(黄→→→←黒)




地元駅はとっくに通り過ぎた。
途中でわざわざ乗り換えをして、半分無意識、残り半分はめっぽう意識してホームへと降り立つ。
改札口を出ると、この駅を拠点にしている私立高校の制服の学生たちとすれ違う。
女生徒の数人が、歓声のような声を上げながら振り返る。
どうしようもなく目立ってしまう自分には、隠れてコソコソと会いに行くなんて無理な話だ。

いや、会いに行くつもりはなかったのだ。
なんとなく、気づいたら足が勝手にそこへと向いていただけ。


体育館の外で立ち止まる。
中の様子を覗くまでもなく、ちょうど目的の少年がすぐさま視界に入る。
いつも見つけられなかった彼を、やっと見つけられるようになった。
もっと早く見つけられていたら、何かが変わっていただろうかと、未だにそんな感傷が胸に巣食っている。

首からタオルを下げ、滴る汗を拭いながら近づいて来る彼とすぐさま目が合った。

「黄瀬君」

また来たんですかと言われる前に、予防線を張ってみる。

「なんとなく、気がついたら来ちゃったっス」

ごめんね、と肩をすぼめて謝る黄瀬の前に立つ細い身体。
21㎝差の目線で、二人は向かい合う。

「まだ自主練習中なんですが……」
「あっ、特に用とかないから、オレこのまんま……」
「せっかくですから、ミニゲームでもやっていきますか?」

え?と聞き返す顔は、さぞかし間の抜けた顔だったろう。
黒子が遠慮のない上目遣いで、黄瀬の情けない表情を見上げている。

「イヤですか?」
「まさか! モチロンやるっス! つーか……いいの?」

オレ来てもよかったの?オレも一緒にやっていいの?
それは思慮とも分別とも違うけれど、そんな遠慮をしてしまうのは、そこに「他校生」という壁があるからだ。

「よくなかったら、最初から誘いません」

キミから壁を作るなんて、キミらしくないです、黄瀬君。

存在感の薄い黒子の、存在感の強い視線。
捉えて離さない強さに、黄瀬は息を呑んだ。

「そうっスね」

ひとつ、息を吐き出して、黒子の腰を抱く。

「遠慮なくやらせてもらうっス!」

ニッコリと笑みを返せば、腰に回した手を弾かれた。

「イテッ!」
「この手は遠慮してください」
「ヒドッ」

腰がダメなら背中、それでもダメなら肩と。
肩に回った腕を、黒子は特別に許容した。

自分と目線を合わす一瞬前の彼が、少し淋しそうだったから。
このくらいは許してあげようと思う。

淋しそうな目で見つめ続けられると、不用意にその手を、取ってしまいそうだから。








いつかその手を取ってほしい



思うのです



次は黄←黒(帝光時代)です





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