1.猫に勝つ【不二菊】 ベンチで一緒に二人で座っていた。 家にも帰らずこの寒空の中にいつまでもいる奇特な奴はいない。 見渡せば不二と英二以外は誰もいない。 いや、一匹の野良猫を除いては…誰も。 「ねー不二」 「なんだい?」 「もっと寄っていい?」 「あぁ。おいで」 英二のしているマフラーは長い。 これを一緒に巻こうと言ったのは不二だった。 二人で一緒に巻いたマフラーは個々でマフラーを巻くよりも温かい気がした。 二人だけの世界に浸りたいが故にベンチに座る。 だが野良猫がこちらに視線をやっていて気が散った。 すると向こう側からもう一匹の野良猫がやってきた。 にゃおと可愛らしい声で鳴くと、元からいた野良猫が振り返って見つめあう。 どうやら互いに好感を持ったらしく、二匹の猫もくっつき始めた。 自分達の方が仲良しだといわんばかりに猫達は強い眼差しで不二と英二にアピールし始めた。 「ふん。見せつけてくれんじゃん」 「やだなぁ、英二。猫と張り合ってどうするのさ」 「だってあいつらなんとなく自慢気なんだもん」 「君もそういえば猫みたいなもんだったね」 やっぱり縄張り的な意味でお互い対立し合う生き物なのかなと呟きながら、不二はさらさらの髪を風になびかせ英二の肩に頭を預けて寄り添った。 英二はこのとき猫と張り合ってるのはむしろ不二の方だと思った。 だがそんなことを口に出して言っても仕方ないので英二は黙っていた。 すると不二はゆっくりと英二の方を見る。 吸い込まれそうな不二の瞳に思わず英二は息を飲む。 「…僕のこと、猫と同レベルって思ったんじゃないのかい?」 「何言ってるんだよ、そんなこと思ってないよ…いや思った」 「…やっぱり」 「いいじゃん。俺だってあいつらよりラブラブだって見せつけてやりたいし」 英二は不二にぎゅっと抱きついて猫達の方を見た。 するとそんな張り合いごっこには飽きたのか、二匹とも不二達のところに寄ってきた。 どうも食べ物を探しているようでベンチの下に置かれていたお菓子の袋に頭を突っ込んでいる。 餌付けはよくないと思いながらもこのまま黙って見ているのが辛いと思ったのか、英二はカバンから弁当箱を出した。 英二は昼食に残してしまった一口大のカツを取り出すと猫達に与えた。 猫達はうまそうにカツに夢中になっている。 「…やっぱり似た者同士は助け合うのかな?」 「不二、さっきと言ってることが違う」 「あはは…そうだね」 「お腹いっぱいで食べきれなかったの、どうせならこいつらの方が美味しそうに食べてくれそうだし」 英二は弁当箱をしまった。 これ見よがしに見せつけてきた二匹の猫は参りましたといわんばかりに地面に伏せて寝っ転がる。 英二は得意気になって猫にピースをする。 「猫にも愛を与える優しさ!菊丸英二様の完全勝利!」 「たぶん猫達は最初から勝負なんてしてなかったと思うよ」 「なんだよ~、不二だってさっきまで猫と張り合ってたくせにぃ」 不満たらたらに言うも不二に寄り添いながら英二は猫達を見ながら微笑んだ。 |
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