタール』なんて言うと、なんか悪女みたいだな」 「この高原昂貴を手玉に取るような女なら、悪女だろー?」 「いや……聖女だよ」 「おいおい……」 「清純で、高潔で、気高くて、人を寄せつけないような印象なのに、打ち解けると可愛くてさ。天然ボケっつぅか、ちょっとずれたところもあって、完璧じゃないところも良いな。何を言われてもびくともしないような強靭な印象なのに、涙腺は弱いし、脆いところもあって、なのに一途で、頑固で、心は簡単に譲り渡さない気がするんだ。……言葉なんかじゃ、とても表現できないな。どんな聖女も女神も天使も、あいつには敵わないよ」 「……はぁ」 「だけど……悪女でも構わないな、この際。破滅させられても本望」 ごちそーさんです……。 「良かったな、積年の想いってやつを遂げられたんだろ?」 「ああ……そうだな、まぁ、嬉しいんだけどさ。なんか違うんだ」 「と言うと?」 「俺のものになった気が全然しない」 「…………、ヤった女はオマエの所有物になるんかい」 「そういう意味じゃないって」 「いや、わかってはいるけど突っ込まずにはいられなかった」 だけど多分、紙一重なんじゃないかと邪推してみたり。 「……ほんっと、なんでこんなに好きなんだろうな。他の男を好きな女なんか」 「だからこそ、じゃないのか? その、彼女に、想い続けている男が居るから、手に入らなくて嫉妬して、余計に惹かれる……とか」 「あぁ……全く無いとは言わないけど、あんまり関係ねぇな、たぶん」 「おまえの『ファム・ファタール』は、そんな難攻不落の女なわけだ」 「そりゃもう、鉄壁の城塞、絶壁の砦。容姿はウェヌス、知能はミネルヴァ、性格はディアナみたいな女だよ」 うわ、ベタ褒め。日本でわかりやすくギリシャの読み方で言うならウェヌスがアフロディテ、ミネルヴァがアテナ、ディアナがアルテミス。要するに知的で潔癖な美少女ということなんだろうか。でも、『そーゆーカンケー』になったなら、鉄壁とか絶壁とか言わないんじゃ……。それとも、身体を許しても心は許さないってやつなんだろうか。どれほど想われても、自分を振った男以外、目に入らないのだろうか? 「でもさ、おまえは彼女に失恋の話をされたんだろ? 良かったじゃないか。定石(じょうせき)どおりなら、十中八九つきあえるって」 「……どうだかな」 「珍しい。弱気じゃん」 「こんなパターン、今までなかったからなぁ……だいたい、もし、つきあえたって、終わるかもしれないだろ?」 「…………、つまり、彼女とは終わりたくないと?」 「え? ああ……うん、そうだな……つぅか、絶対離さねぇな、つきあったら。やだっつっても誰にも渡さない」 「逆に嫌われるんじゃないかそれ……」 「ああ、それが怖くて、大事にしすぎて触れない気もするんだけどさ」 「触ったんだろーが」 「まぁ確かに全身くまなく触ったけどな」 こら。否定せんかい。 「それでも飽きなかったわけだ」 「むしろ余計にハマったよ。まさか俺が女に夢中になる日が来るなんてなぁ……」 ライトなつきあいとは言え、大学入学当時から八年半も続いていれば、お互いの長所も短所もそれなりにつかめてくる。よって、こいつが女にもてるってのは納得いかないんだけど、その一方で、妙に納得してしまったりも、しないこともないのだ。……回りくどいのは俺の複雑な心情の所為ってことで。 要するに、たぶん女を惹きつける一種の引力のようなものがあるんだろう。 幸か不幸か、俺は高原と女の子の趣味が異なり、また俺を好きになってくれる子は総じて高原が好みではないようで、結果、こいつに嫉妬も羨望も抱かずに済んでいるんだけど……普通に考えたら彼女を紹介したくない男である。 がしかし、たとえ俺の彼女が高原に惚れたとしても、そんな女には目もくれないであろうことも、想像に難くない。他人のものを奪うことに至福を感じるようなつまらない人間では無いし、そもそも、こいつはつきあっている相手を蔑ろにするような人間を認めない傾向があるからだ。……こういうのも、浮気はしないが本気もしないーってやつなんだろうか。 「ほんっと、なんでこんなに好きなんだろうなぁ……」 そう呟く高原の髪を、初夏の風が撫でていく。 遠い瞳はきっと、俺の知らない女性を映しているのだろう。 「一回きりの関係ってことじゃ、ないんだろ?」 「さぁな……。一応、次に会う約束は取り付けてきたけど」 こいつに迫られて堕ちない女なんて、いるのかねぇ。 ……さっきの言葉と矛盾しているかもしれないが、そう思うのも本当なんだ。 少なくとも、嫌われているわけではないようだけど……どう転ぶかは、俺にも全く見当がつかない。 まぁ、俺は見守らせてもらうとしよう。 あの高原昂貴が、女に本気になった姿ってやつを、さ。 * * * * * ……いやはや、しかし。 その一ヵ月後、俺が高原の『ファム・ファタール』である『絶世の美少女』と知り合うことになるとは、このとき、想像もしてなかったな、ほんと。 ![]() と言うわけで、昂貴の友人、浅井君視点でしたー。 第一章と第二章の間のできごとなので、なんだか初々しいですな(笑)。 で、その次のお話が第六章ラストの浅井君視点になるわけですハイ。 ![]() First Section - Side Story The End. 2005.06.30.Thu. * Rosy Chain * ![]() * メッセージをお願い致します *
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