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設定→ショウコ:法学部大学生
   レイヴス:経済学部大学院生
場所→多分アメリカの大学
年代→現在

思いついて描いた小話です。っていうより、人物の性格だけ引っ張ってきた話。
それでもいいよというお心の広い方はスクロールしてご覧下さい。











『好きも嫌いも』



「話をするならもっといい環境があります。ここは授業を聞く場所です。出て行きなさい」
突然手を上げて教授に発言の機会を求めた女は後ろに座っていた数人の学生にそう言った。
試験の前だけ必死になり、カンニングが横行する学内で、随分古いことを言う。
その女は階段教室の三列目に座っていることを差し引いても、小柄な体つきをしていることが遠目にもわかる。
アジア系か。
彼らは真面目だ。時に行き過ぎるほど。
しかもそれを押し付ける嫌いさえある。
要領のいいものを嫌う。
その類かと思った。
しかし静まり返った室内で、女は少しも明瞭さを失わない声でいった。
一番出入り口に近い、つまり一番後ろの席にいたのではっきりとは見えなかったがおそらく笑っていたと思う。
「もちろん、時として先生のご高説は子守唄だということには同意します。
 静かにしていただけるなら、眠るも筆談するもあなた方の自由です」

唖然としてのは当事者だけではない。
教壇を支えにしていなければ、教授は転びそうなほど驚いていた。
しかし女は教授に対して講義の続きを促すと、何もなかったように座りなおした。








「子守唄とは、言ってくれるじゃないか」
「言葉のあやです。それに私には静かにしろという権利はあっても、真面目になれという権利はありませんから」
「そうだがね。まぁ君は奇特な学生だ」
「褒め言葉ですよね?ありがとうございます」

講義が終わった後に教授を捕まえようとしたが、あっさりと例の女に先を越された。
かれこれ30分たつ。
人がまばらになった教室で待っていると、ようやく教授が気が付いたので重い腰を上げて教壇に近づいていく。
「お久しぶりです。先生」
お世辞にもにこやかとはいえない態度に、女は一歩引いて場を空けた。
「おお。珍しい顔だな」
「久闊を叙する時間はありません。うちの教授が顔を赤くしてお待ちですよ」
この言葉に教授の顔がみるみる変わった。
そりゃそうだろう。
ゼミの担当教授は人事権を持つ古狸だ。
約束を忘れていたことをようやく思い出したらしい。
学部も違えばそもそも既に院に所属しているのに、法学教室に来たのは単なる使い走りだ。
「なっあ、あーー!」
「思い出していただけたようで幸いです。どうせチェスの続きでしょう?そんなことのためにエスコート役を仰せつかるのは御免被ります。さっさと行ってください」
たかがチェス。
されどチェス。
その約束を遂行させるべく研究室の人員を割くくらいだから、その没頭振りは推して知るべしだ。
多分賭けの対象なんだろう

「いや、しかし…」
言いよどむ教授の顔は横にたたずむ女に向けられた。
「私は大丈夫です。姉が過保護すぎるのですから」
「いやそういうわけにも…」
「子どもではないのですから。ね?」
会話から察するに、何か二人の間に約束があったのだろう。
しかしそれは関係のないことだ。
伝言役を終えたのだからさっさと退散するに限る。
そう思って背を向けたとき、思いついたとばかりに教授が肩をがしりと掴んだ。
「レイヴス!君が彼女を送れ」
「は!?」
話は理解できないが、巻き込まれたということだけは理解できた。
「ローガン国際空港までだ!近いだろう」
「ちょっと待ってください。なんで俺が…」
ふざけるなと思いつつも年齢差を考慮し強行的になれないのをいいことに、教授はあっさりと脅しをかけてきた。
「お前の単位なかったことにするぞ?要卒単位ぎりぎりで大学卒業だったな?」
「……卑怯な」
「褒め言葉だ!
 というわけで、ショウコ君。こいつを足にしたまえ」
そういい残すと、教授は足早に去っていった。

「あの……」
後に残されて、居心地がいいはずがない。
黒い髪に黒い瞳。典型的なアジア系だ。
肌は白いが、抜けるようなというわけではない。表現するなら乳白色とでもなるか。
微妙な空気を感じながらもかけられた声に、ため息で返す。
「10分後に正門前。車回してくる」
「そんなっ地下鉄もあるし、大丈夫です。ご迷惑をおかけするわけにはいきません」
「今更大学の卒業資格取り消されたくない。俺のためだ」
黒の瞳が揺れる。
しかしそれはきつい言い方に引いたのではなく、怒りが篭っているようだ。
こういう顔は悪くない。
ふと浮かんだ思考を振り払い、鍵を取りに研究室に戻るために歩き出した。





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