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天使の安らぎ/ゴセイ


 快く迎え入れられたことに、ハイドは安堵した。
「久しぶりだな、ハイド。元気そうじゃねえか」
 部屋に入るよう促し、アグリは目を細める。連絡もなしに訪れたというのに、文句ひとつ言わない。玄関には男物の靴がひとつきり。モネは不在のようだ。
「モネはいないのか?」
「ああ、今日は帰らねえよ。近所の子たちと旅行行った」
「アグリはよかったのか?」
「野菜の様子も気になるしな。近所のじいちゃんたちの手伝いもあったし」
 進められるままソファに落ち着き、差しだされるまま緑茶をすする。少し苦みはあるが、抜ける香りが心地よかった。
 対面に腰を下ろしたアグリが湯飲みを手にする。
「いきなり来るなんてめずらしいな。なにかあったのか?」
 ついに来たか、その話題が。
 情けないことなのでできれば先延ばしにしたかったが、そうすることになんの意味もないことはわかっている。へたにごまかそうとすれば、こちらが焦るほどに気を回しまくったアグリが、意味不明な方向に自爆する可能性もあるし。
 ひとつ咳払いをし、ハイドは口を開いた。
「実はな。研究室の人間が、みんなインフルエンザやノロやその他もろもろで倒れてしまってな」
「よくわからねえが、大丈夫なのかよ?」
「ああ、教授と俺だけがすこぶる元気だ。本題に入るが、手元不如意なんだ。悪いが、なにか食べさせてくれないか」
 アグリが目をまん丸に見開く。ハイドの言葉を咀嚼するような間があった。
 湯飲みを置き、ああ、とアグリはうなずいた。気が抜けたように笑う。たぶん、ものすごく悪い事態を想定したのだろう。
「どうせなら泊まっていけよ。ときどきアラタも来るんだぜ」
「すまん」
「気にするなって。困ったときはお互い様だろ。今日はひとりだし、なに作るか悩んでたんだ」
 手土産ひとつ持たずに来たことが申し訳なくて仕方がない。買いたくとも買えなかったし、名水を汲んで持ってくるのはなにかが違う気がした。そもそも、交通費すら出せずにここまで飛んできたのだ――そこまで突っこまれなくてよかった――抱えた水を落としでもしたらシャレにならない。
 アグリが冷蔵庫を確認しに行く。
 ランディック兄妹の住む部屋で、こうしてゆっくりと過ごしたのは初めてだ。たいていはアラタやエリがいたし、モネはハイドたちを落ち着かせてくれない。
 こぢんまりとして日当たりもよく、交通が不便であることをのぞけば、かなりいい物件であるように思えた。キッチンの扉の向こうで、アグリが鍋を取り出している。
「ミネストローネで嫌いなものないか?」
「ああ、ない。恩に着る」
「いいって。そんな風に言われたら気持ち悪いだろ」
 本当は、なにを作るかもすべて決まっていたのに、ハイドに気を使わせまいとして「なにを作るか悩んでいた」などと言ったのだろう。それをすっかり忘れていそいそと準備を始めるあたり、アグリはやはりアグリだ。
 少し早いけど、とエプロンを着ける後ろ姿に、天知家で過ごした日々が思い起こされる。
「ご近所づきあいも上々のようだな」
「ああ、ランディックの怪力が役に立ってるぜ。溝にはまったトラクターを引っ張り出してやったら、じいちゃんばあちゃん大感激でさ、こっちが驚いた」
 そりゃあ、おじいさんおばあさんも驚いただろう。
 アグリは決して体格が大きな方ではない。手や足ばかりが長くてひょろひょろとしている。それが、2トンもあるようなトラクターを軽々と道路に引き戻したのだ、驚きのあまりお召しが来かねない。
「その人たちからトマトをもらったんだろう?」
「なんでわかったんだ? ……あ、やっぱいい。まだ5時だけど、作ってもいいよな」
「ああ。洗い物はやる」
「客なんだ、じっとしてるのも仕事だぜ」
 鼻歌交じりに料理をはじめるアグリの横顔は穏やかだ。
 少なくとも今このときだけは平和なのだと、改めて思う。

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 日々を平和に過ごす護星天使たち。お兄ちゃんはたぶん料理上手です。






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